第18話 カグヤ

そういうわけで、サイリとみっちり練習して本番を迎えた。


「じゃあ、行こうか」

「うん」


時刻は朝9時。

サイリと駅で待ち合わせ。

二人とも同じタイミングで集合した。


「サイリはその服なんだ」

「うん。セーラさんと出会ったときと同じが良いかなって」


サイリの服は、黒のゴシック。

二人で謎解きイベントに行ったときと同じ服。


「私も黒にすれば良かったかしら?」


私の服は薄い緑の和柄シャツ。


「カグヤはその竹っぽい色が良いでしょ。カグヤって名前を覚えてもらいやすいし」


まぁ、私もそう思ってこれを着てきた。

カグヤという名前は便利である。

かぐや姫っぽい格好をしていけばすぐに覚えてもらえる。

和服っぽい柄ならだいたい通じる。


「サイリもすぐに名前を覚えてもらえるわよ」


可愛いし。


そんな話をしながら、セーラさんのスタジオに向かった。

セーラさんから送られてきた住所を頼りに二人でスタジオを探す。

そんなに難しいことはなかった。

スタジオはすぐに見つかった。


「こんにちは!」


サイリとわたしはスタジオに入る。

すると、セーラさんが迎えられる。


「いらっしゃい! 暑い中来てくれてありがとうね!」


私達はセーラさんに案内されて事務室みたいなところに通された。

お洒落なスタジオだ。

動画配信って、こういうところで撮影するのか。

見るもの全てがもの珍しい。

カメラやマイクといった配信機材。

PCもたくさんある。

セーラさん以外のスタッフも今日のための準備をしているのだろう。

ぱたぱたと歩き回っている。


「お招きいただきありがとうございます」


私とサイリはぺこりと頭を下げた。


「いやいやこちらこそ。可愛い女の子は大歓迎だよ!」


セーラさんはお茶を出してくれる。

それを飲みながら、今日することについて話を聞いた。

以前に話したときも思ったけれど、セーラさんは話すのがうまい。

淀みなく次から次へと言葉が並ぶ。

聞いている側もとても理解しやすい。

「セーラさんって話すの上手ですね」

「まぁ、配信しているからね。たくさん喋れば、話すの上手になるわよ。二人は話すの得意?」

「私は、そんなに」

「わたしもそんなに」


私はそんなに口がうまい方ではない。

そんな私に便乗してサイリは謙遜していた。


「サイリは話すのうまいですよ」


わたしがサイリの謙遜を潰す。


「ちょっと! 配信者を前にして話すのうまいなんて言うのは無理があるでしょ!」

「あっはっは! 二人とも仲が良いいわね」


セーラさんは私とサイリの話を聞いて笑ってくれていた。

そんな話をしつつ。


「こんにちは」

「どうも~」


女性が二人入ってきた。

二人とも女子高の制服だった。


「いらっしゃい。こちら対戦相手、『賢者の贈り物』の二人よ」


セーラさんが私達を紹介してくれる。

私達はぺこりと頭を下げる。


「あれ? 中学生?」

「……はい」

「すっごく可愛いわね! セーラさんどこでこんな娘を見つけてきたんですか?」

「わたしたちも私服で来た方が良かった?」


女子高の二人。

名前はイズミさんとヒヨリさん。

チーム名は『ステガノ』。

セーラさんの動画によく出演しているらしい。


「イズミさんとヒヨリさん! 動画でよく見ました!」


サイリは動画で見た人に会えてはしゃいでいた。

サイリはセーラさんの動画を全部見たらしい。

私は数本しか見ていないけれど、サイリは百以上の動画を何回も見たようだ。


「あら? 知ってくれているのね。なんだか恥ずかしい」


こんな感じで和気藹々としていた。

このまま談笑しているのも楽しいけれど。


「じゃあ、そろそろ始めましょうか」


セーラさんがゲームを開始しようと立ち上がる。

スタッフの人もぞろぞろとやって来た。


「では、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


私とサイリは『ステガノ』の二人と握手をした。

スタッフの人に連れられて別室に行く。


「こちらでお願いします」


通された部屋は小さい防音室。

テーブルの上にはノートPCプリンター。

それからカメラとマイク。

考えるためのペンと紙もある。

顔を照らすための照明もある。

これが配信のための部屋なのだ。

見慣れなくて落ち着かない。


「ここで暗号を考えるんですね」

「はい」


スタッフの人から機材の取り扱い方を聞く。


~~~~~~~~~~


暗号通信バトル

ゲーム名:パスワード17

プレイヤー:2vs2

4人はそれぞれ別室に行く。


1.プレイヤーは暗号の作成を行う(30分)

2.自分以外のプレイヤーの作成した暗号の解読を行う(3枚の解読に30分)

3.味方の暗号を解読出来た場合、1文字1点が加算される。

敵チームの暗号を解読出来た場合、1文字2点が加算される。

4.チームの合計点数の高い方の勝利(最大点102)


~~~~~~~~~~


「このPCで暗号文の作成をするんですね?」

「はい。開始の合図から30分で作成してください。その後、プリンターで3枚印刷してください」

「分かりました」


スタッフの人に細々としたことを確認していたら、開始時間が来たようだ。

ここから先は一人の勝負。

準備してきた成果を見せつけるとき。

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