第48話 カグヤ

→●カグヤ{2,3,5,6}

 〇セーラ{2,3,5}

 ●サイリ{7,8}

 〇トコヨ{6,7,8}


私の番。

私が考えるべきことはサイリをあがりにすること。

私よりサイリの方が枚数が少ない。

相手の番には私がカードを回収したい。

逆に私の番ですることは特にない。

どれを出しても一緒だ。


「はい。これで」


私はいい感じの笑顔を作る。

左手で2のカードを伏せて出す。

そしてこの回から暗号を換える。

事前にサイリと相談して決めてあった。

2周したら暗号を換える。

パターン1からパターン2へ。

指の暗号から言葉の暗号へ。


「カグヤは明日の予定は?」

「うちのひとびと次第かな? 用事ある人多そうだし」

「自分の家族のこと、ひとびとって言うの?」

「え? 言わない?」

「言わないわよ」


うん、私も言わない。

ひとびとって暗号文を送らないといけなったから、不自然な文章になってしまった。

まぁ、でも大丈夫でしょう。

暗号とは思われていないはず。

日本語が特殊な人だと思われているだろう。

…………それはそれで嫌かも。


「わたしの予想は5で」

「わたしは6で」


よし。

外れた。

これならまだサイリがあがりに一番近い。


「じゃあ、わたしは3で」

「OK。それでいいわ」


わたしは伏せられたカードをめくる。

表になったカードは2。

全員外れ。

この場合、2のカードは私に戻ってくる。


 ●カグヤ{2,3,5,6}

→〇セーラ{2,3,5}

 ●サイリ{7,8}

 〇トコヨ{6,7,8}


この2のカードをサイリが当ててしまうとサイリの枚数が増える。

せっかく2枚にまで減らしたのに、3枚になってしまう。

あがりから遠ざかってしまうのだ。

このゲームの難しい部分はこういうプレイングが必要になってくるところ。

サイリには事前に伝えていなかったけれど、きちんと判断出来て偉い。


「それじゃあ、わたしね」


セーラさんがカードを伏せる。

さっきまでの暗号はどうやら、サイリが見破ったらしい。

私は確信が持てていないのだけど、おそらく手の位置だろう。

しかし、私達が暗号を見破ったことも察されたので、違う暗号を使うはず。


「暗号はどうするの?」

「相手チームにばればれの状態で相談しないでよ!?」

「分かった。変更ね」


サイリさんは慌てていたけど、トコヨさんは落ち着いていた。

とりあえず暗号は換えるみたい。

さて、どんな暗号かな。


「ん、ん、ん~」


セーラさんはうなりながらカードを出した。

特に気になる動きはない。

何が暗号なんだろう?

さっきの唸り声かな?


「私は3で」

「わたしは2で」


私達は予想を宣言した。

私としては当てたい。

自分の手札を減らしたい。

ただ、サイリには外してほしい。

そのままあがりを目指してほしい。

けど。


「これは2だからサイリちゃんのものね」


トコヨさんは伏せられたカードを表にする。

2だった。

サイリの宣言した数。


「うむむ」


サイリの手札が増えてしまった。


 ●カグヤ{2,3,5,6}

 〇セーラ{3,5}

→●サイリ{2,7,8}

 〇トコヨ{6,7,8}


そしてセーラさんの枚数が少ない。

なんとかしてセーラさんのあがりを妨害したいところ。


「行きます」


サイリとしては何を出すか難しいところ。

セーラさんが何を宣言するか予想して、ぴたりと当てたい。

何とかしてセーラさんの手札を増やしたい。

そんなサイリはとても良い笑顔で私を見ていた。

右手でカードを伏せる。


「サイリは最近、面白いもの見つけた?」

「いや、なかなか読書も進まなくてね」


サイリが『なかなか』と言ったから3 or 8。

右手で伏せていたから8ということになる。


「わたしの予想は8で」

「わたしは7で」


セーラさんとトコヨさんが予想を発表する。

私は一安心した。


「では、8なのでこのカードはセーラさんです」


私はカードを表にする。

8のカードをセーラさんに渡す。

良かった良かった。

ここが一番大事な場面。


「むぅ」


セーラさんは悔しそうな声を漏らした。


 ●カグヤ{2,3,5,6}

 〇セーラ{3,5,8}

 ●サイリ{2,7}

→〇トコヨ{6,7,8}


「それじゃ、いくわね」


トコヨさんはカードをさっと伏せておいた。


「ねぇ、トコヨ。来週までの企画は考えた?」

「え~、と、と、と、と?」

「考えといてね!」


トコヨさんはとぼけていただけに聞こえたけど、今のは暗号だったんだろうか。

さっきまでと違って妙な手の動きもない。

暗号があるとしたら言葉だと思うのだけれど。


「私は8で」

「わたしは7で」


そう。

この手札状況ではこれが最善だ。

トコヨさんの8をセーラさんに渡したくない。

だからわたしは8を宣言して妨害する。

一方サイリはあがりを目指して7を宣言する。

暗号の中身が何であれ、これが最善のプレイングだと思う。


「じゃあ、このカードは6なのでわたしがもらうわね」


セーラさんがカードを表にする。

6のカード。

さっきまでセーラさんの方があがりに近かったのに、もうトコヨさんの方があがりに近付いている。

このゲーム難しいな。

考案したのは自分なんだけど。



→●カグヤ{2,3,5,6}

 〇セーラ{3,5,6,8}

 ●サイリ{2,7}

 〇トコヨ{7,8}

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