第8話 カグヤ
「あれ? おかしいな?」
「何か間違ったかな?」
「『広間の扉からやり直し』って表示されているわ」
「じゃあ、戻ってみる?」
「そうね」
スミレとツツジは一旦、広間から出て行った。
私とサイリは目を合わせた。
「さっきの人達、私達と同じ考えをしていたわよね?」
「ええ。わたしたちも煙突を覗こうとしていたし」
それがゲームオーバーだって?
何かを間違えている。
さっきの女子高生も私達も何かを間違えている。
何だ?
順当にここまで来たはず。
何を間違えた?
「サイリは、何か気になることあった? 私は順調にルートを辿ってきたと思っているんだけど」
「う~ん。一つ、気になることがあってね」
「あるの?」
私には気になることはまったくなかったが、サイリには違和感があったらしい。
「ここの謎解きってさ。五十音博士が遺産を隠すために作った謎解きだよね」
「そういう設定だったわね」
もうほとんど忘れていた設定だった。
「だから謎解きをたくさん作ったんだと思うんだけど。この広間の扉は変じゃなかった?」
「広間の扉?」
「『頭を後にずらせ』のこと?」
「そう。次の『手掛かりの最後の文字』もそうなんだけど、謎解きじゃなくて普通の指示だよね」
「そうね」
「謎解き好きな五十音博士がそんな普通の指示をするのかな?」
言われてみれば確かに。
急に普通の指示になったのは不自然といえば不自然だ。
「あの指示がおかしかったってこと?」
「指示を捉えたわたしたちがおかしかったかも」
「私達の方が?」
サイリが鋭いことを言う。
「わたしたちはあれを物理的な指示だと思って、甲冑の頭を外したよね。でもそれっておかしくない?」
「おかしいかしら?」
「だって『頭を後にずらせ』だよ。『頭を取れ』とか『頭を外せ』とかのほうが自然じゃない?」
確かに。
『ずらせ』って不思議な言い回しだ。
元の位置から水平移動させるイメージの言葉。
甲冑の頭を外すのは『ずらす』とは違う気がする。
「ということは、甲冑の頭を外すのは間違いだった?」
「多分ね。『頭を後にずらせ』というのは、甲冑のことじゃないのよ。別の謎解きの指示なのよ」
サイリは今までの手掛かりのメモを見直した。
そう。
『頭を後にずらせ』が甲冑の頭のことでないならば。
考えられるのは手掛かりの言葉だ。
チエ
きん
ウエスト
ねつ
いきもの
よこづな
わたりろうか
マティーニ
ユーモア
インストール
「これの頭文字が何かを示しているの?」
「そんな気はするんだけどね……」
頭文字を辿ってみても『ちきうねいよわまゆい』と意味の通る文章にはならない。
「これ、何かできるかな?」
「そのままだと意味は分からないわね」
「扉の指示が『後にずらせ』だから、ずらしてみようか」
私はメモに書いた五十音表を取り出した。
(ii)の謎解きを解いた時に使った五十音表だ。
あいうえお かきくけこ
さしすせそ たちつてと
なにぬねの はひふへほ
まみむめも やゆよらり
るれろわを ん
これを見ながら『ちきうねいよわまゆい』を後にずらす。
まるでシーザー暗号。
ずらす文字が1文字ずつなら難しいことはない。
すぐに解読できる。
私はずらした文字を書き並べる。
すると。
「『つくえのうらをみよう』」
意味の通る文章になった。
「…………」
「…………」
私とサイリは顔を見合わせた。
え?
すごい。
こんなことあるの?
答えを並べて、意味の通る文章を作れるんだ。
単語の最後は普通に意味の通る文章になっていて、頭の言葉は五十音をずらして意味を通す。
謎解きってすごいな。
感動してコメントに困る。
「すごくない?」
サイリが私に問いかける。
謎が解けた私達ではなく、問題を制作した人への賛辞。
「今日、来て良かったわ。誘ってくれてありがとう」
こんなタイミングで言うことではないかもしれない。
まだ謎解きの途中だけど、私はサイリにお礼を言った。
「えへへ」
サイリは満面の笑みを見せた。
本当に可愛い顔している。
それはそれとして。
謎解きを進めよう。
「机ってこれよね?」
部屋の中央にある大きな机。
十人以上が座れる机と椅子。
「机の裏を見れば良いのね」
「うん」
サイリが床に寝そべって、机の下に潜る。
机の裏を見る。
「QRコードがあるわ」
「読み取れる?」
「うん。いける」
サイリはスマホでQRコードを読み取る。
そして机の下から出てきた。
一緒にスマホの画面を見る。
『ボタンがある。押しますか?』
スマホの画面にはプッシュ式のボタン。
「押す?」
「押そう!」
わたしの確認にサイリがすぐさま応える。
サイリの指が画面のボタンを押した。
ピンポンっという軽快な効果音が鳴った。
「え?」
予想も指定な場所から音が下。
ずずずずずっと音を立てて、暖炉が動いている。
元あった位置から横にずれていく。
暖炉のあった位置に、隠し扉が現れた。
「すごい!」
「随分と派手な仕掛けね」
まさか謎を解いたら隠し扉が現れるなんて。
良い演出だ。
わくわくしてくる。
「行こう!」
サイリは私の手を握った。
わたしもサイリの手をしっかり握り返す。
一緒に隠し扉をくぐった。
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