第9話 サイリ

隠し扉をくぐると、そこは小部屋だった。

壁にQRコードが書かれている。

わたしはスマホで読み取った。

長めの動画が再生される。


「よくあの謎が解けたねぇ。私はさっぱり解けなかったんだがねぇ」


喋っているのはナビゲーターの後藤さんだった。

最初のムービーで説明をしてくれた人。

しかし、あのときは丁寧に喋っていたのに、今は随分とねっとりした喋り方をしてくる。


「調査員を招き入れては五十音博士の謎を解かしていたんだよぉ。間違うようなやつは用済みだからギロチンで殺す仕掛けも作ったんだよぉ。いっひっひっひひ」


いかにも悪役のような笑い方をする。

さっきの煙突を調べるとギロチンでゲームオーバーになる仕掛けは、この人の罠だったのか。


「この扉が開いたならもう充分だ。あんたたちも殺して五十音博士の遺産は私がもらう!」


後藤さんがそう言うと、ムービーが終わった。

そして画面に指令が表示される。


『迫りくる後藤から逃げろ!』


ここからは脱出ゲームになるようだ。

五十音博士の家から脱出する。

そのために謎解きして、鍵となるアイテムを集めるとのこと。

ただし時間制限があって、ある程度早く解かないと、後藤に襲われてやり直し。


そんな謎解きをたくさんしたけど、内容は省略。


全体で3時間くらいかけて五十音博士の家から脱出した。

最終的に五十音博士から「こんなに謎解きが出来る君達こそが、私の遺産だ」みたいな遺言をもらった。

迫りくる後藤は遺産が大したことないと落胆。

わたしたちは謎解きですっきりしてエンディング。

こうして無事、謎解きイベントを完了した。


「う~ん! 楽しかったね!」


わたしとカグヤは飲食スペースでアイスを食べていた。

わたしはさくらんぼアイスでカグヤは抹茶アイス。


「そうね。びっくりするほど面白かったわ」


カグヤも楽しんでくれていたみたいで良かった。


「超高難度コースでもちゃんと解けて良かったわね」

「結構ぎりぎりだったけどね」


確かにぎりぎりだった。

わたし一人では解けない問題もあった。

逆にカグヤ一人では解けない問題もあった。

わたし一人でも、カグヤ一人でも完全解答は出来なかった。

この謎解きは二人で成し遂げた成功なのだ。

初めての共同作業といえるかもしれない。


「他の謎解きイベントも行ってみたいわね」


今日はうまくいったけれど、もっと難しいのもあるかもしれない。

でも二人であーだこーだ言いながら解き進めるのはとても楽しかった。


「まぁ、でも。言葉遊びは苦手だわ」


カグヤは降参したかのように言った。


「そう? カグヤもちゃんと解いていたじゃない」

「でも、根本的な知識の面で足りていない気がしたわ。サイリがいたからちゃんと進めたけど、一人ならギブアップしていたかも」

「それはわたしもよ。カグヤがいなかったら途中で諦めたかも」

「お互い様だったのね。まぁでも次はもっとロジカルなやつが良いわ」

「ロジカル? 暗号とか?」


以前、カグヤが教えてくれた。

暗号と謎解きの違い。

謎解きは言葉遊び等を使って解くのを楽しむもの。

暗号は鍵を持っている人には簡単に読めるけれど、鍵を持っていない人には読みにくいもの。


「そうね。暗号とかパズルとか」

「やっぱりカグヤはそっちの方が好きなのね」

「ええ。そういうイベントがあったらサイリは一緒に来てくれる?」


珍しくカグヤの方からわたしにお願いをしてくる。

いつもデートに誘うのはわたしの方だから。


「もちろん!」


わたしは元気よく返事をした。

そういうイベントがあるかどうか。

帰ったら調べてみよう。

そんなことを思っていたら、突如見知らぬ人に声を掛けられた。


「ねぇ、君達。ちょっといいかな?」


大学生くらいのお姉さん。

目鼻立ちがくっきりしていて、日本人ではなさそう。

Tシャツにショートパンツという肌の露出が多い服。

肌の白さからしても日本人ではなさそう。

お姉さんからはミントの匂いがする。

シャンプーか香水か。


「はい? なんでしょう?」


わたしはとりあえずの返答をした。

お姉さんは手にアイス。

色からしていちご味。


「暗号で戦うイベントがあるんだけど、興味ない?」


そんな言葉でナンパすることある?

少しだけ不審に思ったけれど、楽しそうだと興味も湧いた。


「そうですね……」

「興味あります!」


わたしよりもカグヤが大きな声でくいついた。

お姉さんはにやりと笑った。


「わたしの名前はセーラ。動画配信をしているわ」

「動画配信?」


なかなかに胡散臭い自己紹介だった。

セーラさんはスマホで動画を見せてくれた。

自作のエンタメ系動画。

謎解きの企画をたくさんしているようだ。

登録者もそこそこいるようで、それなりに人気の動画配信者のようだ。

胡散臭い気もしたけれど、怪しい人ではなさそう。

信用してもよさそう。


「例えば、こういう暗号は解けるかしら?」


セーラさんはスマホを操作して暗号の画面を見せてくれた。


『暗号文:あこいんうやえはおかかれきーく → ?

 解読文:あまいなうつえびお → まなつび』

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