第7話 サイリ

というわけで九つの小部屋から手掛かりを集めた。


(i) チエ

(ii) きん

(iii) ウエスト

(iv) ねつ

(v) いきもの

(vi) よこづな

(vii) わたりろうか

(viii) マティーニ

(ix) ユーモア

(x) インストール


入り口の問題と九つの小部屋で合わせて十。

これを持って、奥の広間に行く。


「これが遺産の手掛かりになるのかな?」

「遺産だったら強固な金庫に補完すべきだと思うのよね」


カグヤは謎解きゲームに野暮な茶々を入れる。


「まぁ、謎解きが好きな人だから、こういう仕掛けもしたくなるでしょ」

「サイリは大事なものを隠すとき、こういう仕掛けをする?」

「ものによってはするかも? 楽しそうだし」

「共感できないわ」


ばっさりと言われた。

そんな感じのことを話して歩いていると、広間に着いた。

広間の扉にはQRコードが書かれていた。

スマホで読み取る。

こう書かれていた。


『頭を後にずらせ』


今回は謎解きの問題ではなく、指示だった。

頭とは何のことだろう?


「どうしよう?」


これだけ見ても何をして良いか分からない。


「とりあえず入ってみる? この扉開いているわよ」


カグヤが気付いて扉を開ける。

あっ、入って良いのか。

わたしとカグヤは広間に入っていった。


「かなり広い部屋ね」


いかにも豪邸の広間という感じの部屋だった。

十人以上が座れる机と椅子。

高級感溢れる絨毯やシャンデリア。

壁には壺や甲冑などの美術品が立ち並ぶ。

火はついていないが、暖炉まである。

暖炉から煙突も伸びている本格的なやつ。


「なかなか、派手な部屋ね」

「すご~い!」


謎解きイベントでこんなに豪華な部屋を用意したんだ。

この部屋で食事会でもしてみたいな。

貴族のパーティみたいで気分が良さそう。

まぁ、でも。

今は謎解きをしないとね。


「頭ってこれかな?」


カグヤが甲冑の方に近寄る。

鉄製の西洋甲冑。

剣を構えて仁王立ちしている。

結構怖い。

でもカグヤは恐れ知らずに甲冑に触れる。

この子強いな。


「この部屋にある頭っぽいものはそれくらいだね」


わたしは部屋をぐるりと見回す。

この部屋に頭らしいものはこの甲冑だけだ。


「よいしょ」


可愛い掛け声とともにカグヤは甲冑の頭を前にずらした。

甲冑の頭は簡単に外れた。

カグヤは甲冑の頭の中を覗く。


「何か書いてある?」

「文字が書いてあるわね」


カグヤが書いてある文字を読み上げる。


『手掛かりの最後の文字』


それは甲冑の内側に血文字で書かれていた。

手書きの雑な文字。

怖い。


「最後の文字?」

「今までに解いたやつかな?」


ここまでの答えを並べる。


    チ エ

    き ん

  ウエス ト

    ね つ

  いきも の

  よこづ な

わたりろう か

 マティー ニ

  ユーモ ア

インストー ル


最後の文字を辿って読む。


「「えんとつのなかにある!!」」


意味のある文章になった。

手掛かりとはこういう意味だったのか。

小部屋で集めた言葉を並べたら、キーワードが読み取れた。


「すごい問題ね」


カグヤは感心していた。


「よく作るわよね」


わたしもびっくりしていた。

謎解きってこういう仕掛けもあるんだ。

雑多な謎解きを並べているだけではないんだね。

あまりに驚いたので、わたしは椅子に腰かけた。

豪華な食卓用の椅子。


「疲れちゃった?」


カグヤが訊いてくる。


「びっくりして身体の力が抜けちゃった」

「丁度良い椅子もあるし、ちょっと休憩しようか」


カグヤは甲冑の頭を元に戻した。

他の参加者が解くときのために、復元して置かないといけない。

そしてカグヤがわたしの隣に腰かけた。

バッグの中からペットボトルのお茶を取り出して一口飲む。

わたしもペットボトルの水を飲んだ。


「今、どのくらいの進捗かな? もう、かなり終盤かな?」

「そうね。ここを超えたらエンディングかもね」


そんな話をしているときだった。

広間にわたしたちとは別の人が入ってきた。

女の子二人組。

わたしたちより年上っぽい。

女子高生かな。


「あっ、入れるのね」

「頭って何だろう?」

「あれ、あの甲冑じゃない?」


わたしたちと似たような会話をしている。

謎解き参加者だ。

同時に解いていっている。


「この甲冑の頭をずらすってこと?」

「そうでしょ」

「え? 怖くない? スミレがやってよ」

「しょうがないね。弱虫だね、ツツジは」

「うっさい」


女子高生の二人組はスミレとツツジという名前らしい。


「おっ、『手掛かりの最後の文字』だって」

「うわっ! 血文字とかこわ!」

「今までの手掛かりを見せてよ」

「これ?」


スミレとツツジはあーだこーだ言いながら謎解きを進める。


「こうじゃない?」

「ん~。『えんとつのなかにある』」

「えんとつって、あれか」


スミレとツツジは、暖炉を見つける。


「えんとつの中ってことは、ここを覗くのかな?」


スミレは暖炉の中に頭を突っ込んだ。

「何かある?」

「QRコードがあるわね」


スミレは暖炉の奥、煙突の中にスマホをかざしてQRコードを読み取った。


「おっ! 出た?」

「あれ? ゲームオーバーって出たわよ?」

「え?」

「煙突の中からギロチンが降ってきて、首を斬られてしまったって」

「え!?」


スミレとツツジはスマホの画面を見て不思議がっていた。

それを聞いていたわたしとカグヤも顔を見合わせた。

スミレとツツジはわたしたちと同じ行動をしていた。

わたしたちも次に、えんとつの中を覗こうとしていた。

それが。

ギロチンエンド!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る