第27話 サイリ
わたしとカグヤは待合室で皆さんが作った暗号を解読することになった。
「二人で一緒に、一つずつ解読していこう」
カメラからそれぞれの作成した暗号を読むことが出来る。
というわけで、最初に挑むのはチーム『セキュア』からスミレさんの暗号。
『暗号文 やきつちもるえみにごんだぜかのきあ
解読文 がんなんぎるえこきてちおとおのきあ → ぎんなんがおちてきこえるあきのおと』
解読した後の文が『銀杏が落ちて聞こえる秋の音』というふうに秋の俳句になっている。
わたしたちのときは夏の俳句だったから、秋の俳句にしたのだろう。
それはそうと。
「どこから考えよう?」
わたしたちの作成する暗号みたいにヴィジュネル暗号だと思って考えるか。
「まずは文字数のチェックね。解読前も解読後も17文字よ」
カグヤが解読の指針を話す。
暗号は基本的に、文字を入れ換えるか並び替えて作成する。
暗号文が17文字より多かったら解読は大変。
でも17文字ぴったりなら、解読前と解読後は1対1対応しているだろう。
「じゃあ、対応している文字を並べてみようか」
わたしはペンでメモに書く。
『が』→『ぎ』
『ん』→『ん』
『な』→『な』
『ん』→『ん』
『ぎ』→『が』
ここに法則を見つけないといけない。
でも同じ文字があって分かりづらいな。
文字が五十音にずれているとしたら0文字ずれているってこと?
わたしはあれやこれや考えていた。
そのとき、カグヤが気付いた。
「これ、あれだね。シーザー暗号やヴィジュネル暗号みたいな文字を置き換えるやつじゃないわ」
「え?」
「並び替えているだけだわ」
そう言われて、わたしは解読文を読み返す。
すぐに気づいた。
『がんなんぎ』→『ぎんなんが』
『るえこきてちお』→『おちてきこえる』
『とおのきあ』→『あきのおと』
この暗号は並び替えただけ。
全体をひっくり返したわけではない。
五七五ずつに区切って、逆にしている。
「これ、すごく簡単じゃない!」
びっくりした。
今からヴィジュネル暗号を解くぞって思っていたわたしにとっては肩透かしも良いところだった。
「そうね。かなり簡単な暗号ね」
「こんな簡単で良いんだ?」
自分とは別チームとはいえ不安になる簡単さだ。
「前回の私達がシーザー暗号とヴィジュネル暗号だったから、それを逆手に取ったんでしょうね。換字式の暗号だと思って解読しようとすると答えにたどり着けないわ」
「なるほど。そういうひっかけか」
「実際、サイリもヴィジュネル暗号だと思って解き始めたでしょ? それであーだこーだやってうまくいかなかったら相当時間くっちゃうわよ」
「そうね」
実際にわたしは気付くのが遅れた。
今はカグヤが気付いてくれたけど、自力で並び替えに気付くのは時間がかかるかも。
味方1本、敵2本の解読にかけられる時間は30分。
「それにこれなら味方は1分で解読できるわ。他の解読に時間をかけようと思ったら良い作戦かもね」
確かに時間配分を考えるなら、並び替えだけもありか。
でも暗号としての強度は不安だ。
「ねぇ、カグヤ」
「どうしたの?」
「わたしたちが暗号を作るときなんだけど。ヴィジュネル暗号で文字を換えた後、並び替えをしてみない?」
それはごく自然な発想。
ヴィジュネル暗号と並び替えを混ぜてみる。
「それね。私も思ったんだけど……」
「だけど?」
「味方が解読するのも大変なのよね」
「ああ~」
そうか。
それがあるのか。
「手順が増えると、味方のミスも増えるわ。この間はサイリに円周率を覚えてもらったけれど、ああいう数字の羅列を利用して暗号を作成することも可能よ」
「でも、ミスをする可能性が増えると」
「そうなの。円周率17桁ってぎりぎりだと思わない? あれが100桁だったらミスなく覚えるのも難しいでしょ」
「そうね。100は厳しいかも」
途中で間違える自信がある。
「暗号は味方への単純化も重要よ。私の感覚だと、味方の暗号は5分以内に解けるようにしたいのよね」
「5分かぁ」
ヴィジュネル暗号の解読は、換字表を見ながら文字をずらしていく作業だ。
17文字分あるからけっこう大変。
確かに5分でぎりぎりかも。
「でも順番を丸ごと逆にするくらいなら出来そうじゃない?」
さすがに順番を完全にぐちゃぐちゃにすると、ぐちゃぐちゃにした順番も覚えないといけないし、並び替えるのも大変だけど。
まるっきり逆さにするぐらいなら出来そうな気がする。
「そうね。作戦として考えておきましょ」
カグヤは自分の手帳にメモを書いた。
もしかして日頃から思いついた作戦をメモしているのか?
まぁ、わたしたちがプレイヤーとして参加するのがいつになるかは分からないけれど。
「じゃあ、次の暗号を解読しよっか」
「そうね」
チーム『セキュア』からツツジさんの暗号
『暗号文:わいをいをほをろれろへいとろへろかほちほをにりにへいれいわいといぬろ
解読文:へいとろといれにぬろへほりろついたいをいへはわほへほりほといぬいそに→あきかぜにおちばがまうよおとかなで 』
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