第26話 カグヤ

今回はパスワード17のプレイヤーとしてではなく、観覧者として呼ばれた。

どうやら私達以外の2ペアがパスワード17で対戦するようだ。

私とカグヤは再びセーラさんのスタジオにやってきた。


「いらっしゃい!」


セーラさんが笑顔で迎えてくれた。


「呼んでいただきありがとうございます」

「いやいや。こちらこそ来てくれてありがとうね。君達の評判良くてね。これからもいっぱい来てほしいな」

「わたしたちの評判って良かったんですか?」

「ええ。とっても良いわよ。友達に何か言われなかった?」

「そうですね、いろいろ言われましたよ。流石の賢さだとか、竹原一中の誇りだとか言われましたね」


サイリは友達が多い。

夏休み中でも友達からいっぱい連絡が来るのだろう。

対して私は友達がいない。

この夏休みに連絡を取ったのはサイリだけだ。


「カグヤちゃんのことをずっと話していた部分も本当に使って良かったの?」

「ええ。勿論です。相変わらずだねって言われました」


そう。

サイリは学校でも私のことが好きだとアピールしまくっている。

私とサイリが付き合っていることは周知の事実。

サイリの竹原一中にもわたしの竹原二中にも知れ渡っていること。


「あなたたちって本当に仲が良いのね。付き合っているの?」


セーラさんが率直に訊いてくる。


「ええ。そうなんですよ」


サイリは同意した。

それと同時に、わたしの頭を両手で捕まえる。

怪しい気配を察したので、私はサイリの両手を振りほどいた。


「今、キスしようとしたでしょ?」

「えっ、だめ?」

「だめ」


流石に人前でははばかれ。


「あっ『賢者の贈り物』の二人だ!」


スタジオの奥からやって来た人に声をかけられる。

大学生くらいの女の人。

どこかで見たことがあるような顔だった。


「どうも」


私とカグヤは軽く頭を下げる。


「動画見たわよ。可愛い二人よね」


女の人は早速褒めてくれた。


「わたしもトコヨさんを動画で見ました! とっても賢いですよね!」


サイリは女の人の名前を知っていた。

私はサイリにだけこっそり訊く。


「もしかして私が見た動画にも出ていた?」

「カグヤも何回か見ているわよ」


そうだったか。

出演者の顔はあんまり意識していなかったけど、見たことある顔で間違いなかった。

トコヨさんね。

名前をちゃんと覚えておこう。


「今回のパスワード17はね、わたしとトコヨで組むの」

「セーラさんとトコヨさんですか」

「チーム名は『RSA』よ」


私はそれを聞いて驚きを隠せなかった。


「まさかこのパスワード17でRSA暗号を使うんですか?」

「使わないわよ。さすがに手で計算するのは無謀だからね。名前だけ借りたのよ」


今度はサイリが私に耳打ちする。


「RSAって何?」

「暗号の種類よ。かけ算やかわり算を組み合わせて暗号を作るの」

「へ~」

「現代では600桁ぐらいの素数を何回も計算して解読するわ」

「600ぐらいじゃなくて、600桁!?」


現代のインターネットでも採用されているような暗号だ。

かなり強固。


「対戦相手はどなたですか?」


私がセーラさんに訊く。

今回私達は観戦するだけ。


「あっ、今ちょうど来たみたい」


セーラさんがそう言うと、入口の方から二人の女の人がやってきた。


「こんにちは!」

「もう、人がいっぱいですね」


その二人の顔には見覚えがあった。

トコヨさんの顔は覚えていなかったけれど、この二人の顔は覚えていた。

ちらっと見ただけだけど、間違いない。


「あの、謎解きイベントで一緒にやっていた人ですよね?」


私は確信を持って訊いてみた。


「あっ、そうそう。謎解きイベントで会ったよね? 動画で見たときからそんな気はしていたんだ」

「そうよ。この四人はあのイベントのときに出会って誘ったから」


私とサイリが謎解きイベントに行った日。

頭をずらす広間で休憩していたら、やって来た二人。

名前はスミレさんとツツジさん。

そうか。

あのときセーラさんは私達の他にも誘っていたのね。


「スミレさんとツツジさんは女子大生よ。チーム名は『セキュア』よ」


こんな感じで各々の自己紹介をした。

そしてこの6人でわいわいと話していた。

主にこの間の謎解きイベントについて、あの謎が良かったみたいな話。

それはそれで楽しかった。


「じゃあ、そろそろパスワード17を始めましょうか」


セーラさんが撮影の準備を始める。

スタッフさんに連れられて各々の配置に着く。

私達もスタッフさんに言われて、待合室に通される。

待合室にはモニターがいっぱいだった。

全員の暗号作成の様子が見られるようになっている。


「ここで、皆さんが作る暗号を解読してくださいね」


スタッフの人はそれだけ伝えると待合室から出て行った。

待合室には私とカグヤの二人。


「やっぱり撮影って緊張するね」

「今日は私達は映らないわよ」

「人のを見ているだけでも緊張するのよ」


そんな話をしつつ。


「それではパスワード17。『RSA』と『セキュア』の対戦開始です!」


スタッフの人が合図をした。

ゲームがスタートした。


スミレさんの暗号


『暗号文 やきつちもるえみにごんだぜかのきあ 

 解読文 がんなんぎるえこきてちおとおのきあ → ぎんなんがおちてきこえるあきのおと』

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