第25話 サイリ

『問題:Aさんは箱の中に宝石を入れ、遠く離れたBさんに郵送で宝石を渡したい。

 しかしこの国は治安が悪く、南京錠をかけた箱でないと途中で中身が盗まれてしまう。

 南京錠をかければ箱ごと盗まれることはなく安全に郵送することができる。

 しかし南京錠をかけたままだと鍵のないBさんは開けられない。

 だが、南京錠・鍵・宝石はそのまま郵送しようとするとそれごと盗まれる。

 どうすれば安全に宝石を郵送できるだろうか? 』


カグヤは画面を凝視しながら考えていた。

わたしは既に答えを知っている。

だから答えを言わないように黙っていた。

うかつに喋ってヒントになるようなことも言いたくない。

可愛いカグヤの顔を眺めていることにする。


「喋りたかったら喋っていいわよ?」


そんなわたしの心情を汲み取ったのか、カグヤの方から口を開いた。


「カグヤは可愛いわね」

「問題の方じゃないのかい!」


突っ込みが入る。

まぁ、それは2割冗談なんだけど。


「今、どう考えている?」


カグヤの真面目な思考を訊いてみる。


「まずAさんが宝石を送るとBさんに届く前に盗まれる。南京錠をかけて送るとBさんに届くけど開けられない。鍵を一緒に送ると鍵を盗まれる。これが基本的な構造よね」

「そうね」


カグヤは紙とペンを構えた。

気付いたことをグラフのような形で絵にしていく。


「まぁ、普通に考えたら無事に宝石を送る方法は無さそうね」

「やっぱり無さそう?」

「考える余地が少ないのよね。できる行動が何を送るかっていうことだけだから」


そう。

この問題は何を送るかの問題に見える。

送るものは、箱、宝石、南京錠、鍵の4種類。

何を送るか、どう組み合わせて送るかの問題に見える。


「考えにつまっちゃった?」

「うん。こういうのは一度イメージしたもので思考が固まっちゃうんだよね。ここから別の発想をする必要がありそうね」

「別の発想?」

「1回で送るのは難しいから、2回に分けて送るかな」


順当な考えだった。

ただ、それだけだとうまくいかない。

1回目で宝石を南京錠をかけて送って、2回目で鍵を送ろうとしても鍵が盗まれてしまう。

かといって鍵の方に南京錠をかけたらBさんが開けられない。

結局、鍵を安全に郵送することができないのだ。


「できそう?」

「分けて送っても鍵がどうしようもないわね。往復させてみるか」

「おぉ!」


流石のカグヤだった。

そこまでの思考になるのが早い。

カグヤはペンを走らせる。

「できたわ」


カグヤはわたしに解答を見せる。


『1. Aが宝石が入った箱に南京錠(a)をかけてBに郵送する。

 2. Bは箱を受け取って南京錠(b)をかけてAに郵送する。

 3. Aは箱にかかった南京錠(a)を外してBに郵送する。

 4. Bは箱にかかった南京錠(b)を外して宝石を受け取る。』


整った字で理路整然と書かれていた。


「やっぱりカグヤはすごいね」

「答え合わせをしようか」


カグヤは一時停止をしていた動画を再生する。

動画の解答解説が始まる。

カグヤの解答通りだった。


「完璧ね」

「うん。いいわね。もっともっとやりたい」


カグヤの中で火が付いたようだ。

動画のクイズにどんどん挑戦していく。

わたしはそんな素敵なカグヤを眺めていた。

そんな感じで、動画3本分のクイズをしたところ流石に疲れたらしい。

カグヤは机にぐてっと突っ伏した。


「サイリ、おやつない?」

「いいよ。持ってくる」


わたしは一旦部屋から出る。

冷蔵庫からアイスを取りだす。

わたしはさくらんぼ味で。

カグヤはスイカ味で良いか。

両手にアイスを携えて、部屋に戻る。

するとカグヤは一人で動画を再生していた。


「何これ?」


カグヤが再生していた動画はわたしが映っていた。

わたしがカメラの前で喋っている。

ああ、あれだ。

パスワード17の待ち時間で、暇だったからひたすらカグヤについて語った映像だ。

パスワード17の動画本編に採用されてはいなかったけれど、おまけ映像として別動画がアップされていたようだ。

動画では、わたしの熱弁が繰り広げられている。


「これ、動画にあがるんだね」

「あがるんだね、じゃないわよ! 何を恥ずかしいことを言い広めているのよ!」


カグヤは流石に文句を言ってきた。

まぁ、それはそう。

いきなり「ツンデレみたいなところがあって」みたいなことを動画で公開されるのは恥ずかしいかもしれない。


「でもしっかりカグヤが可愛いって話をしているわよ?」

「それはそれで恥ずかしいわよ!」


カグヤはわたしの背中をぽんぽん叩く。

カグヤは力がない。

本人としてはかなりの力を入れているつもりなんだろうが、まったく痛くない。

それに、恥ずかしいと言いつつも、わたしに褒められて嬉しそう。


「カグヤは待っている時間は何をしていたの?」

「え? ぼーと考え事をしていたけど? この先どういう展開になるとか、今日の感想を訊かれたら何て応えようかとか」

「カグヤもせっかくだからカメラに向かって話せばよかったのに」

「何を話すのよ? 視聴者に向けて話したいことなんかないわよ」

「話したいことならあるでしょ? わたしのどういうところが好きかとか」

「話すわけないでしょ!?」


そんな話をしている最中だった。

セーラさんからメールが来た。


「パスワード17の観戦をしない?」

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