第28話 カグヤ

「何、これ?」


サイリは暗号の見た目からして驚いていた。

私達が今まで扱ってきたものよりはるかに長い。


『暗号文:わいをいをほをろれろへいとろへろかほちほをにりにへいれいわいといぬろ

解読文:へいとろといれにぬろへほりろついたいをいへはわほへほりほといぬいそに→あきかぜにおちばがまうよおとかなで』


スミレさんの暗号は簡単なものだったけど、ツツジさんの暗号はとても難しそう。


「これはなかなか厄介ね」

「どうするの?」

「とりあえず文字数を数えようか」

「解読前が34文字で解読後が17文字よ」


ちょうど2倍か。


「そうすると考えられるパターンは2つ。1つは17文字は撹乱させるためのただの捨字という可能性」

「捨字って?」

「た抜きの『た』みたいなやつ」

「ああ、無視して良い文字ってことね」


そう思って、解読文を見てみる。


『解読文:へいとろといれにぬろへほりろついたいをいへはわほへほりほといぬいそに→あきかぜにおちばがまうよおとかなで』


解読前の文章から何文字か抜いたところで、解読後の文章になる気配はない。


「こっちのパターンは違いそうね。じゃあ、考えられるパターンの2つ目は2文字で1文字に対応させるパターンよ」

「2文字で1文字に対応させる?」

「ローマ字みたいなやつよ」


私はルーズリーフに書いてサイリに見せる。

『ka』→『か』

『si』→『し』

『tu』→『つ』

基本的なローマ字。


「これを使うの?」

「そう。この理論を使うわ。これはアルファベットを使ったけれど、これの代わりに日本語が入っていると考えるの。例えば、『へい』→『あ』とか『とろ』→『き』とかいう感じね」

「2文字を1文字に置き換えるのね」


歴史的に言うなら上杉暗号と呼ばれる暗号がこのタイプの暗号だ。

この暗号はたしかに解読しにくい。

敵に解読されないという点では強い。

ただし、味方も解読が大変なんだよなぁ。

スミレさんはこれをささっと解読できる自信があるのだろう。

解読文から、対応する文字を予想する。


『へい』→『あ』

『とろ』→『き』

『とい』→『か』

『れに』→『ぜ』

『ぬろ』→『に』

『へほ』→『お』

『りろ』→『ち』

『つい』→『ば』

『たい』→『が』

『をい』→『ま』

『へは』→『う』

『わほ』→『よ』

『へほ』→『お』

『りほ』→『と』

『とい』→『か』

『ぬい』→『な』

『そに』→『で』


これが暗号文でも合っていると仮定して当てはめてみる。


『わい』

『をい』→『ま』

『をほ』

『をろ』

『れろ』

『へい』→『あ』

『とろ』→『き』

『へろ』

『かほ』

『ちほ』

『をに』

『りに』

『へい』→『あ』

『れい』

『わい』

『とい』→『か』

『ぬろ』→『に』


これで6文字は分かった。

確実に対応しているのはこの6文字だけ。

他の文字はここから予想していかないといけない。

どうやって考えようかな?

そのとき、私のメモを覗いたサイリが口を開いた。


「ねぇ、カグヤ」

「どうしたの?」

「これ、暗号化した方の2文字目なんだけどさ」

「うん」

「『い』と『ろ』と『ほ』が多くない?」


そう言われて私は数えてみた。

解読文と暗号文合わせて数える。

『い』14『ろ』8『ほ』7『に』4『は』1

サイリに言われてから気付いた。

2文字目は5種類しかない。


「まさかここで頻度分析をするとは思わなかったわ」

「頻度分析?」

「前にもちらっと言ったけど、暗号文にどの文字が多いかを手掛かりにして考えていくの。暗号解読の方法として有名な方法よ」

「へ~」


実際には数千文字とか数万文字の単位でやる解読方法なのだけど。

その考え方がここで活きてくるのか。

2文字目の5種類。

これはもしかしたら母音か?

ローマ字だと思って考えてみよう。


『へい』→『あ』→『ヘa』

『とろ』→『き』→『ki』

『とい』→『か』→『ka』

『れに』→『ぜ』→『za』

『ぬろ』→『に』→『ni』

『へほ』→『お』→『へo』

『りろ』→『ち』→『ti』

『つい』→『ば』→『ba』


横にローマ字を並べてみると分かりやすくなった。


「これ、ローマ字に全部対応させることができるわね」


そう気づいた私は換字表を書く。


あいうえお → へ+いろはにほ

かきくけこ(k行)→ と+いろはにほ

さしすせそ(s行)→ ち+いろはにほ

たちつてと(t行)→ り+いろはにほ

なにぬねの(n行)→ ぬ+いろはにほ

はひふへほ(h行)→ る+いろはにほ

まみむめも(m行)→ を+いろはにほ

やゆよ (y行) → わ+いろはにほ

らりるれろ(r行)→ か+いろはにほ

わ   (w行)→ よ+いろはにほ

がぎぐげご(g行)→ た+いろはにほ


これで解読出来そうだ。

ランダムに見えた平仮名も、こうしてみると規則が分かる。

いろはにほへとちりぬるをわかよた

いろは順に、ローマ字を対応させていっている。

ここまで分かればあとは解読できる。



ツツジさんの暗号

『暗号文:わいをいをほをろれろへいとろへろかほちほをにりほへいれいわいといぬろ→やまもみじあきいろそめてあざやかに』



トコヨさんの暗号

『暗号文:・- --・- ・-・・ --・ ・-・・ ・・ ・-・・ ・---・ ・・ -・-・ -・・-- --- -・--・ ・・-・・ --・-- -・-・・ ・-・・ ・・ ・・・- -・--・ 


解読文:・--・ -・-・・ ・・-・- ・・-- -- --・-・ ---・- ・・ ・-・・ -・-・ ・-・ --- -・・・ ・・ --・-- -・-・・ ---- ・・ ---- ・-・- → つきみのよしずかになればあきごころ 』

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