第29話 サイリ

分かるけど分からないみたいな感想が生まれた。


トコヨさんの暗号

『暗号文:・- --・- ・-・・ --・ ・-・・ ・・ ・-・・ ・---・ ・・ -・-・ -・・-- --- -・--・ ・・-・・ --・-- -・-・・ ・-・・ ・・ ・・・- -・--・ 


解読文:・--・ -・-・・ ・・-・- ・・-- -- --・-・ ---・- ・・ ・-・・ -・-・ ・-・ --- -・・・ ・・ --・-- -・-・・ ---- ・・ ---- ・-・- → つきみのよしずかになればあきごころ 』


そうか。

こういうのありなんだ。


「モールス信号ね」

「モールス信号よ」


カグヤと適当な確認をする。


「平仮名しか使っちゃいけないのかと思っていたわ」

「ルールには記載されていなかったからね。漢字や記号もありはあり」

「カグヤは使おうとしなかったんだ?」

「暗号が難しくなり過ぎちゃうからね。味方も解読するのが大変」


確かに暗号に『~』とか『@』とか混じってくると、解読はしんどそうだ。

それにしてもモールス信号だ。


「これを解読するの?」

「そうみたいね。私としては、暗号とは認めたくないところだけど」


暗号は鍵を知っていれば簡単に解読できるもの。

ただこれはモールス信号を知っているかどうかの話。

簡単に解読出来る方法なんてない。

カグヤにはそのこだわりがあるらしい。


「これ、トコヨさんもセーラさんもモールス信号を覚えているってことよね?」

「そうみたいね」

「カグヤは覚えてる?」

「いいえ」

「わたしも知らないのよね」


モールス信号。

トン(・)とツー(-)だけで通信するために作られた文字コード。

1800年代にアメリカで考案された。

船との無線通信や、照明機器のオンオフでの通信に利用されていた。

という基礎知識はあるのだけれど、肝心の読み方は知らない。


「これ、知識なしで解読するのは厳しいわよ?」

「だよね~」


モールス信号を知らないのであれば換字表を自力で作成するしかない。

わたしとカグヤは換字表の作成に取り掛かる。

パスワード17は解読文が示されているので、解くための手掛かりはある。

頑張ろう。

わたしは手掛かりを書き並べる。


・--・   →つ

-・-・・  →き 

・・-・-  →み

・・--   →の

--     →よ

--・-・  →し

---・-  →す

・・     →゛

・-・・   →か

-・-・   →に

・-・    →な

---    →れ

-・・・   →は

・・     →゛

--・--  →あ

-・-・・  →き

----  →こ

・・    →”

----  →こ

・-・-  →ろ


ここからモールス信号のパターンを推測しないといけない。

分かりやすいのが『・・』が濁点だということ。

他はトンツーが4文字だったり5文字だったりするので規則性が見えづらい。

そもそもパターンがあるのかな?

何の規則もない割り振られ方をしている可能性もある。


「とりあえず暗号文の分かるところを埋めていきましょう」


カグヤは暗号文を書き並べる。


・-    → 

--・-  →

・-・・  →か

--・   →

・-・・  →か

・・    →゛

・-・・  →

・---・ → 

・・    →゛

-・-・  →に

-・・-- → 

---   →れ

-・--・ → 

・・-・・ → 

--・-- →あ 

-・-・・ →き 

・-・・  →か

・・    →゛

・・・-  →

-・--・ →


これで分かったのは7文字。

解読文にあるのと同じ並びの平仮名は確定できる。


「でも、もうちょっと解読したいよね?」

「そうね。でもモールス信号のパターンが分からないから、これ以上考えようがないのよね」


ちなみに後で調べて分かったこと。

モールス信号のパターンの割り当ては、英語の出現頻度をもとにしてトンツーが決められた。

例えば『E』は出現頻度が高いので『・』の1文字が与えられる。

反対に『Q』は出現頻度が低いので『--・-』の4文字が与えられる。

日本語のモールス信号はアルファベット順といろは順を無理矢理対応させて作られた。

よって日本語のモールス信号は本当に規則がない。

この状態から予測するのは不可能だった。


「日本語から予測する?」

「最終的にそうするしかないわね。最後の5文字は『あきが○○』だから適当に2文字入れてみよう」

「『あきがきた』とか?」

「『き』は『-・-・・』だから『・・・-』が『き』でないことは確かね」

「そっか。既に分かっている文字は違うことが確定しているのね」


絞り込みには重要な示唆だけど。

わたしたちにはそれ以上のことは分からなかった。


「これはお手上げね」

「わたしたちもモールス信号を覚えてみる?」

「ん~、無理して覚えると、途中で間違う危険があるからやりたくないな」

「確かに」

「やっぱり暗号は、味方が楽に解読できるのも重要なのよ」

「そうね。モールス信号を一から全部覚えるのは大変よね」

「これは解読できなくても仕方ない」


仕方ないとは言っていても、カグヤは解読できないことがとても悔しそうだった。



後で確認した解答。


『暗号文:・- --・- ・-・・ --・ ・-・・ ・・ ・-・・ ・---・ ・・ -・-・ -・・-- --- -・--・ ・・-・・ --・-- -・-・・ ・-・・ ・・ ・・・- -・--・ → いねかりが かぜにゆれると あきがくる』



セーラさんの暗号。

『暗号文:めのや”そまちぬおきてい”をさゆこよひ 

解読文:さゆも”たぬきうぺいをもちしらてよ”く → あきびよりさんぽするひとみなえがお』

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