第33話 サイリ

二人でいろいろ考えて、決勝の日を迎えた。


「こんにちは!」

「お邪魔します」


わたしとカグヤはセーラさんのスタジオにやって来た。

3回目ともなると慣れたものだ。


「いらっしゃい! 今日も暑いね」


8月終わり。

そろそろ夏休みも終わる時期。

暑くてとろけそう。

わたしは桜の香りの制汗スプレーを浴びた。


「カグヤもいる?」

「んっ。じゃあ、もらう」


カグヤもわたしからスプレーを受け取って浴びた。


「それじゃあ、早速始めよっか」

「はい!」


わたしは元気よく返事をした。

カグヤは周囲をきょろきょろしていた。


「……トコヨさん来ています?」


そういえば、トコヨさんって前回は遅刻してきたんだっけ?

ここに姿はない。


「あっ、ちゃんと来ているわよ。呼んでくるね」


セーラさんは奥の部屋に行った。

すぐにトコヨさんを連れてくる。

連れて来られたトコヨさんは暗い顔をしていた。


「『賢者の贈り物』の二人だ! おはよう!」

「おはようございます……?」

「顔色悪いですよ?」


トコヨさんは眠そうな顔をしていた。

かなり明るく挨拶をしてくれたけど、無理しているのが分かる。

とりあえず挨拶をしたけれど、大丈夫か不安になる。


「ちょっとダメそうね」


セーラさんもトコヨさんを連れてきたはいいけど、不安になっていた。


「昨日、暗号の勉強をしていたら面白くて徹夜してた」

「チーム戦なんだから、トコヨ一人が勉強しても意味ないのよ?」

「このパスワード17の勉強じゃなくて、個人的な勉強をしていたのよ。戦時中のドイツ軍の暗号の歴史とかを見ていたの」

「前日なんだから、パスワード17の対策をしなさいよ!」


トコヨさんは相変わらずマイペースだった。

ちなみに戦時中のドイツ軍の暗号の歴史はわたしたちも勉強した。


「ちょっとメイクしてくる……」


トコヨさんはメイク室に向かって行った。

すると、セーラさんはわたしとカグヤの顔をじっと見た。


「どうかしました?」

「う~ん。せっかくだし、二人もメイクしてみよっか?」


それはとてもありがたい話だった。

中学生なのでメイクをする機会はあまりない。

わたしもカグヤもメイクの仕方を知らないし。


「ぜひ!」


というわけでわたしとカグヤもメイクをすることになった。

トコヨさんのメイクが終わってから、わたしがメイク室に入る。

そこにはメイク担当のスタッフさんがいた。


「サイリちゃんだね。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げる。

なんだか緊張してきたな。

姉の化粧道具を触ってみたことはあるけれど、こんなに本格的なメイクをするのは初めてだ。


「メイクは初めて?」

「はい、何も知らないです」


正直に言った。

わたしも来年には高校生だ。

今度調べておいた方が良いかもしれない。


「じゃあ、簡単にメイクの基本から説明するわね。まずベースメイクね」


メイク担当のスタッフさんが丁寧に説明してくれる。

わたしにとっては知らないことばかりなので、驚きの連続だった。


「これは、何に使うんですか?」

「こうやって眉毛を整えるのよ」

「いろいろあるんですね」


30分くらいかけてしっかり教えてもらった。


「よし、完成!」


わたしの顔が完成した。

けばけばしくない薄いナチュラルメイク。

アイシャドウとマスカラでちょっと目が大きく見えるようになった。

チークもほんのりで塗っているかどうかわからないレベル。

色付きリップも、血色が良く見える程度の桜色。

部分部分ではほとんど変わらない顔色なのに、全体で見ると雰囲気が大きく変わった。

顔が明るくなったというか、パワーが増した。


「すごいですね。なんか別人になったみたいです」

「そう? 元の顔が良いからね。ちょっと整えるだけで自然に可愛くなるわよ」


スタッフさんにいっぱい顔を褒めてもらって、メイク室を出る。

ちょうど、別室でメイクをしていたカグヤも終わったタイミングだった。

メイク後のカグヤと目が合う。


「か、かっっわいい!!!!!」


わたしはカグヤを抱きしめた。


「ちょ、ちょっと、サイリ!?」



カグヤは狼狽えていた。

しかしわたしは肩を掴んで至近距離でカグヤの顔を見る。

カグヤのきめ細かな肌が鏡のように光を跳ね返している。

目がいつもより丸く大きく見える。

唇もとっても美味しそうな桃色。

え? 

すごい!

わたしの彼女、めっちゃ可愛い!


「ちゅーしていい?」


わたしはカグヤに顔を寄せる。


「また後でね」


カグヤはわたしを振りほどいた。

セーラさんの待っている部屋に戻る。

わたしはちょっと物足りなかったけど、後でならキスして良いという言質はとったので良しとする。


「あっ、二人ともおかえり。可愛くなったわね」

「やっぱり中学生はがっつりメイクよりもそのくらい自然な方が良いわね」


セーラさんもトコヨさんもわたしたちのメイク顔を褒めてくれた。


「それじゃあ、始めましょうか」


わたしたちはそれぞれの部屋に行く。

パスワード17決勝戦。

チーム『賢者の贈り物』対チーム『RSA』の対戦。


「それでは、パスワード17。スタートです!!」


セーラさんの合図があってゲームがスタートした。

わたしにお題の紙が手渡しされる。


「よし!」


わたしはささっと暗号を作った。


サイリの暗号

『暗号文:のうくてまばくけぬわぬうぐいとぱろ 

 解読文:そめさほをよげよめぼだきやみさぢが →ふゆのよるほしがまたたくゆめのなか 』

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