第50話 カグヤ

→●カグヤ{2,3,5,6}

 〇セーラ{2,3,5,6}

 ●サイリ{7}

 〇トコヨ{7}


私は最高の笑顔をカグヤに見せる。

そして左手でカードを伏せた。

5のカード。


「カグヤは、このゲームを考えるのにどのくらいかかったの?」

「自分で考えたのは1時間くらいかな。細かいところはセーラさんとやりとりして詰めたし」

「すごい頑張ったんだね」

「まぁね」


この頑張った暗号ババ抜きもそろそろゴールが見えてきた。


「暗号換えちゃったか」


トコヨさんが呟いた。


「トコヨはさっきまでの暗号なら分かったの?」


セーラさんが訊く。


「うん。多分だけどね。言葉の中にそれっぽいのがあったから」

「…………よく気付いたわね」

「でも、このタイミングで換えられたら対処しようがないわね。仕方ないから予想は3で」

「じゃあ、わたしは2で」


二人は数を宣言した。


「これは6で」


そう。

サイリは数を間違えるのが正しい。


「それで良いわ」


わたしは伏せられたカードをめくる。

皆に5であることを確認してから、自分の手札に戻す。


 ●カグヤ{2,3,5,6}

→〇セーラ{2,3,5,6}

 ●サイリ{7}

 〇トコヨ{7}


「じゃあ、わたしの番ね」


セーラさんがカードを伏せて出す。

これが決勝ターン。

ここでサイリが外せば、私達の勝ち。

重要な場面。


「ねぇ、セーラ」

「ん、ん、ん、ん~?」

「暗号って、必ず出さないと駄目?」

「そうね。暗号バトルだから、暗号を出さないと趣旨に合わないし」

「そうだよね~」


トコヨさんはこの後の展開が見えているかのよう。

すでに諦観している。


「もしかして、解読出来てる?」


セーラさんは私に訊いてきた。


「はい。そのカードも分かります」

「え!? カグヤ分かったの?」


私の宣言にサイリが驚いていた。


「サイリは分からなかった?」

「相槌に何かあるような気がしたけど、そのカードが何かまでは分からないわ」

「相槌?」

「ん~、っていうやつ。英語だとフィラー」

「フィラーっていうのね」


それは私も知らない。

ともかく『ん』の数に意味がありそうということは掴めていたのね。

もう最後だし説明しても良いか。

ここまでセーラさんとトコヨさんが使った暗号は


「ん~、ん、ん」が8

「ん、ん、ん~」が2

「え~、と、と、と、と?」が6


ポイントは伸ばす音と言い切る音。

このパターンの暗号をかつて見たことがある。


「モールス信号、ですよね?」


わたしはセーラさんに確認する。

セーラさんは笑顔で頷いた。


「え? パスワード17のときも出てきたわよね?」

「そうそう。トコヨさんが使っていたわね」


モールス信号。

トン(・)とツー(-)だけで通信するために作られた文字コード。

1800年代にアメリカで考案された。

船との無線通信や、照明機器のオンオフでの通信に利用されていた。

という基礎知識はある。

パスワード17のときに、セーラさんが使っていたから、ちょっと調べた。


「カグヤったらいつの間に覚えたの?」

「全部は覚えていないわ。ただ数字のモールス信号は分かりやすいから、一度見たら覚えるわよ」


1 ・-

2 ・・-

3 ・・・-

4 ・・・・-

5 ・・・・・

6 -・・・・

7 -・・・

8 -・・

9 -・

0 -


これを口で表現していたセーラさんとトコヨさん。

最後のセーラさんが出した暗号は「ん、ん、ん、ん~?」だから、答えは明白。


「カグヤちゃん、答えは?」


セーラさんが答えを催促する。


「3ですね」


私は堂々と宣言する。

トコヨさんは、おお~っと言って拍手してくれた。


「正解よ」


セーラさんは伏せられたカードを表にした。

まだサイリとトコヨさんの宣言がなかったけれど、もう気にしなくて良かった。

表になったカードは3。

私の手札の3と合わせて場に捨てる。


 ●カグヤ{2,5,6}

 〇セーラ{2,5,6}

→●サイリ{7}

 〇トコヨ{7}


サイリはいい感じの笑顔で私と目を合わせた。

そして右手で場に7のカードを出した。

あがり。


「チーム『賢者の贈り物』の勝利です!」


スタッフの人が私達の勝利を宣言してくれた。


「よし!」

「やった!」


わたしとサイリは両手をあげて喜んだ。

セーラさんとトコヨさんも含め、周り人達は拍手してくれた。

パスワード17のときは引き分けで、不甲斐ない思いをしたけれど。

今回は全身全霊を込めたプレイングで、しっかり勝つことが出来た。

とっても嬉しかった。

サイリと目を合わせる。

サイリもとても喜んでいた。

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