第31話 サイリ
「チーム『セキュア』52点! チーム『RSA』78点! よってチーム『RSA』の勝利です!」
スタッフさんが結果発表をした。
全員苦笑いをしていた。
『RSA』が「やったー! 勝ったー!」とか『セキュア』が「うわぁ! 負けたぁ!」みたいなリアクションは無かった。
お互いに低過ぎる。
思っていたより低い点数だった。
みんなで「あれ? おかしいな?」みたいな感じで目配せをしている。
「セーラ、モールス信号間違えたの?」
「いや、覚え間違いも発生するわよ! ていうかトコヨもいろは順を間違えてない?」
セーラさんとトコヨさんはお互いに解いた暗号を確認する。
味方の暗号も予想以上に間違えていた。
「あれ? ゐとかゑとか抜くんだっけ?」
「そりゃそうよ! 暗号文に旧字体があったら、いろはってバレちゃうじゃない!」
「ああそっか。そういえば、そんなことを言っていたわね」
「解読文に旧字体が混じっている時点でおかしいでしょ! 思い出しなさいよ!」
セーラさんとトコヨさんはひたすら言い合っている。
スミレさんとツツジさんは『RSA』の暗号が難しかったねって言い合っていた。
わたしはというと、紙に計算を書いていた。
「何を書いているの?」
カグヤに訊かれた。
「参考記録よ」
わたしとカグヤが解読した文字数。
スミレさんの暗号17文字
ツツジさんの暗号17文字
トコヨさんの暗号 9文字
セーラさんの暗号17文字
合計60文字。
全部相手チーム換算だと120点。
圧勝だった。
「まぁ、ただの参考記録ね」
「そうね」
本当に対戦するんだったら、味方チームの解読は点数が低いからこんな点数にはならないけど。
でも、わたしたちはよく解読できた方だろう。
もし参加していたら難なく勝っていた。
「それでは勝利した『RSA』の二人に話を聞いてみたいと思います」
スタッフの人がインタビューを開始した。
トコヨさんとセーラさんが感想を語りだす。
「それでは、ご視聴ありがとうございました!」
セーラさんが締めの言葉を告げる。
動画を締めるときの挨拶。
「はい、収録完了です。お疲れ様でした!」
収録の終わりが告げられて、撮影していたカメラが停止する。
周りのスタッフも一息ついてリラックスした雰囲気になる。
「サイリちゃんとカグヤちゃんも来てくれてありがとうね」
セーラさんがわたしたちに声をかけてくれる。
「こちらこそ、呼んでいただいてありがとうございます。楽しかったです」
わたしはそう言って頭をぺこりと下げた。
カグヤも合わせて頭を下げる。
「それで今日は『RSA』が勝ったから、『RSA』と『賢者の贈り物』で後日、決勝戦をしたいんだけど良いかな?」
それはわたしにとってもカグヤにとっても嬉しい話だった。
「ぜひ! やりたいです!」
カグヤが真っ先に賛同した。
わたしも頷いた。
「じゃあ、日程の調整をしようか」
セーラさんとカレンダーを見ながら相談する。
決勝戦の日程はすぐに決まった。
一週間後。
「ルールは今までと同じですか?」
「うん。今までの2試合の総決算をしたいから、とびっきり強い暗号を用意しておいてね」
セーラさんの言葉でカグヤに火が付いたのが隣にいるわたしにも伝わった。
「はい! 頑張ります!」
「うん。わたしたちも本気で準備して取り掛かるから、良い試合にしようね」
「え? そんな頑張らないとダメ?」
セーラさんとわたしたちとの会話にトコヨさんが割り込んできた。
「ダメ。今度は本気で準備するから。今回事前の打ち合わせ時間5分だったじゃない!」
「むしろ5分であれだけ出来たことを誇るべきじゃない?」
「トコヨが遅刻してこなかったら、2時間打ち合わせが出来たのよ!」
いろいろと動画を見ていて感じたことだけど、トコヨさんはかなりマイペースなようだ。
撮影にもしょっちゅう遅刻してくるらしい。
「まぁでも、せっかく中学生が来てくれたんだし、本気出しちゃおっかな」
「トコヨの本気って何よ?」
「線文字Aとか書くよ?」
「それはわたしにも読めないのよ!」
トコヨさんはずっとボケたことを言っている。
線文字Aは、紀元前15世紀頃にクレタ島で用いられていた文字。
未解読。
人類史上、誰も読めていない。
「それはともかく。サイリちゃんにカグヤちゃん。期待していていいわよ。お姉さんはとっても頭が良いんだから。とびっきりの暗号を見せてあげるわ」
実際に、トコヨさんが頭が良いことは動画を見て知っている。
だから疑うことはないのだけど。
「あなた、今日、頭が良いところ一つも見せられていないわよ?」
セーラさんの突っ込みが入る。
「モールス信号を完璧に覚えていたわよ?」
「味方にも伝わらないような暗号を作るんじゃないわよ!?」
そんなセーラさんとトコヨさんの会話を見ていると、仲の良さが感じられてとても良い。
セーラさんが動画で見せる顔は真剣に問題に取り組むものが多いけれど。
その裏側がこんな感じだとほっこりする。
「トコヨさん、トコヨさん」
カグヤが呼びかけた。
「何かな?」
「トコヨさんって頭が良いんですよね?」
「ええ、もちろん!」
トコヨさんは胸を張って答えた。
「今日の暗号はどのくらい解けたんですか?」
「うっ!?」
トコヨさんは悲鳴のような声をあげた。
カグヤの指摘が刺さったようだ。
チーム『RSA』は78点。
セーラさんと二人合わせても大して解けていない。
「ていうか、トコヨは全然解いていないじゃない!」
セーラさんはスタッフさんに得点の内訳を確認していた。
『RSA』の得点は12+14+34+18で78。
そのうちトコヨさんが解いたものは14点のみ。
残りは全部セーラさんの得点だった。
「いやぁ、難しかったね」
トコヨさんは笑顔で舌を出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます