第31話 騎士団長家の都合

※前書き

 長かったので3話に分割しました。

 本日、朝昼晩の3回アップします。

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■オレステ視点


俺の家は代々騎士団長を排出している。

騎士団長は世襲ではない。実力で勝ち取っている。

おじい様も父もその実力を認められ、騎士団長へ抜擢されている。


おじい様が騎士団長だった時、一点の汚点があるという。

魔物の大量発生に対し、初動が遅れ、被害が出そうになったという話だ。

出そうであって出ていない。

それはある魔術師により防がれた。

【混沌の魔女】マチルダ。

今はコルンブロ家に嫁いでいる。


マチルダは闇魔術を駆使し、魔物を混乱させ同士討ちを誘い、魔物の進行を防いだ。

そのおかげで国民に被害は出ていない。

しかし、到着の遅れた騎士団は、国民から厳しい批判を受けた。

別に騎士団も遊んでいたわけではない。

訓練に警邏、魔物の討伐と忙しく働いていたのだ。

モンスター大量発生の情報を受け、それに向け急ぎ準備を始めた。

ただ組織である都合上、人を集め、移動計画を立て、物資を集める。

それだけでもかなり時間がかかってしまう。

むしろ数日内に到着できたのは早いとすら言える。

それを理解してもらえないのはとても悔しく思う。


「あの魔女がいなければ……」


そう語ったのはおじい様の側近であった騎士だ。

マチルダがいなければ騎士団は喝采をもって迎えられたことだろう。

おじい様の経歴に汚点としても残らなかった。

襲われた街にも僅かだが騎士はいた。


「騎士と兵たちが協力していれば数日は十分防げただろう」


その騎士は悔しそうにそう語った。


「混乱の闇魔術などと言う邪悪で卑怯な手段は、魔物相手とはいえ使うべきではない。正々堂々戦うべきだ!」


……確かに相手を混乱させる魔術というのは卑怯な気がする。

仮に真剣勝負の際、俺がそんな手段で負けることになったら納得できないだろう。

この事についておじい様自身は何も言わない。

だが、卑怯な手段で功績を得たマチルダのせいで無能と責められたのは悔しかったに違いない。

それに黒目、黒髪のものは悪魔の子で忌み子であるという噂もある。

闇の魔術が悪魔の力だとしたら使うべきではないだろう。


父も一つ汚点があると言う。

両陛下が観覧された剣術の天覧試合。

そこで父はある女性に負けたという。


父に勝ったのはアウグスタという女性だ。


「団長が負けたのは卑怯な手段を使かわれたからだ。きっとそうに違いない!」


父の側近はそのように言っていた。


「女に団長が負けるわけが無いんだ!」


側近はそう続けた。

剣を一緒に鍛錬している中には女もいるが実際そんなに強くない。

同年代なら男が勝つ。

父は騎士団の中でもかなりの実力者だ。普通に闘って女に負けるわけがない。

マチルダは卑怯な魔術を使い、魔物に勝利している。

それらを考えるとアウグスタも卑怯な手段を使ったと考えるのが自然なような気がする。


女は卑怯で弱く、それに負けるのは恥。

実際、周囲の騎士も同じ意見の者が多い。


俺は剣術にかなり自信があった。

闘気も習得し、身体強化も行える。同年代では負けはない。

大人相手でも引けを取らない。

そう思っていた。


セコンド王子に仕える側近たちの顔合わせ。

今後、このメンバーで動くことが多くなることだろう。

俺は王子を将来的に軍事面で支えることを期待されている。

それには警護も含まれる。

もちろん、護衛の騎士は他にいる。

しかし、護衛がいない時間帯、場所というのも存在している。

いざというとき、どの程度動けるんか把握しておきたい。


(警護のため、剣の腕はどれくらいか確かめておこう。)


俺は王子に全員と剣の手合わせをしたいと願い出た。


オッツォとフルヴィオは年相応の実力を持っていた。

闘気こそ使えないが基礎は出来ている。

驚かされたのはセルジュだ。

俺以外に同年代で闘気を身に着けている者がいたとは!

しかも手合わせで俺を圧倒してみせたのだ。

俺が何をどのように打ち込んでもセルジュに軽くいなし返される。

俺の剣はそんなに分かりやすいだろうか?


「オレステ、剣技自体は君の方が上手いよ。ただ、闘気の扱い方に問題がある。」


セルジュが言うには俺の闘気から攻撃を予測しているらしい。

闘気がどのように動くかで次の攻撃が丸わかりだと言う。

実際に闘気の流れを読むやり方を教えてくれた。

目に闘気を集め、相手の闘気を見れるようにする技法を教わった。

するとどうだ! 体の動きに先じて闘気が動くのが見れた。

なるほど。これは凄い。どのように打ち込んでくるかが丸わかりだ!

しかし、それを俺に教えてよいのだろうか?

普通ならそれは門外不出の奥義のような技術だ。

どの家も自らのアドバンテージとなる技術の流出を許さないものだが。


「……これは師匠が言うには闘気を扱う戦闘の基礎らしい。それに味方に教える分には何も問題ないよ。」


味方……か。確かにこれから王子を盛り立てていく仲間だ。

そこで変に競い合っても仕方がない。

協力した方が良いに決まっている。

しかし、その考え方はなかなか出来るものではない。

セルジュは信用にたる人物に見えた。


そのセルジュが自分より妹が強いと言う。

身内贔屓だとしてもそれはいただけない。

女に負けるのは恥だ。

俺が女より弱いなどとは認められない。


オッツォの提案で実際にあって実力を確かめてみることになった。

セルジュはあれこれ渋っていた。

やはり身内贔屓でそこまでの実力はないのだろう。

俺を圧倒したセルジュが女より弱いなどありえないからな。


コルンブロ家に到着し、家族一同から挨拶を受けた。


「ルアーナと申します。殿下をはじめ皆さま方にお目通りが叶い光栄に存じます。」


黒髪黒目の小柄な少女が淑女の礼した。

この子がセルジュより強い?

そんな風には感じない。やはり身内贔屓と言ったところか。


セルジュの父親であるリヴィオ殿にルアーナと試合をすることの了解を得て、訓練所へ移動する。

女と男が戦うというのに一切止められなかった。……心配じゃないのか?

ルアーナ嬢も小首をかしげながらも二つ返事で了承した。


「え? ルアーナと試合したいのかい?」


そう言った時のリヴィオ殿のなんとも言えない表情が気になる……。


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