第32話 地雷原でタップダンスを踊る者
訓練場に移動し、ルアーナ嬢と向き合う。
ルアーナ嬢はドレスから運動の出来る動きやすそうなシャツとズボン姿に着替え、木剣を手にしている。
「剣での勝負ということでよろしいですか?」
「あぁ。君はどんな卑怯な手段を用いてもそれを打ち破って見せよう。」
出来れば正々堂々戦いたい。そのような手段は無駄だという意味をこめて言った。
「卑怯な手段?」
ルアーナ嬢は怪訝な顔をにじませる。
とぼけているのか?
「君の母親は【混沌の魔女】マチルダだろう? なんでも混乱の闇魔術という卑劣な手段で魔物を討伐したとか。」
「「あ゛?」」
一瞬、淑女とは思えないドスの聞いた声が聞こえた気がしたが気のせいか?
背後からも聞こえた気がするが?
「混乱の闇魔術はどこが卑劣だと言うのですか?」
ルアーナ嬢が先ほどより静かに、能面のような顔で聞いてきた。
「正面から戦わずに混乱を誘って同士討ちさせるなど卑劣だろ?」
「当時の母は闇系統の魔術しか使えませんでした。己の持てる力を最大に生かし民を救うことのどこが卑劣だと言うのですか?」
「そもそも闇系統の魔術など使う必要はなかったんだ。その街にも数名だが騎士はいた。兵士と協力してことに当たれば十分押しとどめることは出来たんだ。」
「精神を操る闇系統の魔術は忌避されるものです。神もそのような魔術を望んではいないでしょう。」
俺の言葉に追従するようにフルヴィオが告げた。
「黒目黒髪の者は魔物を呼び寄せるという話もあります。マチルダ氏がいなければそもそも魔獣に襲われなかったのでは?」
フルヴィオが言った内容は確かにどこかで聞いた覚えがある。
「……それはどのような根拠で? 何か証明できるものはあるのですか?」
ルアーナ嬢はより一層感情を押し殺したような無表情でフルヴィオに問うた。
「神聖魔術は聖なる物、それを対を成す闇の魔術は邪悪なものなのです。それをその身に宿す黒目黒髪の者たちに魔物が集まる。これは世の中の真理です。」
「……はぁ~~。それで本日は皆さまは私と母を侮辱しにやってきたのですか? 手合わせというのはそれの口実ですか?」
ルアーナ嬢は大きくため息をつき、隠そうともしない侮蔑をこめた眼差しで俺たちを見渡した。
「いや、手合わせが目的というのは本当だよ。君の実力をぜひ見てみたいんだ。フルヴィオも控えて。」
セコンド様が慌てて仲裁に入るようにして言った。
その言葉を受けて無言でセルジュを見つめるルアーナ嬢。
「……俺よりルアーナの方が強いと言ったのだが信じて貰えなかったんだ。」
「……なるほど。分かりました。」
「それでは僕が審判をやるね。」
オッツォがそう名乗り出て、俺とルアーナ嬢の間に立つ。
「……オレステ様は私が卑怯な手段を用いるとお考えのようです。そこで一つ提案があります。―― 一撃です。その一撃でオレステ様を倒せなかったら私の負けというのはいかがでしょう?」
「「え?」」
俺たちが戸惑っている間にルアーナ嬢は手に持っていた木剣を後ろに投げ捨てた。
「木剣すらいりません。」
「お、おい! それはどういう――」
「木剣に細工をしていた――などと言われては困りますからね。誰もが勝敗を疑わない圧倒的実力差を見せつけてやります。」
「えーっと? ルアーナ嬢は魔術で戦うということかな?」
「闇魔術は卑劣なのでしょう? 素手に決まっています。――もちろん闘気は使いますけど。」
オッツォの問いにルアーナ嬢は堂々と答えた。
闘気ありでの試合を素手で?
「素手だと? 木剣を持った俺に素手で勝つというのか? 木剣とはいえ、あたれば怪我ではすまないぞ。闘気を使った試合なら猶更だ。」
年下の少女が言うことと思い我慢してきたが、そのあまりの言いように腹が立ってきた。
ルアーナ嬢も闘気が使えるようだが、所詮女だ。大した実力では無いだろう。
俺は闘気についても毎日修練を積んでかなりの実力を持っていると自負している。
年上で男なのだ負けるわけがない。
しかし、ただの試合で怪我をさせてしまっては問題になるかもしれない。
それが狙いか?
勝負では勝てないと踏んで醜聞を広めるというやり方か?
「そのような心配は無用です。……では、この勝負に置いて全ての結果は自己責任とするのはいかがですか? 」
「――後悔してもしらないぞ?」
本気で打ち据えてやる!
本人が望んでいるんだ。あざが残るかもしれないが知ったことか。
オッツォがちらっとセルジュを見るが続けてくれっと言うように手を軽く振った。
「あ~、ではオレステとルアーナ嬢の勝負を始める。ルールはルアーナ嬢が先制で攻撃し、それを防いだらオレステの勝ち、防げなかったらルアーナ嬢の勝ち。それで良いかな?」
「問題ありません。」
「さっさと始めてくれ。」
「では、勝負――はじめ!」
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