第33話 必殺!! 


ルアーナ嬢が提案したルール。

俺はそれに何か細工があると踏んでいる。

女は卑怯だ。

一見俺が有利なような条件だが、何か狙いがあるような気がする。

木剣を油断なく構えルアーナ嬢を見つめる。


ルアーナ嬢は足幅を広くとり、腰だめに何かを包み込むように両手で構えた。

これはなんだ? 何を狙った構えだ?


「すぅ~~……、はぁぁぁぁ!!」


ルアーナ嬢は大きく息を吸い込み、そして大きな声を上げ始めた。

その声にこめられた強い気迫に戸惑っているうちに事態は動きだしていた。

ピリピリと大気が震えだし、地面も僅かに鳴動しているように感じる。


(なんだ? 一体何が起こっている?)


「ハッ!」」


続けてルアーナ嬢が声を発した時、ルアーナ嬢の全身から青い光がほとばしった。

魔術? いや! ルアーナ嬢は目と髪の色から闇の魔術を使うはずだ。

魔術にしても黒い光になるはず。


こ、これは闘気!?

バカな! 肉眼で視認できるほどの闘気など聞いたことがない!


ゴゴゴゴゴ!!


その光と共鳴するように大地が唸りを上げ、細かな砂利が舞い上がり始めた。


「か~め~」


さらにルアーナ嬢が声を上げると両手の中に光輝く玉が生まれた。


(え? 亀?)


何が起きているのか理解できない。

ただとんでもないことが起きているのは理解できる。


冷静に! 冷静にならねば!

状況を整理しよう!


ルアーナ嬢と俺は試合をしている。

ルアーナ嬢は一撃で勝負を決めると言っていた。

ルアーナ嬢は飛んでもない量の闘気を練りだし、両手にためている。

つまり、あれは攻撃手段という事になる。

え? あんなの喰らったら死ぬのだが?


そう言えば試合の前に何が起ころうが自己責任と取り決めをした。

あれ? 王子の前でその取り決めをした?

王族の前で正式に取り決めをして行った試合ってことになる。

つまり、これは貴族同士の正当な決闘ということになるのではないか?

え? 本当に生死問わずってことか?


「は~〇~」


光の玉がより一層輝きをました!

ど、どうすれば!!?


「オレステ! 闘気を練って体を守れ!」


セルジュの声が聞こえる。

そうだ!

身体強化を行って守らねば!

有らん限りの闘気を練りだし身体強化を行う。

あぁ……なんと心もとないことか。

俺の身体強化など、ルアーナ嬢の闘気の前ではまるで台風に揺れる木の葉のようだ。

抗うことなど出来そうも無い。


「波!!!」


ルアーナ嬢が両手を前に突き出した。


(く、来る!!?)


迫りくる光の玉!

俺は半ばパニックになり、大きくバランスを崩し、その場に尻もちをついてしまった。

それが俺の命の明暗を分けた――。


ルアーナ嬢が放った光の玉は、木剣の先を掠め、へたり込んだ俺の頭上を通過していった。

木剣の先を確認して見ると鋭利な物で切り飛ばされたような断面になっていた。

恐る恐る振り向くと訓練所の壁に丸く大きな穴が空いていた。


「あ、そ、そこまで!」


オッツォは己の役目を思い出したように声を上げた。

唖然とする一同。

皆がルアーナ嬢に注目していた。


圧倒的実力差……。

試合の前にルアーナ嬢が言った通りだ。

こんなのを見せられたら負けを認めないわけにはいかない。

俺は静かにオッツォの裁定を待っていた。

しかし、それより早くルアーナ嬢は動いた。


「ぐ……。一撃で決めると約束した以上、私の負けですね……。つ、次は負けませんからね!!」


そう言って訓練場から走り去ってしまった。

ポカンと見送る一同。

一撃で?

確かにそんな決めごとをしたが……。


「ルアーナに救われたな。」


いち早く立ち直ったセルジュからこんなことを言われた。


「オレステの立場からしたら年下の女に負けるわけには行かない。ルアーナとしても母を侮辱されて引くに引けない。そこで条件を絞り、相手を圧倒して見せたうえで負けた。試合に負けて勝負に勝った状態を作ったと言うわけだよ。」


確かに俺が年下の女に負けたとあっては新な汚点となっていたことだろう。

形だけも勝ちを譲ったというわけか。

ルアーナの実力は圧倒的だ。

セルジュの話に嘘は無かった。

それに侮辱した俺にまで配慮してみせた。


試合でも、心のありようでも負けた。


――完敗だ。


■ルアーナ視点


うぅぅぅ~。


外した!!

大事なところで!!


あれだけカッコつけて外したのはあまりにも恥ずかしい。

恥ずかしかったので思わず逃げ出してきてしまった。


あの失礼な野郎にかめ〇め波をぶつけた上で「汚ねぇ花火だ。」と言うつもりだったのに!!!


……あれだな。力んでしまったな。

肩に余計な力が入ったことが外した原因だろう。上ずってしまったな。

それとあそこまで気を練りこんんだかめ〇め波を放ったのは初めてのことだった。

思いの他反動があったな。

速度も全然足りない。あれだと避けてくださいと言っているようなものだ。

ちょっと練習が必要だ。


星の根源たる力にアクセスした状態でも練習しないとな。


宇宙船撃ち落とせるかな?


チート野郎に負けないぞい!

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