第19話 魔王様の事情②


■魔王マーフ視点


まったく……、最近は本当についてない。


私の城へ挑戦する冒険者はめっきり減ってしまった。

どうやら最近できた人族の国――帝国が立ち入りを制限しているようだ。

冒険者がダンジョンに来ればそれだけで生命力をちょっとづつ奪い、力に出来る。

ダンジョン内で死ねば、その魂を養分として取り込める。

その収入源を絶たれたのはかなりの痛手であった。


それに加えて我が城の核となるダンジョンコアが弱まってきている。

この地の龍脈が枯れ始めているのが原因だ。

まぁ、それは今に始まった話ではない。

元々、この地の龍脈は閉じかけた弱いものだったのだ。

当時はやむにやまれぬ事情があったため、早々にダンジョンを生成する必要があった。

選り好みなど出来る状態ではなかったのだ。。


私は……魔王の中でも脆弱な部類だ。

元人間というのもあるが、別段何かに秀でていたわけでもない。

とある実験に巻き込まれ、気が付いたら不死者となっていたのだ。

そんな魔王であるため、本当の強者である魔王連中から龍脈を奪うなんて真似は出来るはずもなかった。


すぐにどうこうなるわけではないが、将来的には立ち行かなくなる。

その前になんとかしなければならないが、これと言って名案は思い浮かばない。

漠然と終わりが見えた日々を過ごし、気が付けば500年が経過していた。


龍脈はこの星の力が漏れ出た場所だ。

移り替わりはあるが非常にゆっくりしたものだ。

星の歩みでは500年なんぞ瞬きにも等しい。

閉じかけたといってもあと数百年はなんとかなりそうだった


とはいえ、冒険者も来ない、龍脈はとじかけている。本当に不味いな……と考えていた時に帝国の連中が攻めてきた。

弱り始めていたダンジョンコアでは十分な防備も出来ず、部下たちが次々と打ち取られていった。

幹部連中と奮戦したがあの光線が非常に厄介であった。

アンデットに対し、特別効果が高い太陽の光を凝縮したもの。

私はともかく、他の者たちには致命的であった。

それでも帝国軍の半数以上はなんとか撃破出来た。


残ったのは私だけ。

追撃を逃れるために荒地へ逃げ込んだ。


そうやって、なんとか帝国から逃げ出せたと思ったら今度は巨大な魔力を纏った化け物が現れた。

魔力量が尋常ではない。


(私に匹敵……、いや、上回る魔力量を持った者が人族で存在するとは……。)


そんなやつが一直線に私を目指し飛んできたときは「帝国からの追手か?」と思い、魔力弾を叩き込んでやったが避けられてしまった。


隠形術を使い、近づいて声を掛ける。探知魔法を使っているようだが私の隠形術なら気づかれずに近づけるだろう。

近づいてみると驚いた。そいつは黒目黒髪に人族の幼女だったのだ。

私が声をかけると礼をしたうえで素直に名乗った。

ヴィスカルディ王国の貴族の娘だと言う。

見た目は幼いがきっと何か事情があり、成長が止まっているのだろう。

私みたいに……。

そうで無ければこの魔力量に言動や落ち着いた所作が説明つかない。


アンデッドの調査に来たのか……。それならば納得だ。

おそらく最高の実力者を調査として派遣してきたのだろう。

この荒地を調査するには生半可な実力者ではダメだ。

乱れに乱れた魔力の渦が魔力や闘気を練ることを阻害する。

調査に来てもモンスターにやられてしまったら元も子もないからな。

モンスターの中にはこの激しい環境に適用し、逆にこの外敵がいない環境を生かし住みついている者たちが極わずかだがいる。


それにしてもこいつはなかなか話がわかるやつだな。

私を魔王と知れば礼をつくすし、真祖と知ればその偉大さに感銘を受けている。


このような態度を取る相手に嘘や誤魔化しをするのは魔王としての矜持が廃る。

アンデット発生の原因について話さねばならないだろう。


「つまりだな。この荒地に私が踏み入ったのが原因だ。荒地の乱れた魔力のせいで、私の魔力が十分にコントロールできていない。この地で死んだ者が私の魔力にあてられアンデットとなり彷徨っているのだろう。」


さて、どうでるかな?


「なるほど、では仕方ないですね、」


答えは私が予想しないものだった。


「仕方ない? 私を倒さないのか?」


「え? 私は原因を知りたかっただけで排除に来たわけではありませんので。」


国に言われ調査に来たのではないのか? そんなので対応で良いのか?


「それより魔王様にお願いがあるのですが……」


お願い? ふむ。私個人ではなく魔王への願いならば魔王として答えなければいけない。

なりたくてなった魔王ではないが私を王として慕う者がいた。

その者たちの為にもそれ相応の振る舞いが必要だ。


「我に願うか……、本来ならばダンジョンを攻略した者の願いしか聞き入れないのだが……。」


普段の一人称は「私」だが、魔王として答えるときは「我」を使うようにしている。

なんとなく魔王っぽいだろう?


「大したお手間は取らせません。」


「そこまで言うならば交換条件を出そう。我の望みを達成できたら願いを聞き届けよう。」


こいつなら――この私以上の魔力量を誇るこの者なら問題を解決できるかもしれない。

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