第25話 人には向き不向きがあるよね!
■ルアーナ視点
うおっ!
ママンにはお見通しだったか。
そりゃそうか。かなり露骨だったものな。
それにしても理由も聞かずに協力してくれたのか……。
アウグスタの説得にはママンの援護射撃がなければ難しかっただろう。
……それだけ信頼されているってことかな。
自分自身、大分おかしな子供だと思うけど、それでも信頼してくれている。
その信頼を裏切らないようにしないとな。
「……アウグスタ様はお若く、騎士団を引退するには早すぎます。慣れない子育てで大分ストレスが溜まっているようでしたので……」
ストレスの原因の半分くらいは俺のせいだったりするからな。
俺と比較して自身の子供が不出来なのを嘆いても仕方ないことなんだけどな。
こちとら人生二週目ですよ。
「……確かにセルジュ様に厳しく接しているご様子でしたね。」
「セルジュ様への剣の稽古も問題です。ただ闇雲に振らせているだけでは上達しません。アウグスタ様が不在の間、お母さまはセルジュ様とミケーラの教育に責任を持たねばならないと思います。」
「アウグスタ様に街の防衛をお願いした以上、私が子供たちの面倒を見るべきでしょうね。」
「主だった騎士はアウグスタ様を出陣されてしまいました。そこで私に剣を教えられる方に心当たりがございます。お呼びしても?」
「……なるほど。それが”狙い”ということですね。ふふふ、優しいのね、ルアーナは。」
ママンはそう言うと俺の頭を撫でてほめてくれた。
ウッ、心が痛い!
兄貴のことを思ってではなく、俺が結婚したくないからだとは言えないな……。
ミカナイ師匠を家に呼んでママンと兄貴に紹介する。
ミカナイ師匠はアンデットは言えデュラハンだ。頭を首の上に載せて、首まであるシャツを来てもらえば見た目はただの人だ。
闘気の扱いにも長けている。陰の気を上手に隠すこともできる。
アンデットだと気が付かれることは無いだろう。
最初は渋っていた兄貴だが、ミカナイ師匠が大岩を一瞬にして切り裂いたのを見て興奮していた。そのうえ、アウグスタと違って優しく丁寧に教えてくれるのだ。懐かないわけがない。
俺もその訓練に混ざって剣を振るう。
「お前……、魔術だけじゃなく剣もそんなに使えるのか……。」
兄貴がうんざりしたような顔で俺を見ていた。
「セルジュ様、実は裏技があるのです。私はそれで剣を学びました。」
「え? 裏技?」
好きでしょ? 裏技とか。ちなみに俺は大好きだよ。
闘気で動きを読む方法を教える。
「え? 闘気を使う? いや、……闘気が使えないのだが……」
「闘気も裏技で覚えられます。」
そう言って兄貴の手を取り、兄貴の体内の気を動かす。
普通の方法なのだけど、裏技と言っておけば心理的ハードルが低くなることだろう。
「あ……、これが闘気?」
意外なことにあっと言う間に習得した。
あれかな? 毎日過酷な訓練をしていたおかげで感覚が敏感になっていたのかな?
限界以上の訓練を施されいるから、身を守るために自然に習得していた?
まぁ、出来るようになったのだから問題ないか。
ついでに魔法も教えよう。
……
…………
………………
2週間ほど経過した。
兄貴はもともと体が結構鍛えられていたのに加え、闘気の効果もあってめきめきと剣の腕を上げている。
闘気の使い方については相手の動きをトレースする技や身体強化はたどたどしいながらも使えている。
魔法も簡単な水魔法を一つ発動出来た。
これならアウグスタのシゴキにも耐えられるだろう。
「そろそろアウグスタ様がお帰りになりますね。」
「あぁ。」
「セルジュ様、闘気に目覚めたことや剣の実力が上がったことはミカナイ師匠のおかげではなく、アウグスタ様の教えがあったからこそ出来るようになったとお伝えくださいね。」
ママンがまた変な言いがかりをつけられたら困るからね。
「……セルジュじゃない。」
「え?」
突然何言ってんだ? お前はセルジュだろう。
「……俺はルアーナの兄なのだから、そのように呼べ。」
え!? デレた?
出会いがしらにいきなり睨んで来たり、敵意をむき出しにしていたあの兄貴が?
……もしくは俺の美少女っぷりについに気が付いたか?
可愛い妹に”お兄ちゃん”と呼ばれたくなってしまったか?
お前に恨みは無いが、前世の兄貴という存在には強い恨みがある。
兄貴という生き物にそんな男の夢を叶えさせてたまるか!
「分かりました。今日から”お兄様”と呼ばせていただきますね。」
俺は慇懃にアルカイックスマイルを浮かべながらそう呼んでやった。
甘え声で”お兄ちゃん”だなんて呼んであげないんだからね!
”お兄ちゃん”呼びじゃないのに、何故か兄貴は耳まで真っ赤に染めて照れていた。
え? これがいいの? ……よくわからんな。
数日してアウグスタは戻ってきた。
無事、モンスターも駆逐できたようだ。
騎士団が街に入ると喝采をもって迎えられたとのこと。
アウグスタ本人は先陣に立ってモンスターと闘っていたらしい。
それもあって民衆、そして騎士団からも賞賛の声があったようだ。
アウグスタは存分に暴れたうえに闘いを評価されことで非常に機嫌が良い。
出迎えたママンと俺、兄貴も賞賛を惜しまない。
「さすがアウグスタ様ですわ。」
「母上は本当にお強い!」
「魔術師じゃこうは行きません。さすがでございます!」
「いや、なに、それほどでも……」
アウグスタは照れながら頭を掻いていた。
この人はあれだな。脳筋なお調子者だな。
ママンや兄貴に辛くあたっていたので悪い方に勘違いをしていたかもしれないな。
根は悪い人で無いのだろう。
アウグスタは子育てが致命的に向かないのだろう。
子供を愛してないと言うわけではない。
性格が向いていない。
自分基準で考え、相手の状態を思いやることが苦手なこと。
考えることが苦手で、改善案が思い浮かばないこと。
他人に頼ることが苦手で相談も出来ないこと。
子育てが上手くいかず、袋小路に入っていたのだろう。
子育てはただでさえストレスフルだからな。
この人にとっては本当に苦痛でしか無かったのではないだろうか?
母親だから子育てが得意でなければ行けないという社会的風潮も良くないよな。
それも追い詰められる原因になっていることだろう。
ママンもそれを感じたのかこれ以降、アウグスタに定期的な巡回を依頼していた。
「いやしかし、子育てを放棄するわけには……」
「いえ、これも大切なお努めです。巡回は騎士であるアウグスタ様にしか頼めないこと。私たちは家族でありませんか。お互いの得意分野で支え合っていくというわけには行かないでしょうか?」
「……確かに、あなたはルアーナを一人前の魔術師に育てた実績がある。……そうですね。では巡回の間、子供たちをよろしくお願いします。」
ママンとアウグスタはぎこちないながらも笑顔で握手を交わしていた。
家族の関係はかなり改善できたのではないだろうか?
そして王都から久しぶりに帰ってきた親父はそれなりに仲良くやっている俺たちを見て、目を丸くし「一体、何があったの?」と疑問を口にするのであった。
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