第4話 母の想い
◆マチルダ視点
私は今、ルアーナの寝室に来ています。
ベビーベッドの上で大人しくしている我が子をじっと見つめます。
この子の人生は過酷なものとなることでしょう。
黒目、黒髪の忌み子として嫌われ、剣技重視のこの国では魔法使いは評価がされない。
他国では魔法技術の体系化が進んでいます。それに準じていない魔法使いは歓迎されないことでしょう。
自分に自信を持ってほしい。
そのためには自他ともに認める何かが必要なることでしょう。
(私に出来るのは魔法を教えることだけ……。)
魔法の練習用に使う腕輪。
これを使えば強制的に魔力放出を行うことが出来ます。
その感覚を早いうちから学ぶことが出来れば……。
この子の魔力量は決して多くはないのです。
赤ん坊なのだから当たり前なのだけど、それでも少ないように感じます。
一説によれば子供のうちから魔力放出を行えば魔力量は増えると言います。
しかし、それを試したという記録はありません。
自我のない子供に魔力を大量に使わせるのは危険を伴います。場合によっては死ぬ可能性も……。
それに魔力切れというのは非常に苦しいものです。
大人の魔法使いでも魔力切れにならないよう細心の注意を払います。
それを外部から意図的に行うなど拷問のようなものになることでしょう。
(それでも……)
私は腕輪をルアーナの腕につけます。
かなりぶかぶかだけど効果は発揮したようです。
ルアーナは腕輪を不思議そうに眺めていましたが、とたんに嬉しそうに笑い出しました。
「きゃっきゃ」
魔力放出は慣れないと何とも言えない不快感を感じるものだけど大丈夫なのかしら?
魔力が放出されていない?
いえ、ちゃんと放出されています。
(なんで喜んでいるのかしら?)
とにかく、体調を崩さないようにキチンと目を離さないようにしないと。
そうこうしているうちにドアが開きました。
そこにいたのはリヴィオ様です。
「マチルダ、ここにいたのか? ルアーナは……。魔力放出の腕輪!? 」
リヴィオ様は急いでルアーナから腕輪を外します。
当然の反応ですね。
「うがぁ!」
先ほどまで笑顔だったルアーナが凄い形相でリヴィオ様を睨みつけます。
「え? これが欲しいのかい?」
リヴィオ様が恐る恐る腕輪を近づけると途端に笑顔になりました。
「腕輪を欲しがっているみたいですね。気に入ってしまったのかしら?」
「そのようだね。……しかし、なんでこんなことを?」
リヴィオ様は怒りよりも戸惑いの方が大きいようです。
「この子は魔力量が少ないようで、このままでは魔法使いにはなれないです。」
「別に魔法使いだけが人生ではないだろう?」
「ですが……。黒目、黒髪の偏見から身を守るためには戦う力が必要です。」
「……必要ない……とは僕の口からは言えないな……。常に守ることも立場上難しい。……わかった。マチルダ。ただしキチンと監督して無理のない範囲で使用すること。それだけは守ってくれ。幸いなことにこの子もこの腕輪を気に入ったみたいだしね。」
「はい。分かりました。無理が無いよう注視して使わせます。」
この子の魔力量からして1分くらいなら負担にならないかしら?
外すときまたかなり愚図りました。
この子がこんなに感情を出すのは本当に珍しい。
そんなに気に入ったのならずっと渡しておきたいけどそういう訳にも行きません。
せっかくご許可いただけたのです。
一人前の魔法使いになれるようしっかり見守っていきましょう。
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