第42話 闇の魔道具……

■エディッタ視点


ルアーナ様からお土産としてペンダントをいただいてしまいました。

しかも魔道具だと言うのです。


「こんな高価なものをいただくわけには行きません。」


「でもエディッタ様、今の状況はあまり良くないですよね?」


確かによくありません。家の中で味方はお母様一人。

使用人からは軽んじられ、お父様からも「不吉」と言われてます。


「この魔道具はそのような悪意からエディッタ様を守るものです。例えば、先ほどのメイドがエディッタ様に対し、悪意のある悪口を言ったとします。そうするとその夜、メイドは夢を見ます。その夢では被害者と加害者が逆転するのです。自分が言った悪口を自分が言われる側に回ります。エディッタ様に酷いことをすればするほど夢の中で自分が苦しむことになるというわけです。」


……とても凄い魔法がかかった魔道具に思えます。


「ですが、黒髪でないメイドが黒髪のことをバカにされる夢を見ても意味がないのではないでしょうか?」


「確かにその通りです。しかし、誰しも”悲しいこと”だったり”辛いこと”を経験しています。この魔道具は加害者がどのような悪意を込めてその言葉や行為をしたかによって夢の中で苦しむことになるのです。”悲しい目にあわせてやろう”と思ってその言葉を吐いたなら”悲しい”気持ちに、過去の経験から感情を想起させるのです。」


……凄く難しい。

えっと?


「まぁ……、つまりやられた分だけ相手が夢の中で辛くなる魔道具ってことです。込めた悪意の分だけ苦しみます。繰り返して行けば自分の行動がいかにエディッタ様を傷つけていたか気付くことでしょう。そしてそれを繰り返しているうちに辛くあたる人はいなくなるはずです。」


私がよくわかってない顔をしていたのでしょう。

簡単に説明してくれました。


「この魔道具は私が作った物なのです。そんなに高い素材を使ったものではありません。どうしても気になるようでしたら私の魔法実験に付き合う程度の軽い気持ちで身に着けてもらえないでしょうか。」


そこまで言われると断ることも出来ないです。

確かに今のままで良いわけがありません。

ルアーナ様のお言葉に甘えて、魔道具を身に着けることにしました。


ルアーナ様がお帰りになり、何時ものように過ごします。

ルアーナ様が黒目黒髪だったこともあり、ヒソヒソと陰口を言っているのが耳に付きました。


「黒髪同士で何をしていたのだか。」

「メイドの一人がいびられたそうよ?」

「まぁなんて陰湿なのかしら」


事実も知らず、まるで私たちが悪かったように言う様に腹が立ちます。

……ルアーナ様の話では今晩、この者たちは悪夢を見ることになるでしょう。

少しでも私が感じているこの悲しい気持ちを理解してくれると嬉しいのですが……。


夕方になり、お父様が帰宅しました。

たまたま廊下でお会いしたので挨拶をしました。


「帰宅早々、その不吉な頭を見せるな。」


そのように言われてしまいました。

虫の居所が悪かったのでしょうか……。

ここまで強い言葉を受けたのは初めてかもしれません。


「……申し訳ありません。」


私は廊下の横に避けて道を開け、頭を下げました。


「……ふん!」


お父様は荒く息を吐き、通り過ぎていきます。

私は思わず、ルアーナ様から借りた魔道具のペンダントを握りしめました。


(本当にこの状況はよくなるのでしょうか?)


もう私はお父様に期待をしていませんでした。

諦めた当時はとても辛く、なかなか気持ちの整理が付きませんでした。


「期待していいのでしょうか?」


ルアーナ様の自信満々と言った顔を思い出し、ペンダントに語りかけた。


……

…………


翌朝、朝から私の世話をしてくれているメイドの様子がどうもおかしいです。

何時もなら私が挨拶をしても無視を決め込むのに今日は違いました。


「……おはようございます。お嬢様。」


笑顔はありません。ありませんが、無視はされませんでした。

そして泣き出しそうな顔をしています。

目の下には大きな隈がありました。


(どうしたんだろう……? あ、ペンダントの効果で悪夢を見たってことかな?)


それにしても辛そうな顔をしています。


「あの? 大丈夫?」


思わずそんな言葉が口から出ました。。

するとメイドばその場で泣き崩れてしまいました。


「うぅ……。お嬢様! 今まで申し訳ございませんでした!!」


わんわんと泣き出し謝罪するメイド。

大慌てで私は背中をさすりながら声を掛けます。


「だ、大丈夫です。大丈夫ですからどうか泣き止んで。」


「うぅぅ、申し訳ございません……。」


私が慰めても余計に酷くなるばかりでした。

しばらくしてなんとか持ち直したメイドに着替えを手伝ってもらい朝食の場に向かいます。


途中すれ違う使用人たちは一様に私の姿を見て口を強く結んでいたり、手を強く握っていたりと何かに耐えているようでした。


そして食堂にて、すでにいた両親に朝の挨拶をしました。

するとお父様が驚きの行動に出ました。


「エディッタ! 今まですまなかった! どうか許してくれ!!」


そう言って泣きながら土下座をするのです。

そのお父様の行動に感化されたのかその場にいた使用人たちも同じような行動に出ました。


「お嬢様! 申し訳ございませんでした!」

「私はなんて酷いことをお嬢様に……!」

「すいませんすいませんすいません」


よく見れば皆目の下に隈があります。

これだけの人に悪意を向けられていたと思うと知っていた事とはいえ、少し凹みます。

その場はなんとかお母様と協力して場を納めました。


それから私の生活は一変しました。

皆、今までが嘘のように丁寧に接してくれます。

お父様も沢山可愛がってくれるようになりました。


「欲しいものがあったらなんでも言いなさい。」


素敵な笑顔でそんなことを言ってきます。


……正直怖いです!

ルアーナ様! 助けてください!


私は怖くなったのでペンダントを外し、自室にある机の引き出し奥深くへしまいました。


お母様と一緒にルアーナ様のお屋敷へ招待を受けました。

その際にペンダントをお返しし、どのような結果になったかお伝えしました。


「そうですか……。そんなことに……。やはり10倍にして返すのはやりすぎだったかしら……。」


(え? 10倍!?)


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