第12話 兄貴という生き物

「剣を教わりたい?」


俺の言葉に親父は不思議そうな顔をした。


「ルアーナは魔法が得意なのだからこのまま魔法使いになったらどうだい?」


「魔法が通用しない魔物がいるかもしれないですから……」


「確かに……まったくいないわけじゃないね。……しかし、剣かぁ……。セルジュがアウグスタから習っているから一緒にやってみるかい?」


親父は知らない人の名前を出してきた。

いや、知らん人と一緒にって言われても……。


「セルジュ? アウグスタ? どなたですか?」


「あれ!? セルジュはルアーナのお異母兄さんだよ? アウグスタはセルジュの母親だ。」


え! 俺って兄貴いるんかい!?


「するとミケーラのことも知らないのかい? 君の妹だよ?」


妹おるんかい!



場を改めて親父から改めて両親以外の家族の紹介を受けた。

ご飯も別だったし、住む場所も俺が館の東側で、アウグスタ、セルジュ、ミケーラは西側に住んでいたみたいだ。


「初めまして。アウグスタ様、セルジュ様、ミケーラ。ルアーナと申します。」


礼儀作法の授業で習った礼をしながら自己紹介をする。

アウグスタは見たことあったよ。やたらと目つきの鋭い女性がいると思っていたけど、この人、義母だったのか。俺の礼を見て苦虫をかみつぶしたような顔をしている。

アウグスタの髪の色は燃えるような赤だ。

セルジュに関しては俺を思いきり睨みつけている。

セルジュは父親似で青い髪と目だな。

ミケーラは……よくわかってない様子だが母と兄の様子から戸惑っているようだ。

ミケーラは淡いピンク色の髪と目だ。風属性よりの火属性だな。ちょっと調整すれば雷属性が使えそうだ。


アウグスタとセルジュからなんかめっちゃ嫌われている。なんでだ?

3人からのリアクションは無く、無言。

見かねた親父が間に入って紹介してくれる。


「ルアーナ、アウグスタにセルジュにミケーラだ。会う機会が無かったようだけど同じ家にいる家族だ。……その仲良くね。」


「はい。お父様。」


明るく元気に返事をしておく。

俺は別に仲良くしてもいいけどあっちにその気が無さそうだ。


「誰がお前なんかと!」


セルジュが俺を睨みながらそんなことを言う。


「セルジュ!」


アウグスタが厳しく名を呼ぶとセルジュはびくっと震えた。


「息子が失礼した。ルアーナ。キチンと話をするのは初めてだな。私はアウグスタ。以前は騎士をしていた。これから家の中で顔を合わすこともあるだろう。よろしく。」


よろしくと言いつつも全然よろしくやる意思を感じない。

本当に顔を合わせる程度の付き合いになりそうだ。

義母はどうでもいいが正直、兄貴はお断りだ!


前世で酷い目にあっている。

兄というのは下の兄弟を人間と思っていない。

下僕か何かと勘違いしているふしがある。

何かにつけてパシリのように扱われる。断れば年齢差に物を言わせた暴力が待っている。

俺の物は俺の物、お前の物は俺の物。それを地で行くのが兄貴というものだ。

優しい兄貴なんて非実在ファンタジーだね。

ちなみに俺の友人の話だが優しい姉も非実在ファンタジーらしい。

友人はカップ焼きそばの捨て湯を、頭に笑いながらかけられたことがあるそうだ。

……恐ろしい。下手なホラーより怖い。


「旦那様、挨拶も済みましたし、失礼しますね。挨拶もろくにできないセルジュに礼儀作法を教えねばなりませんので。」


またビクッと震えるセルジュ。そして俺を恨みがましい目で睨んでくる。

……いや、どう考えても自業自得だろうに。

アウグスタは2人の子供を連れだって部屋を出て行った。


「ふぅ……。いろいろと行き違いがあるみたいなんだ。ルアーナは気にしないでね。」


「別に気にしません。今日の日まで存在も知らない方達でしたし。」


義母も兄貴もいらん。……妹はそのうち懐柔しよう。

親父は何とも言えない顔をしてその場はお開きとなった。

そしてその親父だが自力で属性変化が出来るようになり、練習開始から書き始めていたレポートも完成したようだ。

属性変化を報告するため、領地から学会のある王都に出発した。


剣を習う話も何となくうやむやになってしまった。

兄貴と一緒にって話だったけども……。

俺としても棒切れを持った兄貴などに近づきたくない。

……非常に危険な存在だ。『イライラした、ストレス発散に殴らせろ』とか行ってくるに違いない。


しかし、剣はちょっとだけ気になるな。

この世界の剣士ってどんな感じなのかな?

よし! 見学してみよう。

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