第13話 教育ママ
馬鹿正直に見学させてほしいと言ってもきっと見せてくれない。
勝手に覗くのが良いだろう。
最近開発した遠見の魔法がある。
探知魔法の応用で魔力で作った目と己の視界をリンクさせて離れた場所の情景を見ることができるのだ。
音を拾える耳も作れる。
元ネタはウェブカメラとマイクだ。
探知魔法をネット回線と見立て、必要な場所にカメラだのマイクだののデバイス魔法を設置することで見たり聞いたりできるのだ。
この魔法でさまざまな情報収集を行っている。
そう……さまざまな……。
見ていることがバレたら偉いことになるので隠ぺいにもかなり気を使っている。
追跡型のハッキング魔法なんてあったらたまらないので、発信元を偽装するダミーを用意したり、そのダミーに追跡カウンター型のデバイスを組み込んだりしている。
このカウンターに引っかかれば相手には偽情報が伝わり、こちらには相手の情報が丸分かりだ。
早速覗いてみよう。
確か屋敷の庭園の先にある修練場でやっているはずだ。
修練場はグランドみたいな場所だ。
防犯のため、壁に囲われている。
そこで兄貴であるセルジュが目つきが鋭いアウグスタの指導の元、剣をふるっていた。
二人は表情は真剣そのもの。
セルジュが振るっているのは5歳にして真剣だ。
さすがにサイズは小ぶりであるものの、どう考えても5歳児が持つには重すぎる。
事実セルジュの手の平には豆がつぶれたのであろう包帯がまかれている。
剣を振るう度に痛みが走っているに違いない。
セルジュは全身汗まみれだが、痛みによる冷汗も何割か入っていそうだ。
見続けていると疲労からかセルジュの体の軸が大きく揺らぎ、剣がすっぽ抜けてしまった。
「何をしている! 体の軸をぶらすな! 何度言えばわかるのだ!」
そんなセルジュを怒鳴りつけるアウグスタ。
「ご、ごめんなさい……。」
弱々しく答えるセルジュ。
「ただの素振りだけでこの体たらく……。ルアーナはすでに実戦に耐えうるほどの魔法を使うというのに。異母妹に負けて悔しくないのか?」
「……。」
アウグスタの言葉にセルジュは悔しそうに顔を歪め、目に涙をためている。
セルジュが黙って放り投げてしまった剣を拾って戻るとアウグスタは自ら剣を抜いた。
「もう一度手本を見せてやる。しっかり見るように!」
そのあと見れたアウグスタの剣技は凄まじかった。
突き、払い、振り下ろし。それに合わせた体さばき。
軸はぶれず、無駄の無い綺麗な動きである。それが徐々に加速していく。
……あれ? 速すぎない?
速くなりすぎて全然見れない。
無属性魔力を頭に集め、思考加速して何とか見れるレベルになっている。
こんなのお手本として見せられてもセルジュも見れてないんじゃないの?
案の定、何となくアウグスタを見ているものの、剣技自体は速すぎて見えていないようだ。
アウグスタは剣技を終え、剣を鞘にしまいセルジュのほうを向いた。
「わかったか?」
「は、はい……。」
あ~、これは分かってないやつだ。
だが、セルジュがそう答えてしまうのもアウグスタの性格を考えると無理はない。
おそらくだがセルジュはそう答えるしか無いのだ。
俺も前世で経験がある。「わかったか?」と聞いてきた相手に「わかりません」と回答すると偉い目に会うのだ。
「なんでわからないんだ?」と自身の説明の仕方ではなく、相手の理解度を責める人がいる。
そういう人に対しては聞き返してもどうせ教えてはくれないのだから分かったふりをするしかない。
「わかりません」と答えると何故か怒られる。イライラした口調で責め立てるように話してくるのだ。こっちがわからないと言っているのに同じ説明を繰り返すだけ。
「わかりません」と言っても、その非常に面倒くさいやり取りが交わされるだけでメリットがない。
そのあとも見ていたが「違う! そうじゃない! こうだ! こう!」などとアウグスタが説明らしきものをしていた。
セルジュはただ涙をこらえながら言われたことを忠実にこなそうと必死に頑張っていた。
アウグスタは典型的な天才肌の教え下手だ。
自分は出来るから出来ないやつが何故出来ないのかわからないってタイプだ。
このタイプでたま~に出来ないのは怠けているからだ!っと言い出すやつがいるがアウグスタもそのタイプかもしれない。
甘えたい盛りの5歳児が母に褒めてもらいたくて必死に頑張っているけど、母の要求が高すぎて結果が出ずに落胆させてしまっている。
……なんか現代社会の毒親を見ている気分だよ。毒親の教育ママバージョン。
子供は親が悪いなんて思わないから自分を責める。
いや、セルジュの場合は俺のせいだと思うことで心の均衡を保っているのかもしれない。
なんせアウグスタは度々俺の名前を口にしてはセルジュの不出来を嘆いていた。
兄貴なんて生き物は別にいなくても良いがさすがにこれはかわいそうだ。
う~ん、親父は不在だし、ママンに相談するかな。
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