第14話 闇魔法の可能性

※前書き

投稿時間間違えた!!! すいません・・・

普段は20時更新です。


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◇マチルダ視点


夜、皆が寝静まった時間。

私は館のある場所を目指し、音を立てないよう静かに歩いています。

目的の場所へ着くと、部屋の前でとても心配そうにしている侍女の姿がありました。

あれは確か、セルジュ様付きの侍女ですね。


「どうかしたの?」


私が問いかけると侍女は跳ね上がるようにびくっと体を振るわせ驚き、私を見て、安堵しました。


「……奥様でしたか。」


「それでどうかしたの?」


「……いえ、それがその……」


侍女は言い淀みます。なるほど……。ルアーナの読みは正解のようですね。


「セルジュ様は痛みで眠れてないのではなくて?」


侍女は迷いながらも答えます。


「……はい。私にも部屋を出ていくようにと……。」


この侍女はアウグスタ様に近しいものです。

アウグスタ様同様、黒目黒髪の私をあまりよく思っておりません。

迷いながらも内情を少し話てくれたのは誰でもよいから事体を好転させてほしいと願ってのことでしょう。


「闇魔法の中には痛みを緩和するものもあります。せめて眠れるようにセルジュ様に魔法をかけましょう。」


「あ、いえ、そのような……」


「セルジュ様は明日を迎えればまた厳しい訓練が待っています。寝れない日々が続けばどうなると思いますか? 最悪は……」


私の言葉に侍女は青ざめます。


「……お願いします……。」


侍女は消え入るような声で言いました。

おそらく侍女からアウグスタ様へ報告はしたのでしょうが、アウグスタ様は動いてくださらなかったのでしょう。そうでなければ私を頼る前にアウグスタ様を頼っているはずです。

ルアーナから聞いた話ではアウグスタ様は何事も自分基準で考える方のようです。

自分が疲れないのだから子供と言えど大丈夫だと思っている節があると。


私は部屋をノックせずに、音が鳴らないようゆっくりと開けます。

侍女が若干咎めるような視線を送ってきますが気にしません。


そしてするりと中に入り、足音をたてないよう注意しながらベッドへ近づきます。


「……痛いよう、……痛いよう。……ぐすっ。」


布団にくるまり、孤独に痛みに耐えている子供が……そこにいました。


「セルジュ様」


「え? ……あ! ま、マチルダ様? ななな、なんでここに?」


セルジュ様は私の声に驚いて布団から出てきました。

そして私の顔を見てもう一度驚きました。


「昼間にアウグスタ様から受けた剣の鍛錬でケガしたと聞いています。今のままでは痛くて眠れないのではないですか? 私の魔法で痛みを和らげてさしあげたく参上しました。」


「え! ……あ、でも……」


一瞬嬉しそうな顔をしたセルジュ様でしたがそのあと何か思い出したように表情が曇ります。


「大丈夫です。私が勝手にやっただけ。アウグスタ様にも誰にも言いません。もしばれても寝ているあなたを魔法の実験台にしたと私が言います。だから……ね。安心してください。」


私はそう言うとそっとセルジュ様の頭を撫でました。


「……でも。」


セルジュ様は恥ずかしそうにしながらも私の手を払いのけたりはしません。

「愛に飢えているはずです」

そういったルアーナの言葉が思い出されます。


「大丈夫。あなたはとても頑張っています。痛みを和らげるだけです。大丈夫です。何も悪いことではないじゃないですか。あなたは悪くない。……そう何も悪くないのです。」


私は「悪くない」「大丈夫」「頑張っている」その言葉を繰り返し唱えながらセルジュ様の頭を撫で続けます。

本当は私ではなく、アウグスタ様にそう言ってほしいはずです。

なんで愛する我が子に厳しくするだけで、優しい言葉をかけてあげないのでしょうか?

そう思うとアウグスタ様に怒りを感じてしまいます。

しかし、ルアーナから「決してアウグスタ様を悪く言わないように」と言い含められています。

母親というのは子供にとって絶対的な存在です。神と言っても良いかもしれません。

そのような存在を否定してはセルジュ様から敵と思われてしまうかもしれません。

あくまでセルジュ様を癒しに来たのです。

敵と思われてはそれも出来ません。


セルジュ様は次第に涙を流して泣き始めてしまいました。


「大丈夫です。大丈夫ですよ。」


「はい、……はい。」


泣きながらも私の声に答えてくれるようになりました。


「セルジュ様、では魔法をかけますね。」


「……はい。お願いします。」


闇魔法の一つ、痛覚無効の魔法を使います。

この魔法は相手から感覚を奪い、その間に致命傷を与えるために作られた魔法です。

魔法の効果中は背中に何本も矢を受けても気が付くことはありません。


ルアーナにこの魔法について教えたとき、あの子は「優しい魔法ですね。」と言いました。

理由を聞くと手の施しようがない病気の末期患者、ただ死を待つだけの人から痛みを取り除いてあげる魔法だと言うのです。

目からウロコが出る思いでした。

闇魔法にそのような平和的な使い方があったのかと。

痛みに苦しむセルジュ様に魔法を使います。


「……だいぶ……いえ、まったく痛みを感じないです!」


セルジュ様は嬉しそうにそう言ってくれました。

私も闇魔法が平和的に人の役に立てたと知れてとても嬉しい思いです。


「この魔法は痛みを取り除いただけで、本当は体は傷ついたままですからね。明日の朝には効果が切れてしまいます。キチンと治るようにゆっくり寝ましょうね。」


私はそう言ってセルジュ様をベッドに寝かしつけるとまた優しく頭を撫でます。


「セルジュ様が寝るまでここにいますから安心して寝てくださいね。」


「……はい」


セルジュ様は照れたように笑い、素直にうなずきました。

疲労からかすぐにセルジュ様は寝てしまいました。


「……ありがとうございます。」


振り返るとセルジュ様付きの侍女が私に対して頭を下げていました。


「今日、この場で見たことはアウグスタ様に報告してはいけませんよ。セルジュ様のお立場が悪くなってしまいます。万が一、アウグスタ様に気が付かれるようなことがあったら私が強引に押し入って魔法の練習台にしたと言いなさい。」


「……本当にありがとうございます」


「そしてこれから見ることは誰にも言ってはいけませんよ。」


「え?」


私は魔力を聖属性へ変質させます。

そして癒しの魔法をセルジュ様へ使います。


「この光は聖属性の癒しの魔法?」


侍女が困惑したようにつぶやきます。

魔法への知識がなくても癒しの魔法を知っている人は非常に多いです。

それはこの癒しの力で勢力を伸ばしている教会が大々的に宣伝を行っているためです。


「これでセルジュ様のケガは8割ほど癒えたでしょう。セルジュ様も不思議に思うかもしれませんが『子供は治りが早いものです』と口裏を合わせてください。」


「黒目黒髪の奥様が聖属性魔法を?」


「この件については今、旦那様が動いています。その結果次第で大きく変わる話です。ですので騒ぎにならないよう、ここだけの話にしておいてください。」


「は、はい。」


少し心配ですが、これは目の前で実演しない限り信じてもらえるような内容ではありません。

この侍女の口から漏れても何かの見間違いとなる可能性が高いです。


「明日もこの時間に様子を見に来ます。……新しいケガがあるかもしれませんから。」


「ありがとうございます。」


侍女は若干戸惑いながらも深々と私に頭を下げてくれました。

ルアーナから「明日からはその日にどんなことを頑張ったのかを聞き出し、褒めてあげてください」と言われています。

本当はそれをアウグスタ様か旦那様が行うのがよいのでしょうが、それは出来ません。

アウグスタ様は言うまでもなく、旦那様はしばらくお帰りになりません。

旦那様が戻るまでは親代わりを務める必要があります。


実の子のルアーナにまったく親らしいことが出来ていないのに、そのルアーナから頼まれて別の子の親代わりをするというのは奇妙な感じがします。

しかし、セルジュ様に対するアウグスタ様の在り様は私も無関係とは言えません。

ルアーナの出来の良さがアウグスタ様を追いつめているとも言えるのです。

被害を受けているセルジュ様の親代わりくらいは私がやるべきことなのかもしれません。

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