第15話 イジメ! ダメ! 絶対!

◇ルアーナ視点


幼少期に虐待を受けた子供は闇落ちしやすい。

漫画や小説にそう書いてあった。

親から与えられるはずの愛を受けれなかった子供は歪んでしまうそうだ。

非常に暴力的になるとも聞く。

暴力的な兄貴……。なんて恐ろしい存在だ。そんな者を生み出しては行けない。

そうならない為にもママンにあれこれ動いてもらった。

何もやらないより多少はマシだろう。


それにしてもこの世界の剣士の動きはヤバイな。

なんとか視認出来るが回避出来るかと問われれば現状では不可能だろう。

そうなると魔法で防御を固め、反撃するしかない。

魔法防御無効のようなチートが現れたら一撃でやられてしまう。


夜間の魔法練習は続けている。

威力、精度ともに向上している。

魔力枯渇も毎日行い、日々容量を増やしている。

しかし、魔法だけではチート野郎に勝てないようだ。


身体強化に手を出すべきか?

う~ん……。とりあえず、ママンにアウグスタの異常な動きについて聞いてみよう。

早速ママンの部屋へ突撃して聞いてみた。


「アウグスタ様が途轍もなく速く動ける秘訣ですか? あぁ、【闘気】ですね。剣士は【闘気】を体に纏い自身を強化して戦います。」


【闘気】? 気か! おぉ!! それは是非習得したい!

かめ〇め波使いたい!


「【闘気】……。それは私でも習得できますか?」


「ルアーナ、残念ですがあなたでは難しいでしょう。一般的に【闘気】を感じるためには魔力が少ないほど良いとされています。魔法に適正がある人間で【闘気】を習得できたものは非常に少ないのです。」


「魔力が少ない……ですか? では魔力が枯渇した状態にすれば……」


「いえ、それでも難しいのです。体が魔力の感覚に慣れ親しんでしまっていると【闘気】を感じることが出来なくなるようです。」


がーん!! そんなことが!!

【闘気】が使えない……だと!? かめ〇め波はどうしたらいいんだ……。

むむむ、なんとかならないかな? あとで考えてみよう。

あ、それはそうとこれも聞いておかないと……。


「では【闘気】の攻撃を防御魔法で防ぐことはできますか?」


「物理的に作用する攻撃に関しては物理的な防御魔法で防ぐことが可能です。【闘気】での戦い方は魔法と同じく各流派で秘伝とされています。詳しく分からないところが多いのです。【闘気】を纏う者を相手にする場合は防御魔法を過信せず先手を取るようにしなければなりません。」


なるほど……。

この国が剣士偏重なのも理解できる。

魔法なんて避ければよい……ってことだろうな。

あそこまで速く動けるなら当てることが出来る魔法使いも限られてくるだろう。


闘気……、気かぁ。

習得できたら夢が広がるなぁ。

どうやって習得しようかな?

魔力が強いと習得出来ないようだけど、何か裏技ないかな?


そんなことを考えながら部屋に戻ろうと屋敷を歩いていると、俺付きの侍女エルダがいびられている現場に遭遇した。

見えない位置に移動して遠見と聞き耳魔法をセットして覗き見る。


「最近、魔物が多いと聞くわね?」


「……はい。」


「あなたのような黒目黒髪がいるから魔物が増えるのではなくて?」


「!! そ、そのようなことは……」


……薄々、感じていたのだけど黒目黒髪って差別対象なのか?

どうも屋敷で働いている人達が俺やママンを遠巻きにしているというか避けている節は感じていたんだ。

エルダは俺のような真っ黒ではない。ちょっと青みが掛かった黒だ。

不思議なことに僅かでも色が混ざると闇属性にはならないんだなぁ。エルダは水属性だ。

エルダをいびっているのは確かメイドのチーフだな。メイド長の下にいる上級のメイドってやつだ。

こっちのメイドは緑髪で緑目。きっと風属性だな。

エルダには日頃あれこれ世話になっている。

ここはお節介しておくかな


「魔物が多いのですか?」


「あ! ……ルアーナお嬢様、何時からそこに?」


「今先ほどです。あなたが魔物が多いと言った辺りからです。」


「……そうですか。」


「それで魔物が多いのですか?」


「……はい。」


「それは黒目黒髪がいるせい?」


「……いえ、決してそのような……。」


おぅおぅ、焦っている焦っている。くひひひっ。

雇い主の奥方と娘を貶しているようなものだからな。


しかし、それ自体が悪いことって認識事体が無さそうだ。

そもそもイジメているって認識があるかどうかも怪しい。

『正当な主張をしているだけ』って思ってそうだな。


中世っぽいファンタジー世界じゃ得られる情報なんて大した事無い。

閉鎖社会ではイジメについて周囲が疑問に思うのもことも無く、悪いことと考えるのも難しい。

イジメはダメ! ゼッタイ! と言ってもメイドのチーフには伝わらないと思われる。


なので話をすり替えてみるか。


「あなたを責めるつもりも咎めるつもりもありません。ただそれが事実か知りたいだけなのです。」


じっと静かな目でチーフメイドを見つめる。


「ウッ……。えっと……そのような噂があります。」


「なるほど……噂ですか。噂も貴重な情報です。火が無いところに煙は立たないとも言います。」


「そ、そうなのです。」


私がその情報を肯定したことで僅かに安堵するチーフメイド。


「では実験してみましょう!」


「え?」


「様々な髪色の人を集め、どの人達が魔物に襲われやすいか調べるのです。」


「そ、その、なんの意味が?」


「本当に黒目黒髪が魔物に狙われやすいなら外壁の外で活動する職業には向きません。中で活動する職業を選ぶようにさせます。逆にもっとも狙われない人達に外での作業をお願いするのです。そうすればもっとも安全に皆で生活できますよね?」


「な、なるほど?」


「お父様が戻り次第、提案してみます。もし本当にそれが正しいのならば様々なことに役立てることが出来るでしょう。」


黒目黒髪の人口調べるだけで都市の防衛能力をどれくらい設定したらいいかも決められるかもしれない。


「いえいえ! 旦那様にお知らせするほどのことではないかと! ただの噂でございますし!」


再度慌てるチーフメイド。

いや、別にチクる訳じゃなく、本当に実験したいだけなんだけどなぁ。

あんまり追い詰めるのも良くないよな。


「……それもそうですね。不確かな情報でお父様の手を煩わせるのもよくありません。」


「はい!」


「他にそのような噂がありましたら是非教えてください。噂から何か分かるかもしれません。」


「は、はい……。」


項垂れるチーフメイド。


「エルダも何か噂を耳にしたら確実に私まで連絡するようにお願いしますね? 確実にね?」


「は、はい!」


これで黒目黒髪ということでエルダを差別したら俺まで情報が来ることになる。そう露骨に差別することは出来なくなるだろう。

結果としてあまり酷いようなら親父にチクるぞ!とも脅したようなものだしな。


「ところでエルダに用があるのだけどお借りして良いかしら?」


「……はい。」


「では失礼するわね。エルダ、行きましょう。」


「はい。」


エルダを伴って部屋に戻る。

エルダから感謝されたりしたけど、それよりモンスターが増えているのは事実なのだろうか?

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