第30話 王子とその側近たち


■セルジュ視点


まったく困ったものだ。

父上に連れられ王都で学んでいた際、俺が優秀だと噂が広まってしまった。

その噂を聞きつけた王家に呼び出され実力を示した。


その場で闘気を使った剣術と魔法を披露したことで第一王子の側近にされてしまった。

俺の歳で闘気を使えるやつはかなり珍しい? 嘘だろ? 我が家だとミケーラすら使えるのだが?


第一王子とその側近たちと剣で手合わせを行うことになった。

結果として全員に勝てた。

普段、母上と闘っている俺からしたら、同年代の子供の剣は止まって見えるほどだ。

技術的にもミカナイ師匠から教えを受けた俺を上回る者はいなかった。


皆、俺の実力を褒めたたえてくれたが素直に喜べない。俺は自分が強いとは思えないのだ。

あまりに俺が謙遜するもので雲行きが怪しくなった。


「セルジュ、謙遜は美徳だが、過ぎれば相手に失礼だよ。」


そう指摘してきたのは第一王子のセコンド・コスタンティーノ・ヴィスカルディ様だ。

それはそうなのだが、妹達の実力を知っているとうぬぼれたことなど言えるわけもない。

そう、妹たちだ。

ルアーナが俺より優れているのは分かっていたことだ。

しかし、最近になってルアーナと一緒にいることが多かったミケーラまで強くなっていたのだ。


「お兄様、剣で手合わせしましょ」と可愛くいってきたと思ったら、ボコボコにされてしまった。

なんでも家を抜け出してミカナイ師匠に毎日稽古をつけてもらっているらしい。

羨ましい。俺も母上とではなく、ミカナイ師匠と稽古がしたい。


話がそれた……。

俺は妹たちの話を言って聞かせるとセコンド様たちは疑わしい目を向けてきた。


「お前の剣は圧倒的だ。この俺が負けたんだぞ? それ以上に妹が強い? そんなわけがあるか。女が男より強いわけがない。」


そう言ったのは騎士団長の息子、オレステ・メダルド・シモノアだ。

”女が男より強いわけがない?”。何を言っているのだ。女が強いに決まっている。

我が家の強さを順で表すとルアーナがトップで次にマチルダ様、その次が母上でミケーラと続き、父上、最後に俺だろう。


すでに父上よりミケーラの方が強いような気がする。それもあってか俺の常識では女に男は勝てない。

これは父から教わったことなのだが、男の脳は理論的で、女性の脳は感覚的なのだとか。

それを聞いて「なるほど」と思った。

戦闘においていちいち理論で考えていては判断が遅れてしまう。 瞬時に相手の隙を感覚で掴める女性は戦闘向きな脳の構造をしていると言えるだろう。

その証拠に母上の剣は非常に感覚的だ。こちらの隙を的確についてくる。

どうやっているのかと聞くと「なんとなく」と答えが返ってくるのだ。

男の脳ではたどり着けない領域だ。


だからと言って剣術をおろそかには出来ない。いや、女より劣るからこそ余計に頑張らねばならないのだ。

俺は将来、領地を継ぐ。

今はおじい様が健在で領主をやっている。次に父上が継ぎ、そのあとは俺が継ぐことになるだろう。

領地の危機においては先陣に立って闘う必要がある。

例え敵が女だからと言って、逃げるわけにはいかないのだ!


「セルジュは妹さんのことが好きなんだね。」


そうニコニコしながら言ったのは宰相様の息子、オッツォ・アンセルミ・ヴィリヤネン。

オッツォはいつも笑顔で接してくるが、どうにも俺は苦手だ。

紫色の瞳で見つめられると心の奥底までのぞき込まれるような気がするのだ。


「神は申しております。隣人を愛せよ。家族を愛せよ……と。家族仲が良いのは素敵ことです。」


胸の前で手を組み、小さく祈りをささげたのは教会のトップ、神官長の息子のフルヴィオ・ニッコロ・ヴァレンティーニだ。

フルヴィオは穏やかに微笑んでいる。

彼はいつも祈りの言葉を口にしている。


愛せよ……ねぇ。

母上は俺を愛してくれている。だけど、剣の事となると非常に厳しい面がある。

俺は当初、母上に嫌われていると感じていた。ボロボロになるまで剣の修行をさせられるのだ。愛を感じることは出来なかった。

ただ、ある時マチルダ様が教えてくれた。母上は非常に不器用な人だと。子供への接し方がわからないだけなのだと。

この国では剣術に重きを置いている。剣が扱えない領主は軽んじられる傾向にある。

母上はそれを懸念し、必死に剣を教えてくれていたのだ。

そう聞けば厳しいのも頷ける。それも愛であることに間違いない。

ただ、俺が感じることが出来なかっただけだ。

マチルダ様が教えてくれなければ生涯気づけなかったかもしれない。


愛し方は人それぞれで、それを受ける側も人それぞれ。

その時の心の持ちよう、言い方ひとつで伝わらないことだってある。

そんなことを思うとどうにもフルヴィオの言葉は軽く感じる。

ただ愛を説くだけではダメだと思ってしまう。耳聞こえの良い美辞麗句を並びたてているだけではないのか? と感じずにはいられないのだ。


「身内贔屓ってことか? それでもセルジュ、お前より強いという発言はいただけない。お前に負けた俺が女に負けたことになってしまう。」


オレステは騎士団長の息子ということもあってか強さへの拘りが強いようだ。

その男が女より強いっていうのは何だろうか?

そんな”創作物”ファンタジーノベルでも流行っているのか?

……男が女より強いか。確かにそんな世界があったら面白いかもしれないな。


俺の発言を嘘と断定されるわけには行かない。

本人がいないところで嘘を付き、「妹は自分より弱い」と吹聴して回ったとあってあまりにも情けない。勝てなくともせめて誠実でありたい。


「いや、しかし……」


「まぁまぁ、そこまで言うなら実際に確かめてみたらどうだろう?」


さらに言い募ろうとした俺の言葉を遮り、オッツォがそのようなことを言った。


「確かめる?」


オレステが疑問を口にする。


「セルジュの妹に実際にあって確かめれば良いと思うよ?」


オッツォは新しいおもちゃを見つけたかのような無邪気そうに笑った。


その一言でコルンブロ領行きが決まった。

皆それぞれ忙しいだろうに全員が日程を調整しうちに来ると言う。

「妹に負ける姿を皆に見せたくない」と言えば「オレステに実力を図ってもらうから大丈夫」となり、「忙しい皆をコルンブロまで来てもらうのは……」と言えば「地方の状況を知るのも大事なこと。」と返されてしまった。

別に来てもらうのは何も問題は無い。ただただルアーナがどのような返しをするのか予測できないので不安だ。

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