第17話 魔王があらわれた!

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あれこれ試してみた結果、非常に弱いがそれっぽいものを感じることは出来た。

だが、すぐに魔力の感覚に流されてしまう。

まるで大海に出来た波紋のような感じだ。波に飲まれてすぐに消えてしまう。

難しい……。

もっと陰の気を強くするため、ゾンビを数匹集めてみたけど変わらない。


(もっと強いアンデッドなら陰の気も強いかな?)


やり方としては間違ってはいないと思う。

だが、強いアンデッドと相対するのはリスクを伴う。


(う~ん、ゾンビがこれだけ余裕だったのだから少し強いくらいならなんとかなるか?)


俺自身のスペックとしては防御や攻撃はそこそこあるのだけど、HPは限りなくゼロに近い。

4歳児だもの……。

成人男性に殴られただけで致命傷だ。

万が一、防御魔法を貫通する一撃をもらったら即死亡である。

そうならないように防御魔法を訓練してきたものの、防御無視とかあるじゃん?

過信はできないよね。

固定ダメージ攻撃とかもありそうだしね。


両親に聞いた限りではそのような攻撃を使うモンスターはいなかった。

現代のネット社会と違い、情報を得るにはそれなりの手間がかかる。

そこを考えるとあまり鵜呑みにも出来ない。


一方、そのような攻撃の存在を確認したい気持ちもある。

チート野郎が使ってくるその手の攻撃は強力なことだろう。

その辺の雑魚モンスターの攻撃を解析し、対策を取っておけばチート野郎にも対抗できるかもしれない。


(悪い風に考えてばかりだと何も出来なくなってしまうからな。かめ〇め波のためだ! ここはリスクを取ろう!)


というわけで、モンスターが発生している方向に向かって移動する。

発生源にはより強いアンデットモンスターがいるかもしれないという考えだ。

探知魔法を使い、ゾンビがやってくる方向へ向かう。


荒地に到着。普段、俺が練習で使っている場所とはかなり離れていた。

そのため、俺はゾンビの存在に気が付かなかったのだろう。

ここら辺を見る限り、先ほどと変わらない普通のゾンビだ。


(荒地の中……かぁ。ゆっくり飛んで、探知距離を短くすれば併用できるか。)


荒地は魔法制御が難しい。

荒地の中でも探知魔法は1km先まで確認できる。

飛行もあまり早く移動しないならそこまで負担ではない。

行ってみるか。


しばらく荒地を進んでみるが上位のアンデットはいない。

相変わらずゾンビやスケルトンだ。

見かけたやつは一応、倒しておく。


(徐々に数が増えてきたな。そろそろ発生源かな?)


――それは突然だった。


ギュン!


とんでもない速度の魔力弾が俺に向かって迫ってきた。

探知魔法に引っかかったと思った直後には目の前に迫ってきていた。


これを回避できたのは偶然でしかない。

反射的に身を強張らせるように飛行魔法を操作した結果、魔力弾は直上を通過していた。


「チッ! 今のを避けるか……。」


俺の10mほど先に女の子がいた。

血のような紅い髪、ルビーのように輝く瞳、年のころは10代前半と言ったくらいの少女が俺と同じように飛行魔法で空に浮いている。

黒い、ゴスロリのような服を着ている。

とても美しい少女だが、なぜか肌が泡立つような感覚を覚える。寒気ってやつかな?


「貴様! 何者だ!」


「ルアーナと申します。初めまして。」


何者だーと聞かれたので丁寧な礼をしながら名乗る。

いきなり攻撃されたけど、相手は会話をする気があるみたいだ。

正直、対処に迷うな……。こちらからも攻撃したほうがいいのか? それとも会話を続けるか……。

これがムサイおっさんだったら迷わず攻撃を仕掛けるのだけど、美少女だしなぁ……。

とりあえず相手の出方を伺おう。


「あ、うん? そうか……」


まさかご丁寧に名乗られるとは思ってもみなかったのか少女が挙動不審になってしまった。


「えっと、その、なんだ……。こんな夜更けにお前のような小さな子供がここに何をしに来た?」


もっともな質問だ。荒地に立ち入る人はいないという話だ。ましてや4歳児がうろつくような場所ではない。


「はい、私の住む街に最近ゾンビやスケルトンと言ったアンデットが押し寄せるようになりました。その原因を探るため足跡をたどって調査に来ました。」


「あー……。なるほど……。つまり、お前は帝国からの追手ではないと?」


「帝国の追手? いえ、私はヴィスカルディ王国の貴族、コルンブロ家の長女です。」


「ふむ、嘘は……言ってないようだな……。」


美少女はしばらく考えるような素振りをし、そのあとこちらを向いた。


「あ~、いきなり攻撃を仕掛けて悪かったな。私はちょっと追われていてな。お前のことを追手だと勘違いしてしまったのだ。」


少し気まずそうにしながらそんなことを言った。


「いえ、私も十分怪しい存在だと言うのは理解してます。そのように疑われるのも仕方のないことでしょう。」


両親曰く、俺の実力はすでに通常の魔法使いを凌駕しているらしい。

いくら異世界と言っても4歳児が魔法で空に浮いているなど、はたから見れば奇妙に移ることだろう。


「あの、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


俺は名乗ったが相手は名乗っていない。

この美少女の名前は? そしてなんで帝国に追われているか確認したいところだ。


「ふむ、我の名を知りたいか?」


唐突に尊大な口調で話し始める美少女。


「え? はい。教えてください。」


「フハハハハハ! ならば答えよう! 我こそは魔王マーフ・ミトラ・タスクリーフ!! 真祖にして最強の死を超越せし者トランセンド・デスである!!」

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