第38話 レスバ!

さて席に着いたものの誰からも話しかけられない。

っていうか最初の挨拶以降、このテーブルでは会話がない。

あれだ。俺の威圧を受けているっぽい。

つまりこいつら全員俺に悪感情を抱いているってことだな。

ふむふむ、思った以上に黒目黒髪への差別は強いようだ。


「え、えっと私は別の方にちょっとご挨拶に行きますので……」


そう言って一人席を立つと「わ、私も……」と続いてどんどんいなくなった。

そして俺だけ残ってしまった。

この腫物を扱うような感じ……。まるでヤンキーになった気分だ。

でもまぁこれはこれでありだな。

あとは適当にお茶とお菓子食べて終わろうかな。


そう思っていたのだけど周囲の噂話を集めるために広げていた盗聴ネットワークに不穏な言葉が聞こえてきた。


「何あなた、その髪の色は? よくそれでこの場に来れたわね。恥ずかしくないの?」


「ほんとですわ。黒なんて汚らわしい。」


「呪われた色だわ。」


俺のことを言っているのか?と思ったらどうやら違うらしい。


あらら、俺が威圧ばらまいているせいで別の人がターゲットにされているようだ。

俺以外に黒髪がいるのか?

ちょっと見に行ってみるか。

隠形術を駆使し、そっと近づく。


現場はメイン会場からやや離れた一角。

立木のせいで見通しが悪い。

良くまぁこういう所を見つけるよ。


こそっと覗いてみると一人の小柄で地味そうな子を三人の派手めな子たちが囲っている。

小柄な子は髪の色は深い藍色だ。

なんだ、黒じゃないじゃん。

光の加減では黒に見えないこともないか?


「わ、私の髪は黒じゃありません。」


小柄な子は体から絞り出すように言い返す。


「何? 口答えするつもり?」


「生意気ね。」


「そんな態度取っていいのかしら?」


どこのヤ〇ザだよ。事実を言っただけだろうに。

イジメている側は誰かしらターゲットがいれば良いのかもしれないけど。

俺の身代わりでイジメられているなら助けないとな。


さて、どんなテンションで割って入ろうか。


「何をしているの、あなたたち!」って熱血正義のキャラっぽく行くか、それとも「……何をしているの?」って感じで清楚な感じで行こうか。

やはり、ここは清楚キャラだな。

熱血も良いのだけど、感情的に行くと論点がズレる。

正義は我にあり。粛々と理論で詰めてやるぜ。


「……何をしているのかしら?」


しずしずと、そして優雅にかつ堂々と歩き、地味な子を庇うようにイジメっ子との間に立つ。。


「……あ、あなたには関係ないわ!」


うん? なんか怯えてない? 

反応がまるでヤンキーに出会ったみたいな感じだな。

ここは優しく優雅なお姉さんに叱られる感じの反応をしてほしかった。


「あら? そうなの? 黒髪がどうこう聞こえたのだけど……」


「こ、この子の事を言っていたのよ。だから本当にあなたは関係ないの!」


必死に俺のことじゃないアピールしなくても……。

そんなに怖いのか?


「あらあら? この子は深い藍色よ? 黒じゃないわ。黒髪というのはこういう色なの。」


そう言って俺は自分の髪に指を通しサラサラと流してみる。


「艶やかで美しいでしょう? この子の深い藍色の髪も夜空のように美しいけど、純粋な黒髪は深みが違うのよ?」


ふふふっと笑い掛けながら続ける。


「御存じ? アッテラ国では黒髪は高貴な身分の証なの。マムタ王国では幸運を呼ぶと謂われがあるのよ? 不吉だなんて言っている国は本当に少ないの。」


俺が読み漁った本や、鑑定で調べたところ黒髪黒目を忌み嫌っている国は少ない。

逆に生まれつきの白髪は嫌われている国が多い。

回復魔法が使える白髪の方が重宝されていると思ったのだが、不思議な物だ。


何故そうなっているか推察してみた。

回復魔法は見たまま回復したことが分かる。それならば権力で脅して使わせることも出来るだろう。

かたや闇魔法の幻覚や混乱は有効な関係を築いていないと使ってもらうことが出来ない。それに敵対するには厄介だ。為政者に取って有用でかつ、厄介な闇魔法の使い手とは仲良くなっておいた方がよいって判断なのだろうな。


このお茶会会場に張られている魔法阻害の結界も闇魔法っぽいし。

後で知ったけど、この魔法阻害はママンが作った魔道具だったよ。


「それで? 黒髪の何が問題だと言うのかしら?」


「あ……、え? 闇属性は悪い魔法で……。」


「何が悪いの? 闇魔法では直接の破壊は出来ないのよ? 例えば火魔法。燃やして灰にするしか出来ないじゃない。破壊をまき散らすことしか出来ないなんて……。そちらの方が悪い魔法ではなくて?」


火は料理とか出来るけどね。

火の有用性について下働きなんてしたことないからお前ら知らんじゃろ。

ちなみに闇属性魔法で破壊が出来ないのは一般的な話だ。俺は出来るが。


「えっと……。えぇ?」


「そ・れ・で、闇魔法の何が悪いの?」


「……えっと闇魔法は、その、人を惑わすから……。」


「なるほど。人を惑わすのは悪と言うのね。……ところでジュリアーナ王女殿下はとてもお美しいわよね?」


「……えぇ、そうね?」


質問の意図がわからず困惑したような顔で答える。


「美しさは人を惑わせると言うわよね。あら? あなた確か惑わせるのは悪と言っていたわよね? それはジュリアーナ王女殿下を悪と言っているのかしら?」


「ち、違う!!」


「あらあら、違う? ジュリアーナ王女殿下が美しくない……と? それは不敬ではないかしら?」


「ッッ!!」


ついに黙ってしまった。

くくくっ、8歳児程度のレスバならいくらでも論破可能だ。それあなたの感想ですよね?


「うぅ!」


そしてイジメっ子は目に涙を貯めて走り去っていった。


「い、イレーニア様!?」


残った取り巻き達もイジメっ子に続き退場していった。

その姿を見送った後、俺は振り返りイジメられていた地味子を見る。

改めてみると小柄で可愛い子だな。

こんな子と友達になれたらなぁ。

俺の友達ってまーちゃんしかいないからな。

親に紹介できる普通の友達も欲しいところだ。

お茶会に参加して誰とも知り合わなかったと言ったらママンが心配するかもしれないしな。


「大丈夫だったかしら?」


優しく、笑顔を作って呼びかける。


「は、はいぃぃ」


……めっちゃビビってるじゃんね?

あれ? おかしいな? 敵対には威圧を与えるけど、良感情を持っている人には安心感を与えるはずなんだが……。


「あ、ありがとうございました!!」


地味子はお礼を言ってがばっと頭を下げるとそのままの勢いで走りさってしまった。


「……友達ってなかなか出来ないものね。」


思わずそんなことをつぶやいてしまったよ。

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