第8話 攻撃魔法と言えば!


……

…………


夜になり行動を開始する。

探知魔法で屋敷中を探知する。

護衛か何かだろう、不寝番だと思われる人達以外は寝たようだ。

無属性の魔力で軽く浮いて、球状の壁を構築していく。

ふよふよと浮きながら魔力でドアや窓を開け閉めして外へ出た。

音を立てないようにそっとね。


そして不寝番の人に気が付かれないように急いで上昇し、高度を取る。


「うわぁ……」


空に浮かび、当りを見渡すと一面の星空。

地平まで続く星の海が広がっている。

俺は思わず感嘆の声を出していた。


前世の話になるけど、綺麗な星空が見えると評判の温泉宿に行ったことがある。

そんなときに限って曇りだったんだよね。

他にもキャンプとか登山とか何度か挑戦したけど曇ってたのよね。

あれかな? 何かの呪いだったのかな?

思わぬ形で満点の星空を体験できた。これは良いものだ。


……さて、何時までも眺めていても仕方がない。

今度は下を眺める。

俺が住んでいたところはどうも屋敷を中心とした城壁都市のようだ。

屋敷の周辺は広く庭園があり、さらにその外には高級そうな家々が立ち並んでいる。外壁に行くほど見すぼらしくなっている。


(人が多いところで魔法の練習何て出来ないような。)


今の予定では山が吹っ飛ぶほどの威力が出るはずだ。

そうなると音はかなり凄いな。

ひょっとしたら衝撃破が大地玉を一周してしまうかもしれない。となると音は地上すべてに伝わる可能性もある。


うん、音に関しては諦めよう。

せめて地平線の向こう側でやろうかな。

5kmも離れれば地平線に隠れるが余裕をみて30kmくらい離れておくか……。

あくまで大地玉が地球と同じ大きさだったらの話だけど。


とりあえずもっと高度を取る。

そんでざっくり30km圏内に人家の無い場所を探す。


(お! 近場に荒地があるな。ちょっと行ってみるか。)


そちらに近づいてみると見渡す限りの広範囲に渡り、赤土が露出した場所があった。


(よし! この真ん中あたりでやるか、距離としてもかなり離れるし、魔法の被害で生態系を狂わすなんてことも無いだろう。)


荒地の中心部に向かって飛ぶ。

ばびゅーんっと勢いよく荒地上空に飛び込んだが何かおかしい。


(なんだ? めちゃくちゃ飛行魔法の制御がしんどくなったぞ!?)


目に魔力を込めて辺りを見てみる。


(これは……、嵐?)


魔力があちらこちらで渦を作り、激しくぶつかり合っている。

慌てて荒地上空から離脱する。


(何だろう? この場所は? )


この世界にはこんな場所があちこちにあるんだろうか?

おそらくこの魔力の乱れによってここの大地が荒れているのだろう。

……きっと古代文明が何か派手な魔法実験を大失敗でもしてこんな感じになったんだろうな。

異世界と言えば古代魔法文明。今よりずっと進んだ魔法技術を持っていて暴走した魔法技術で滅んでいる。これ、異世界の常識。


(どうしたものかな? ここは派手に魔法を使っても周囲に被害出ないけど、状況が特殊過ぎる……。)


今から行うのは通常条件下での攻撃魔法であって、こんな特殊条件で使う魔法ではない。

先々ではこのような状況でも魔法が使えるようになりたいけど、まずは通常状態で使えるようになりたい。


(どうもこの荒野周辺には人が一切住んでいないようだ。端っこでやるかな。)


魔力が安定している場所を探して練習を始める。


練習すべき攻撃魔法はもう決まっている。

先ほども少し話たが、山を一つ吹き飛ばせる魔法だ。


その名も”竜〇斬”ドラ〇スレイブ


アラフォー世代でこの魔法を知らない者はいないだろう。

もちろん、詠唱を含めてだ。

疑うならアラフォー世代に「黄昏より暗きもの」と語りかけてみれば良い。

きっと百人一首の下の句を答えるがごとく「血の流れより紅きもの」と返してくれることだろう。


もちろん俺も知っている。

そして多大な憧れを持っている。

この魔法において詠唱のテンポや発音が大事だと魔導書原作小説に書いてあった。

アニメで何度も聞いた。ハヤシ〇ラボイスで脳内再生余裕だ。

完璧にトレース出来る!!


では早速やってみよう。


「黄昏より暗きもの 血の流れより紅きもの ―中略― 等しく滅びを与えんことを ”竜〇斬”ドラ〇スレイブ!!」


し~ん


あれ? 発動しない……な。

何か間違っていただろうか? ……あっ!

そうだった。この魔法は魔王の力を借りて行使する魔法だった。

きっとこの世界には赤眼の魔王ルビーアイこと魔王シャブ〇ニグドゥがいないのだろう。


それなら仕方ないね。

別の方法で実現しよう。

借りる相手がいないのであれば自分でやるしかない。

力技とも言う。


さて、まずは ”竜〇斬”ドラ〇スレイブの映像を思い出してみよう。

たしか紅い閃光が迸り、その光が収束し大爆発を起こしていた。

どうやろうか?

爆発を起こす核が必要だと思われる。

そこへ魔力を注ぎこみ、限界を超えたら爆発するっていうのはどうだろうか?

注ぎ込む魔力を紅い閃光として表現すれば似たようなグラフィックになるはずだ。


まずは魔力が一方通行可能な壁を作らないとな。

それで球体を作り、内側に魔力がたまるようにしよう。


……

…………

………………


爆発させるなら――火属性だね!

大爆発は出来たよ。出来たのだけど……なんか違う。

こうじゃないというか……。


確か”竜〇斬”ドラ〇スレイブは着弾点を中心として紅い半球状に破壊をまき散らしていた。

地面があるから半球状なのだろうけど。

火属性を圧縮して爆発させても爆発は綺麗な半球状に広がるわけではない。

ドカーンっと吹っ飛ぶだけだ。


他の属性もいろいろ試した。

氷属性なら一度に周囲を凍らせたし、雷属性なら電撃をまき散らした。

圧縮と爆発や破壊というイメージで魔法を使うとこうなるようだ。


当たり前だけど爆心地ほど威力が高く、遠ざかれば減衰する。

ゲームのように範囲内は一定の威力とはいかない。


(これだと打ち漏らしが怖いな。)


範囲魔法をバンバン使って敵を圧倒しているつもりが打ち漏らしばかりで全然殲滅できていなかったとかになりかねない。

大雑把に魔法を使っても倒したかわからないのは困る。


(範囲内を殲滅する方法と打ち漏らしを確実に倒す方法を考えようかな。)


眠くなってきた。そこそこ時間が経った……と思う。時計が無いと不便で仕方がない。

本日の練習はここまでだな。

飛んで戻ると街が何やら騒がしい。


(こんな夜分に何事だ?)


疑問に思うが確かめる手段もない。

あれ? 屋敷もちょっと騒がしいな。

なんとか人に見つからないよう部屋に戻り、その日は寝た。


翌日、騒がしかった原因が分かった。

突如鳴り響いた爆発音の数々が原因らしい。

うん……。たぶん俺じゃないかな?って思っていたよ。

ただ、現実から目を逸らしたかったんだよ。


攻撃魔法の練習はもうちょっと工夫して静かにやるようにしよう。

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