第2話 黒目黒髪

◆3人称視点 コルンブロ伯爵家の執務室。


そこで男女が向かい合って座っていた。

濃い青髪で優しそうな顔立ちの男、リヴィオが黒髪の女性へ話かける。


「マチルダ、ルアーナは様子はどうだい?」


「変わりはありません。」


「そうか。やはりあまり泣かないのかい?」


「……そのようですね。」


「あんまり気にすることはないよ。きっと大人しい子なのだろう。」


「あの子は私の血を濃くついでしまいました……。」


マチルダはそう言って自身の長く黒い髪をそっと掴んだ。

その表情は愁いに満ちている。


「僕は綺麗な髪だと思うけど。」


「ありがとうございます……。そう言ってくれるのはあなただけです。私の両親でさえ……。」


「『黒目、黒髪は悪魔の子。忌み子である』なんて根も葉もない噂だよ。だいたい、それの言われすら不明なんだ。いつ誰が言い始めたかわからない話が蔓延してしまった。僕としてはそちらの方が気になるところだけどね。何者かの意思を感じるんだ。」


「え? それはどういうことでしょうか?」


「黒目、黒髪の子はどうも魔力が強い傾向にあるみたいなんだ。君もそうだろう? この国からそう言った人材を排除したいのかも。」


「……この国の弱体化を狙っているということでしょうか?」


「可能性の一つとしてね。『平和を愛して武力を捨てろ』とかと同じやり口だね。耳聞こえの良い言葉で相手操って、自ら武力を捨てさせる。そうすれば攻めるときに楽だからね。手間はかからずに効果は大きい。魔力が強いものを妬む気持ちを利用しているのだろうね。」


魔法という力に憧れを抱くものは多い。しかし、それを行使するには多くの魔力を必要としている。

魔法は使う者を選ぶ技術なのだ。

また修練方法についてもこの国では秘匿される傾向にある。各家々、各流派で秘伝とされ、外部の者がその技術を知る機会はほとんどない。そのため折角生まれた優れた技術が途絶えてしまったものも少なくない。

また、魔法の優劣をつけるのは非常に難しい。模擬戦を行うにしてもお互い命掛けとなってしまう。優れた技術を生み出した者ではなく、分かりやすい偉業を成した者だけが名を残すことになる。


「我が国はただでさえ魔法に関して後進国だ。他の国では魔力を数値で表す試みが始まっているようだ。あと各家々、各流派の技術を体系的にまとめることもね。それらを教育し、成果も出している。戦場で組織だった魔法の運用も始まることだろう。」


「そのように戦場が変わるのであれば対策を取らなくては……。」


「我が国として剣技に重視する傾向にある。盾や鎧で受ければいいと考えているみたいだね。魔法使いは軽んじられるからね。意見具申しても通りにくい。」


「それでアウグスタ様とも結婚を?」


「そうだね。正妻はあくまでマチルダ、君だけど魔法使い同士の子供では家として軽く見られてしまう。アウグスタは剣技で名を馳せた女傑だ。アウグスタの実家も家格が高いうちとの結婚を希望していた。」


「アウグスタ様は悪い人ではないのですが……。」


「ふふふ、そうだね。実直な人だ。ただ周囲の評判に流されやすい。魔法を軽視し、剣を重視する。そして黒目、黒髪の悪評を本気で信じているみたいだね。」


「親の仇でも見るような目で見られるのは少々……」


「僕もただの迷信だと言っているのだけど……。せめてアウグスタとの間に出来た息子のセルジュがそのような考えに染まらないようにしないと。」


リヴィオは小さくため息をし、息子セルジュの教育方針について考えを巡らせるのであった。

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