第44話 警告!


■帝国・魔王マーフ城 攻略軍 司令官 視点


ヴィスカルディ王国の騎士が魔王マーフの居城から金銀財宝を持ち帰った――

その噂が我が帝国に届いたのは昨年のことだ。


前回の魔王マーフ城へ侵攻した際、魔王本人を打ち取ることは出来なかった。

その為、どこかで生存しており報復される可能性について帝国内で議論されていた。

それが的中していたというわけだ。


今回の魔王城攻略には二つの意味がある。

魔王側の戦力が整い、帝国へ報復してくる前に叩くことが一つ。

ダンジョンがあるところには龍脈がある。新たな龍脈を得ることが一つ。


これらが作戦目標となる。


前回は魔導騎士200機を導入し、半数が打ち取られた。

今回は前回より出力が1.5倍になった魔導騎士を400機導入している。

魔導騎士用の魔導ライフルの攻撃力も上がっている。

そのうえ、開発に成功した魔導飛空艇が20機、空から攻撃を仕掛ける。


歩兵も2000名動員している。

全員、人用に開発した魔導銃を装備している。

装填されている弾丸は全てアンデット対策に聖属性弾だ。


負ける要素がない。


これが魔導騎士の開発者であるアルギュリーン伯爵や上層部の考えだ。

それに私も賛同している。


今回は出力や投入された数が上がっていることもあり、全機生還を目標としている。


「敵側の想定防衛ラインまであと10kmです。」


「予定通り想定防衛ライン2km前まで前進。そこに陣を敷く。」


「了解。全機に伝えます。」


今、私がいるのは指揮車両と呼ばれる魔導車の中だ。

かなり大きな車両で、10人は入って会議が出来るようになっている。

そこに今は作戦参謀や副官が席についている。

それ以外にも通信専用の要員が5名が乗っている。

この指揮車両から魔導通信で全部隊に命令を出せる。

各部隊の情報はこの指揮車両にすべて集められ、戦況に応じて柔軟に作戦を変更できる。


「しかし、スヴェン・ダーグ・アルギュリーンは天才だな。」


「はい、彼が開発したもので生活は一変しましたね。もはや魔物に怯えて暮らす生活は過去の物です。」


どこの国も魔物の脅威にさらされている。

しかし、我が国は魔導銃の登場により一般兵でもある程度までの魔物に対処できるようになった。

対処できない魔物が出ても、魔導通信を用いて駐屯所へ連絡が入る。そこからすぐに騎士が魔導車で現場に急行し対応がとれる。


魔物の被害は激減した。

便利な道具もあり、農地も増え、食料事情も大幅な改善が見えた。

そのおかげで人口は急激に増えている。


通信設備、魔導銃、魔導騎士に魔導飛空艇……。

もはや我が帝国に敵はない!

増えた人口を兵として使えば他国へ攻め込むことも出来る。


これまでは戦争を起こすのは非常にリスクが高かった。

敵は人間だけではない。

万が一攻め込んでいる間に魔物のスタンビートが起これば国は壊滅してしまう。

小国相手ならともかく、大国相手には慎重にならざるを得なかった。

しかしこれからは違う。十分な余剰人員のおかげで後顧の憂いなく攻め込むことが出来るだろう。


この魔王マーフ城への侵攻も他国への侵攻を視野に入れてのものだ。

実戦の中で各兵装の最終運用試験を行う。

他国へ攻め込む前の前哨戦として必ず良い形で勝利をもぎ取らなければ。


「予定ポイントへ到着しました。」


「降車して陣を引け、明日の進攻に備え十分な休息を取れ。」


魔導車により移動が改善されたとは言え、移動には疲労が伴う。

物資は十分運んできている。

景気つけに酒でも――


「司令官殿とお見受けする。」


突如現れた声。

気が付けば私の目の前に一人の男がいた。

顔色は悪く、目は血の様に赤い。闇の様な外套を纏い、髪は奇麗に整えている。

不潔さはないがどこか不気味な雰囲気を醸し出している。


「魔王マーフ様の元、外交官を努めておりますジョルノと申します。」


バカな! この指揮車両は特別な魔法処理を行っている。

許可の無い人間は勿論、魔物が進入出来るわけがない!


「司令官殿にお聞きしたい。魔王マーフ様は居城に対する軍での侵攻を禁じている。それを承知での侵攻ですかな?」


「……魔導騎士の登場により、世界は人のモノとなった。人の世に魔王は不要。ご退場願おう。」


「なるほど。ご主張理解致しました。主人へ伝えましょう。」


男はそれだけ言うと解けるように姿を消した。


「ふぅ……。」


思わず息が漏れる。

その時になって初めて同じ指揮車両にいた通信士や副官が静かなのが気になった。

全員眠らされていた。


このような事体は想定していない。

不確定要素だ。

しかし、負けるはずの無い戦だ。

この程度で引くことは出来ない。


……

…………

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