第五話
文亀三年四月初旬、細川六郎と
生まれてから一度も阿波を出たことのない六郎は、この珍妙で豪華な町を物珍しげにキョロキョロと観察している。
少年らしいキラキラと輝いた顔で呑気に首を伸ばして町を観察する姿は愛らしさがあった。
側付きの之長は六郎を守るために神妙な面持ちをして腰の刀をいつでも抜けるように引き寄せる。
堺の町は様々な土地の人間がごった返す異質な町、六郎が貴人と知れれば誘拐すらも恐れぬ輩がおるやも知れぬ。
刀持ちの家人を数人六郎の周囲に配すると自らも周囲の警戒を怠らなかった。
一方でもう一人側付きの家臣として選ばれた
萌黄色の武士はそれに気づくと手を振り返して、長信にゆっくりと近づいてきて
「ようおいでくださった。」
と
「お久しぶりにござる。」
高畠長信も見知った顔なのか気安く話かけると、周囲に警戒していた之長もペコリと会釈をし、武士も会釈を返した。
武士は中央にいる六郎にも気がつき
「これは
と喜びの声を上げた。
「これこれ、元一殿、六郎様と会うのは初めてでござろう。名のりが先であろう。」
長信が注意すると萌黄色の武士こと
「であるな。拙者、京兆家家臣、薬師寺元一と申す。この度は遠路はるばる阿波国からお越しいただきましてありがたき幸せに存じまする。」
と跪き畏まり
「長旅でござったゆえお疲れにござろう。馳走などを用意しております。宿を取っておりますゆえそちらでしばらくお休みくだされ。」
と六郎を気遣い、その日の夜は元一が準備した山海の珍味をふんだんに盛り込んだ豪華な酒宴を開いて一行を歓迎してくれた。
阿波家一行を逗留先にて歓迎の宴をもようした元一は、翌日堺から京に馬を走らせた。
政元に六郎一行の到着を伝えるためだ。
六郎達には逗留先で五月まで滞在してもらった後に上洛してもらい、元服の儀を取り行って正式に嫡子とする予定だと伝え、自らは京にて政元に報告し元服と澄之の廃嫡の準備を執り行うつもりだった。
阿波家との交渉を一任された元一は事前交渉も踏まえ、これまで完璧に仕事をこなしていたが、突然その仕事に待ったをかける出来事が起こった。
気分屋の政元が突然澄之の廃嫡に対して待ったをかけたのである。
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