十一話
突然の
「既に知っておると思うがな、儂は細川の血は一滴も入っておらぬ身の上じゃ。だがやはり幼き時は
懐かしそうに言う澄之を見て六郎は政元がまさかこんなにも澄之に慕われるような関係を築ける人間だとは思ってもいなかった。
六郎から見た政元はあまり感情を表に出さない冷たい人間のような気がしていた。
だが澄之にとっての政元は六郎と全く違う印象だったのだ。
「だがな、儂はいつしか父と血が通っていないことを悲しみ、孤独感を感じるようになっていった。そのせいで儂は愚かにも父に感心を持たれようと我儘勝手に横暴な振る舞いを行うようになってしまったのだ。家人や雑人にも嫌われるようになってしまったのよ。細川の血が通っていない儂に細川を継ぐ資格はあるのかと、せっかく元服して嫡子となったのにな・・・」
「・・・」
澄之の目には薄っすらと涙が浮び上がり言葉には後悔の念がヒシヒシと感じられて。
外から見れば横暴で我儘な澄之も本心はただ父に甘えたいと願い思う普通の十三歳の男子のそれだったのだ。
(噂とは全然違う、澄之様は本当はとても純粋で心優しきお人なのだ。それがただの行き違いで父や家人共と揉めてしまう事になってしまっただけなのだ。この人は既に廃嫡を受け入れていて私に俺のようになるなよと教えてくれているのだ。)
「六郎殿、儂と違ってそなたは細川の血を引く血縁のものだ。だから、細川を守ってくれ、これは儂のような他人の血を引くものでは出来ぬことなのだ。」
澄之はそう言って再び静かに頭を下げる。
その瞬間六郎の背中にビリっと電気が走ったような気がした。
六郎は全く初めてあったばかりの、しかも好敵手とも言える男子が、恥も外聞も捨てて好敵手に頭を下げてまで自分を捨てて細川の家を託そうとする行動に感動を覚え、六郎はその姿に尊敬の念すら感じてしまったのだ。
「やめてくだされ澄之!まだ廃嫡されると決まったわけではないのでしょう?」
六郎は思わず片膝立ちになって頭を下げる澄之の体を起こすと
「そのお気持ち義父上にきっと伝わっておるはずです!」
そう言って気づかぬうちに涙を一筋流していた。
「私は父が幼き時に亡くなり、祖父に育てられてきました。父の暖かさをかすかにしか覚えておりませぬ。優しかった母は父の死とともに祖父に私を託して尼寺に入り
澄之は勢いでそこまで言うとなんだか恥ずかしくなって顔を赤くしたが眼の前の澄之はなんと
「うわぁああぁぁぁん!」
と泣き出してしまったのである。
六郎もそれに釣られて大きな声で泣き出していた。
その日から二人の関係は好敵手から友達に属性を変えてしまったのだ。
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