第十話
「六郎殿、そなた、本日より
六郎は突然の事に驚きを隠せずあんぐりと口を開けて、しばらく言葉を発することが出来なかったが、澄之はそんな六郎の驚きようを察して
「突然にこの様な横柄な言葉、驚いたであろう。すまぬ。」
と六郎に頭を下げると
「儂は明日にも廃嫡されるであろうから、嫡子としてそなたに会える日は今日しかないと思って部屋を訪ねたのだが、そなた、涎を垂らしてだらしなく寝ておったのでな、驚かせてやろうと思って障子の裏に隠れておった。」
澄之はそう意地悪な顔をしてはにかんだ
六郎から見た澄之は少し幼い顔つきで、はにかんだ顔はまるで
六郎はふと高畠長信の言葉を思い出す。
(そう言えば澄之様は義兄に当たるが十三歳の同い年だと言っていたな。女童のような顔をしているが、その見た目とは裏腹に横暴で意地悪だとも言っていた。接する時は慎重に気分を害さぬようにとも・・・)
側付きの高畠長信がそう言うくらいに苛烈な性格だと言う噂だが、六郎はなぜだか本人を眼の前にしてもそのようには見えない。
長信はなにか間違えた噂を聞いたのではないかと思うくらいには噂の人物とは程遠い
それに六郎にはいつ起きるとも知れないのに悪戯したくてソワソワしている澄之を思い浮かべると笑いさえ込み上げてきた。
「澄之様はいつからお待ちだったのですか?」
六郎がそう尋ねると澄之は少し考えて
「ふむ、そうだな
などと言っていたが、実際は四半刻は待ったのでは無いかと澄之が目を泳がせたのを見てそう思った。
「本当はもっとお待ちになられたのでは?」
六郎はイタズラっぽい顔をすると澄之は
「そうかも知れぬな。」
といって縁側の方に顔を背けると六郎は照れた澄之の顔を見てついおかしくなって声に出して吹き出してしまい、澄之もそれにつられて笑うのだった。
二人がそのように少しだけ打ち解けたように感じだした時、澄之が再び
「そなた、嫡子となったようだな。」
そう再び問うてきた。
六郎も少しは澄之の事情を知っていたのでどう答えようかと考えたが、こう直接的に言われれると素直な答えのほうが誠実だと思い
「そう・・・なったようです・・・」
と少し歯切れが悪いが素直に答えた。
澄之はその答えに満足したようにうなずくと
「うむ、左様か。」
と言い澄之は突然頭を下げる。
そして
「すまぬ。儂が駄目な男であったばかりに、そなたを故郷から引き離すようなことをしてしまって。」
そう言って突然謝罪をしたのである。
六郎は澄之が唐突に謝罪を初めて事に戸惑い
「えっ?あ?いあ、そのぉ。」
などとのたまうくらいしか反応できないのだった。
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