三十二話
何故、薬師寺の子供を二人養育する事にしたのかは分からない。
だが一言一言になにか裏がある高国の考えた事に、利がないはずはないと思わせるだけのものがあったのである。
そしてこの場を支配していたのは間違いなく高国であった。
その事が二人にとっては悔しかったのである。
四人が上段の間から退出しようとすると、政元は澄元と澄之を呼び止め再び座らせる。
高国も政賢も振り返ったが、政元が手で出ていくように指示すると二人は
「澄元、高国がすまぬことをしたな。あやつはああやって小賢しい知恵を振り回して、相手の隙を突いて意地悪く責め立てるのが得意な男なのだ。だが、普段優しいそなたが、まさか強硬に薬師寺の子を罪に問おうとするとはな。」
政元の言葉に澄元は恥じるように頭を垂れると澄之が間に入って。
「
政元は澄之の言葉に
「澄元、そなたを呼び止めたのはほかでもない。此度の薬師寺の謀反に阿波の事が絡んでいることはそなた知っておろう。」
澄元は垂れた頭で頷く。
澄元は自分も何か罰されるのかと思い、そのまま平伏するとその姿を見て政元は
「面を上げよ。そなたに出来るような策略ではないわ。之長は全て知っておったようだがな。」
そのように言った政元の顔は優しげだった。
「そなたの罪を問おうとは思わぬ。側付きの者共もな。だが、阿波とはもはや決裂した。
政元は少し寂しそうにそう言ってくれたのは、ほんの少し持ってくれている情のようなものなのだろうか?
澄元はそう考えると手切れのために送り返されてしまうのに、なんとなく嬉しくも思った。
澄元にとって政元はなんとなく近寄りがたい存在、そのように思っていたが、相手は少し位は情を持ってくれていたのだ。
だがそれはそれとして、ようやく住み慣れてきた
しかし、阿波が征伐されるやも知れぬ状況で、人質とされずに送り返されるだけでも感謝せねばならなかった。
澄元がふと澄之の顔をちらりと見ると、澄之は唇を噛み締めて悔しそうにしている。
この様な事にならなければ澄之ともっと
そう思うと政元の措置に感謝しつつも悲しい気持ちになるのである。
「残念でございますが、致し方ありません。」
澄元はそう言って平伏した。
「本当に残念だ。だが、
政元は眉間に
そんな政元の顔を見て何故か澄之の方が
「澄元、すまぬ。儂はそなたが京にいる間、何もしてやれなかった。さっきもだ。そなたがこんなに短い間しかおらぬのであれば、もっともっと沢山話をしておくべきであった・・・」
澄之の涙に澄元もつられて涙を流してしまう。
政元はこの様な純朴な子供達を政治闘争の渦に巻き込んでしまったことに苦衷を感じながら扇子でそっと顔を隠したのであった。
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