四十八話

 細川政元ほそかわまさもと細川澄元ほそかわすみもとを摂津の守護とすると、三好之長みよしゆきながを畠山攻めを行っている赤沢朝経あかざわともつねの援軍として派遣した。

 猛将と名高い赤沢朝経の軍勢に、歴戦の勇将である三好之長が加わったことで畠山の軍勢はたちまち苦戦し、畠山の勢力は河内や大和から駆逐されてゆく事になる。

 之長の軍功がますます高まることで澄元の家督が盤石ばんじゃくとなってくると、細川澄之ほそかわすみゆきの家督を願う香西元長こうざいもとなが薬師寺長忠やくしじながただらはますます不満を高めていった。

 

 対して澄之は同年の四月に若狭守護武田元信の要請で一色義有の討伐軍を編成し丹後入りした。

 丹波の守護代の内藤貞正が従い宮津城を攻めたが澄之自身が初陣ということもあり、戦慣れしておらず苦戦を強いられていたのだ。

 澄之は宮津城みやづじょうを攻めあぐね、九月になっても落ちなかったため、宮津城を諦め賀屋城かやじょうを攻めると言った具合で、軍才の無いことが露呈した事で京兆家内で頼りにされることが無くなっていったのである。

 軍功を挙げれないことに澄之の焦りは少しずつ増していった。

 澄之自身は澄元を友だと思っていたため家督争いには興味を示していなかったが、仮に今後守護として細川の一翼を担うには武功を示さなければならなかった。

 武士の大将とは軍事に優れ、頼りにされる存在でなければならない。

 その最たる存在が足利幕府初代将軍足利尊氏だ。

 ではそのような才覚が無い者はどうなるか、排除されてしまうか、時代に埋もれてしまうかのどちらかである。

 頼りない守護は国人共に排除されてしまうのだ。

 澄之は気づかぬ間に泥沼に足を取られていたのだった。


 内藤貞正ないとうさだまさは自分は運の無い男だと思っていた。

 何しろ阿波の衆が次の家督となる澄元を擁していたのに対して、丹波の守護となった澄之に従う立場である。

 既に負け組となることが確定している澄之に従うのは特に澄元や澄之の家督に興味が無かった貞正には突然舞い降りた不幸であったのだ。

 

 「澄之様はまだお若い、いずれ必ずや軍功に恵まれましょう。」


 などと白々しい励ましの言葉など送って、少しでも自分が従う大将を弱気にしないように努力しているのだが、元々備わっている才覚だけはどうしようもない。

 いつまでも宮津城を落とせない澄之を見るたびにため息が出るのだ。


 (血統が公家なのだ。仕方あるまい。武士のように振る舞わねばならぬ不幸は可哀想だが・・・)


 貞正は次第に才覚のない大将に憐れみすら感じるようになっていった。

 公家の家系なのに武家に養子に出された事も不幸だし、家督になれるのに政治情勢によって家督を奪われたのも不幸だ。

 次第に己の運の無さに澄之の不幸を重ねるようになっていった。

 貞正は家督争いに旗幟はハッキリとしないものの、澄之に対する身の不幸に次第に同情心を持つようになり、澄之の合戦には必ず付き従うようになっていったのであった。

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