四十二話
城将を含め、主力の殆どを引き連れて、讃岐に出陣した淡路島の軍勢は為すすべもなく敗れ、南淡路一帯は殆ど之長の夜襲に屈したのである。
南淡路で唯一抵抗を続けていたのは、籠城を決めた
既に小早が讃岐に向かって放たれている。
中継地点の小豆島へは朝にも急報が届く、
尚春の軍勢は船に
そこに養宜館から逃走してきた野口志摩介も入城し城の戦意は頂点に達していた。
太陽が登り完全に朝となった小豆島の坂戸では讃岐に出港するために船大将の
その頃、沖合に恐ろしく力強い勢いのある
それが湊城から本拠淡路島の危急を知らせる伝令であった。
「なんだと・・・!」
実俊が伝令に報告を受けると丁度軍議を行っていた尚春ら四将の前に血相を変えて飛び込んできた。
四将が何事ぞと立ち上がると
「淡路が・・・三好に急襲されました・・・」
実俊が青い顔で報告したのである。
本拠地である淡路島が攻撃された尚春は、実俊の報告に言葉を失うと床几にヘタリと座り込んでしまい、
「その報告、嘘ではあるまいな。」
と冷静に反問した。
「敵方の調略やも知れぬ故、全て鵜呑みには出来ませぬぞ。」
「伝令は湊城の
と悔しそうに俯いた。
すると尚春が突然思い出したかのように再び立ち上がると
「撤退じゃ!まんまと之長にやられたが淡路に取って返し之長と決戦する。之長を討ち取った後阿波に侵攻すればよいのじゃ!」
そう血管を額に浮かび上がらせて軍配を力任せに折ると地面に投げ捨てる。
元常も元扶も力強く同意したが一人だけ尚春の意見に同意しない者がいた。
「それには同意できかねる!讃岐に入って之長が居ぬ間に敵を叩けば、勇将を欠いた阿波勢は浮足立とう。淡路に帰って、もしも之長が撤退していればどうするのじゃ。それこそ我らの負けぞ。そうなれば和議しか道がありませんぞ!和議となれば澄之様が廃嫡され、澄元が世継ぎになるかも知れぬ。」
そのためにわざわざ海を渡ってはるばる小豆島まできたのである。
ところが元長は澄之が廃嫡されるのは京兆家にとって痛手であると考えていたが、それは三将にとっては違ったのである。
「儂は澄之様だろうが澄元様だろうがどちらが世継ぎでも良い。政元様の命で阿波と戦っておるだけじゃ。」
元長に反論したのは元扶であった。
元長は元扶が一瞬何を言っているのかよく解らず、耳を疑った。
「は?何を申しておる?京兆家の世継ぎであり、関白様の血を引く由緒正しき血統の澄之様が廃嫡されて、阿波の田舎者が京兆家の世継ぎになっても良いというのか?」
元長は真剣に聞いたのである。
「いかに血統が良くとも細川の血を持たぬ者だ・・・元長、そなた澄之様を世継ぎとしたいようだが、その事でそなたに同調することは無い。それに、今讃岐に上陸しても淡路を奪われた今、敵中に孤立するぞ。我が軍の半数以上は淡路の衆で構成されておる。故郷を奪われた淡路衆が敵中で戦えるわけがない。」
腕を組んで重々しく言う元常の言葉に元長は愕然としガックリと俯いた。
「領地を守れずして何が守護ぞ!淡路にて之長を討つ!」
尚春は自らを鼓舞するように力強くそう言うと敵に見立てて床几を蹴ったのであった。
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