二十一話
思わぬ深夜の逃走に
昨日までの自分にこの様な姿が想像できたであろうか?
(長忠は俺を
元一は恥じても恥足りず自害して詫びようかと何度も思ったが、その度に郎党が励まして淀城へ向けて歩を進めた。
追う兵が間断なく現れ、見つからぬように
「まずいな・・・」
夜が白んできたということは敵の動きはより活発になるはずだ。
このまま行けば淀城に辿り着く前に捕縛されてしまうかも知れない。
せめて籠城して一矢報いたいと言う気持ちが時間が立つに連れて、元一の中でムクムクともたげてきたのだ。
(追手は間断なく来るが兵は多くない、長忠は迅速に屋形を攻撃するために小勢で夜襲を仕掛けてきたのだ。抜かった・・・せめて手勢を纏めて抵抗しながら退くべきであった。長忠の事だ。後詰めを用意しておるに違いない。三郎、すまぬ。そなたの志に答えることは出来ぬかも知れぬ。)
耳を
数は十程度だが力強い音に危機感を募らせると元一は郎党に近くの
だが、少しずつ馬蹄が近づきその音が大きくなり、耳を澄まさなくとも聞こえるほどの距離に近づくと、先頭の
元一の胸は高鳴り鼓動が外に聴こえそうなほど鳴り響く、馬群の武士たちは付近の地面を探りだしたのである。
数人の武士が這いつくばる姿を見て足跡を探っているのだと察すると、元一の一団は全員刀を引き寄せ柄を握った。
(このまま奇襲して馬を奪うか?)
元一はそのようにも考えたが、追われて疲れ果てた身で勝てるとも思えない。
一か八かの賭けに出るか、このまま腹を切るか、そのように悩んでいると、もう一人、背中に旗を付けた騎乗の武士が駆け込んできたのである。
騎乗の武士が背に付けた旗の家紋は
元一は家紋を見るやいなや、涙を流さんばかりに感動し、これぞ
そう、三階菱の見慣れた家紋は小笠原の家紋、すなわち味方である
元一は転がるように木陰から這い出ると、武士たちは驚いて太刀を抜いたが、ボロボロに泥に汚れた武士共の姿をすぐに元一の一行だと認め、刀を収めて助け起こしてくれたのである。
黒糸縅の具足の武士は元一の汚れた姿を見て
「随分汚れたな。ネズミのようだぞ。」
などと冗談を言って笑った。
「朝経、俺を見捨てなかったのか?」
元一は目に涙を浮かべながら、情けない顔で見ると黒糸縅の武士、赤沢朝経は
「見捨てても良かったが、ここまで来れば
と苦笑いしてそう言った。
地獄のような状況を奇跡的に救い出してくれた赤沢朝経の顔が元一にはお釈迦様のように見えたのであった。
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