第七話
細川政元は
「澄之の儀、
などと言い出した。
「は?もう一度お聞きしてよろしいでしょうか?」
と自らが何か聞き間違いをしたのではないかと勘繰って政元にもう一度聞き返すと、政元は面倒くさそうに
「澄之は廃嫡するに及ばずと申したのだ。」
と左手の
「何を申しておるのです。既に事はすすんでおるのですぞ、殿が私に一任すると申されたのでしょう?六郎様は既に堺まで足をお運びになられているのです。今更廃嫡の儀に及ばずと言われて誰も納得いたしますまい。」
元一は眼の前にいる男が何を言っているのか全くわけが分からず、思わず乾いた笑いが出てしまう。
「分かっておる。澄之は廃嫡せぬ。六郎は養子に取る。それでよかろう。」
政元はそう言って開いていた扇子をパチリと閉じると
「澄之は廃嫡せぬ。六郎は養子に取る。分かったな。」
ともう一度そういった。
「先方には澄之様を廃嫡し、六郎様を嫡子とすると説明いたしましたが、これはいかようにいたすのですか?」
元一は少し語気を強めてそう言うと政元はフムと少し考えてから
「澄之は廃嫡せぬが六郎も嫡子として取れば良い。そもそも廃嫡の件はそなたが勝手に言いだしたこと、儂は養子の件を一任すると申したまでだ。それにな、儂はまだ若い、今すぐ隠居するわけではないのだ。六郎のことを何も知らぬ儂が、突然澄之を廃嫡し、六郎を世継ぎにする事など出来ぬ。澄之も六郎もいま少し見極め、儂が修験の道に専念する折に優れた方を世継ぎとしよう。」
などと言い出したのだ。
それで件の元一の怒声が屋敷内に鳴り響いたのである。
元一はワナワナと体を震わせながら
「このままでは・・・細川の家は滅びますぞ・・・」
となんとか言葉を振り絞り引き出したのはまるで怨念のような言葉だった。
(天に
元一はなんとか政元を冷静に説得しようと
「殿、人の命数はいつ終わるのか分かりませぬ。明日にでもそうなった時、澄之様を
と諫言したが、政元の方もこのように言われては
「六郎と会ったこともないのだ。何故そなたは澄之より優れていると言えるのだ。もし六郎が愚人であれば正式に儂の後を継いだとて澄之を擁立する輩が現れよう。そなたは必ず六郎が澄之よりも優れた才覚を持つと言い切れるのか?」
と政元も意地になって売り言葉に買い言葉で返してしまう。
二人の意見は完全に平行線となってしまったのだ。
元一は今までしたことは無駄だったと悟ると顔を真っ赤にして
「ではもう殿の御意のままになさいませ!私はもうこの件には関わらぬ!」
と完全に呆れてしまったのだ。
元一は私生活では馬鹿だが、政務においては人が変わったように才能を発揮する政元をある種尊敬していたのだが、流石に今回の件で完全に失望してしまったのである。
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