十六話
「訳が分からぬ!」
朝経は合図があればいつでも元一の首と胴を二に分けることが出来る準備は整っていた。
ところがいつ首を切られてもおかしくない元一は落ち着き払っていた。
「朝経殿、焦ってはならぬ。」
朝経の行動を押し留めようと元一は言葉を発するが、朝経の興奮は簡単に冷めない。
「何を申すか。儂はそなたが旧知の友
朝経は遂に刀を抜いて上段に構える。
元一は「まあ聞け」と言うが今にも振り下ろさんと力を込める朝経にその言葉は届いていない。
元一はもう一度館中に響き渡るほど大きな声で
「聞け!」
と腹から声を張った。
静かな部屋に「キーン!」と反響音が響きわたり、朝経も流石にその声に威圧されて振り下ろす手を止める。
「聞け、俺はただ和睦をしろと言うのではない。政元様はな、俺が帰って来ぬ場合、自らこの城を攻め潰すつもりなのだ。和睦の使者に一度裏切った儂を選んだのは、そなたに寝返って謀反しても惜しくも無い人間だからだ。そなたや成之様が考えているほど政元様はそなたの謀反を軽く考えておらぬのだぞ。」
元一は瞬きもせずに朝経の目を見つめると朝経は元一の言葉に嘘が無いことを理解し、遂に刀を鞘に収めたのである。
「政元様が本気を出せばそなた
元一はそう強い眼力で朝経に訴える。
朝経は勢いよく座って胡座をいて
「ではどうすれば良いと申すのだ!」
と半ばヤケクソ気味に言った。
「和睦だ。和睦するのだ。俺も時がほしい。三ヶ月、半年あれば摂津の兵を寄り集めて、そなたと共に澄元様を擁立しよう。」
「偽りの和睦をせよと申すのか。」
「左様、それにな流石に一度謀反を企んで失敗した者が短期の間に謀反を起こすとは思うまい。この和睦で政元様の油断を誘うのだ。成之様にはその時に援軍いただく。」
さっきまで興奮して元一を斬ろうとしていた朝経は、元一の知恵に舌を巻き、感心したのである。
「政元の目を和睦でごまかすか・・・なるほどな、流石じゃ。」
朝経は手を打って喜ぶと元一の勧めに従い和睦する決意を固めたのである。
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