エピローグ
その日の放課後、僕は逢望を空き教室に呼んだ。まだ渡していない、とあるものを渡すためだ。僕のポケットの中にそれは入っていて、僕は右手をポケットに突っ込んでそれを握ぎりしめている。
「想之也、どうしたの?」
逢望が僕のいる空き教室にやって来た。だから、外の景色を眺めていた僕は、逢望の方を向いた。
「あの、まだ渡してなかったものがあったから」
「ん、なに?」
逢望は僕が渡そうとしてるものを全く予想できていないような感じにキョトンとしていた。
僕のポケットにある、あるものは少し前にお姉ちゃんと共に近くのショッピングモールで買ったものだ。少しだけアドバイスをもらおうとして、お姉ちゃんにも来てもらったが、流石に好きな人のために買ってあげるとは言えず、僕はお姉ちゃんに最近仲良くなった人のためと言った。でも、そう言った後にお姉ちゃんは目を細めて僕を見てきた。たぶん、悟ったのだろう。だけど、お姉ちゃんは数時間に及ぶ買い物に最後まで付き合ってくれたのだ。
でも、そんなものもいざ渡すとなると、少しだけ恥ずかしい。
「これ、遅くなったけど、誕生日プレゼント」
僕はポケットの中にあるものを取り出して、逢望に渡した。あの閉じ込められた2日目に逢望は17歳の誕生日を迎えた。でも、僕はまだプレゼントを渡すことができていなかったから、少し遅いかもしれないけれど、このタイミングで逢望にプレゼントを渡した。
「開けてもいい?」
そう僕に聞いてきた逢望の目は真珠みたいにキラキラと輝いていた。僕はうんとだけうなずいた。
逢望はまるで数年前に埋めたタイムカプセルの箱を開くときのように大切にゆっくりとその箱を開ける。
――パカッ。
「か、み、か、ざ、り……?」
逢望は一音一音区切りながらその箱の中に入っていたものを言った。そう、髪飾り。でも、ただの髪飾りじゃなくて、お姉ちゃんのアドバイスもあり、逢望らしいものにした。
「うん、音符の髪飾り」
逢望は吹奏楽部なので、普通の髪飾りじゃなくて、この音符の髪飾りにした。どうやら、今度コンサートもあるらしいし、これが少しでもお守りの代わりになれば僕は嬉しい。
「うん、ありがとう。大切にするね」
逢望の言葉だけでなく、その優しい笑顔が僕にありがとうの感謝を伝えている。そこまで喜ぶのは少し大げさな気持ちもするけど、逢望は素直な人だった。そんなところが、逢望の魅力だった。
僕らはここから見える夕日を見上げた。
空に浮かぶその自然を見て、逢望はなにを思ってるのか、僕には分からない。
でも、僕と思ってることは同じなんじゃないだろうか。
――その先の未来を歩んでいきたい、と。
僕らは高校に閉じ込められている 友川創希 @20060629
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