第26話 報告Ⅱ
「じゃあ、俺らの番か」
流希と笛乃さんのペアはたしか、視聴覚室、音楽室、調理室の3教室を調べてくれたはずだ。まず、流希が視聴覚室について話し始めた。
「まず、入って視聴覚室をゆっくり3周してみたけど――」
「けど……?」
この「けど」の使い方はなにか雲行きが怪しい。雨が降りそうなぐらいに。
「――とくに、何もなかった」
「そうなのか……」
僕の調べた2つの教室はなにかしらの手がかりを見つけたから、この流れでなにかあるのかなと思ったが、そうではないみたいだ。というか、ある方がそもそも珍しいのか。だから、視聴覚室で収穫がないというのはそこまでの話ではないということだ。
「まあ、あそこほとんど使われてないし――」
「あ、でも逢望ちゃんが部活で使っている音楽室では少し見つけたよ!」
このままでは自分たちがただ何もやってなかったペアになってしまうとでも思ったのか、笛乃さんが急に手を上げて、音楽室では収穫があったことをアピールしてきた。別に音楽室でなにも収穫がなかったとしても、何もやってないペアだとは僕は思わないけれど。
「えっとですね――」
主導権は笛乃さんに移り、笛乃さんが音楽室であったことについて話し始める。
音楽室であったこと。壁に貼られている教科書にも載ってるような有名な音楽家たちの写真。それが目がギョロリとし、何か意味深く観察したり、威嚇するかのように見つめてきたり……ということはどうやらなかったらしい。
でも、少し違和感を感じたようだ。それは机の真ん中にもともとは、田畑の作物を喰ってしまう鳥を追いはらうための器具である鳴子や、竹の根の部分を使って作る尺八が置かれていたらしい。それもきちんと置かれていた。
一瞬、吹奏楽部が置いていったんじゃないか(もしくはしまい忘れたんじゃないか)とも思ったが、吹奏楽部の逢望さんいわく、ちゃんと昨日の活動日の帰りに確認したときはなにもなかったし、そもそも鳴子や尺八を演奏している人は部員内にはいないと言う。じゃあ、犯人からのなにかメッセージ的なものだろうか。
「というか、この犯人、まじでどうなってるんだ?」
「考えれば、考えるほど分からなくなってくるよね……」
「まあ、その話は一旦置いといて、もう一つ……」
音楽室であった出来事のもう一つは、大きなピアノ台に置かれた音楽の先生のファイル。それを少し覗いてみたらしい。最初の方は楽譜や活動記録など至って普通な資料がしまわれていたが、一番最後のページには『
その音楽家が少し気になり、先生の机を少し探して調べてみたところ、その人はどうやらこの高校の卒業生らしい。さらに、日本各地で演奏会を開いているかなり音楽会では認知されているなんて情報もあるみたいだ。
「へー、うちの高校の卒業生にそんな有名人いたんだ」
「僕も初耳」
あまりこの高校卒業の有名人なんか聞かないから、少しだけその人が誇らしく見えてきた。でも、作家とかもぼちぼちいるっぽい。
「でも、その人、最近、音楽の先生に手紙を送ってるんだよ。そこには人生を生きることが怖いって書いてあったんだ。あと、未遂で終わったけど、自殺しようとしたんだって」
活躍している中での裏っていうわけか。表では満ちているように見えても、裏で人は悩みを抱えているものだから。
「で、どうして辛いかっていうのは書いてあったの……?」
「それは――」
坂家元史が自殺をするまで追い込まれた理由は、自分が命を、人生をかけてまで作ってきた演奏をある人に否定されたらしい。それが、ネット上で広がりさらに坂家元史による批判があがったらしい。それが、小さかった心を更に小さくなり、生きるのを拒むまでいったらしい。
「たしかに、自分が人生を尽くしてまでやったものを批判されるのは人によってはものすごく……痛みになるのかもね。だからといって、何かを行うということは、ある程度の批判に耐えないといけないということでもあるかもしれないけど」
「逢望ちゃんの言う通りだね……」
「ちなみに、その後は……?」
「あ、それは――」
自殺未遂をした後の、後日についても少し書かれたらしい。
その坂家元史の昔から仲のいい友達――いわゆる親友とも呼べる存在に心の支えになってもらい、自分の音楽活動をもう一度見直し、誰かはちゃんと認めてくれるんだから、一部の人には批判されてもいい覚悟を持って、伝えたいことを伝える。自分らしい音楽家を今は目指しているらしい。
そして、最後にはこんな文が添えられていたみたいだ。
『人は、誰かが支えないと、自分を見失うんですね』
と。
ここで、手紙の内容は終わっていたらしい。
最初の文字から最後の文字まで丁寧な文字が刻まれていた。その手紙に。
そしてここで音楽室の話も終わる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます