第30話 流希の恋人

「じゃあ、俺か。まあ、俺の秘密……。気づいているかもしれないけど、話すだけ話そうかな」


 えっ、気づいているかもしれない? 確かに今、流希はそう言った。でも、僕はそのことを気づいていないような気がする。


「まあ、今、寝てるからいっか……笛乃のことだよ」


「笛、乃……さん?」


 たしかに、なにかあるんだろうなとはかすかに思っていたが、その笛乃さんとの関係についてしゃべり始めた。


「まあ、気づいてなさそうだったから、お前にとっては最初からニュース速報並のとこ言うけど……実は、俺の一旦別れることにした人が……笛乃なんだ」


「はっ!?」


 僕はニュース速報並のことに思わず大きな声が出てしまう。


「声が大きいぞ。もう少し小さく、起きちゃうじゃん」


「あー、ごめん……」


 たしかに、そんな話をこの学校に侵入して、まだ事件が起こる前に聞いた気がする。たしか、なんで一緒にいるのかが分からなくなって……。その存在が――こんなにも流希の近くにいたなんて。


 ニュース速報並のことを流希から言われ、僕の気が動転してしまった。ということは、一体どういうことだ。最初から考えればたしかに辻褄があうのかもしれない。


 流希が笛乃さんに電話して、ここに呼び出していたこと。流希と笛乃さんがお互いを呼び捨てで呼んでいたとこ。ペアになったときも特に何も違和感なく……というか仲がいいような雰囲気を醸し出していた。もっとあるが、たしかにそのことはおかしくはないのかもしれない。


「ということは、最初は少し気まずかった?」


 これが事実なら、一旦別れるという選択肢をとったということをしたんだから、改めてこういう形で関わらなきゃいけないことになったんだし、僕が思ってなかっただけで、かなり気まずかったんじゃないだろうか。


「いや、別に……特には」


「あ、そうなのか」


 なんだか少し裏切られた感じがして、少しだけ口調が冷たくなってしまう。そうなのか。


「まあ、それは置いとくとして、俺と笛乃、ペアになったじゃん? その時に少しだけ話し合ったんだよ。そしたら偶然意見が一致して、俺らの今後が決まった」


 急に、周りにある空気が流希のところに吸い込まれたような錯覚に陥る。


 お互いの意見が一致し、お互いが出した答え……。


 これからの、2人。


 きれいにまとまったんじゃないかという期待とともに、なにか複雑な部分が入り混じってしまったような……そんなことがあったんじゃないかと思えてくる。


「俺らの出した結論はさ、普通に考えれば少し変わってるのかもしれない。でも、別に色々な関係があっていいと思うし、お互いがそういう気持ちがあるのなら、俺はそうでいいし、笛乃も納得してる。だから、俺らの結論を決して否定しないことだけ約束してほしい」


「もちろん、否定はしないよ。お互いが考えたことなら。2人がそれでいいと思ってるのなら」


 たぶん2人は普通ならあまり考えないような結論に至ったのだろう。もしかしたらその結論は僕のなかの考えではおかしかったり、あり得ないものなのかもしれない。だけど、この流希の言葉の口調から、強い意志が感じられる。だから、2人にとってそれは一番の結論なんだろう……それを否定する権利なんて当然僕にはない。


「俺らの出した結論って言うのは。名目上は恋人といえるのかもしれない。でも――普通の友達みたいに接すること。だから、特別仲良くしたりしない。時々ラインもするし、時々どこかに行くこともあるかもしれないけど、それは仲のいい友達の範囲ですること……少し分かりづらいけど、俺らの結論はこれに至った」


 これが2人の出した結論。

 

 僕の中で整理したり、解釈してみる。


 つまりいうと、これまでみたいに頻繁にラインしたり、会ったりはせず、関わりは友達の範囲内にすること。だから2人がこういう関係になる前の友達みたいに接することを2人は決めた。


 でも、なんでだろう……?


 わざと距離を置いたんだろう。


 別に、否定することはしない。でも、なぜ2人はわざわざそうしたのか……僕みたいな人には考えることはできない。


「なんでかって言うと、俺らは頻繁に連絡をとってたり、どこかに行ったりもした。それはすごい楽しかった。それは笛乃もそうだったみたい。でも、お互いそれに時間を費やしすぎて他のことがあまりできなくなっちゃったんだよね……。それはまだいいんだけど、それ以上にこういうことに時間を費やすことでお互いを想うことができなくなっちゃったんだよ。だから誰かといれればいい……そういう楽しさだった。それじゃ誰でもいいんだから別に笛乃じゃなくても俺はいいってことになる。そうなれば別の人でもいいってことだろ?」


「うん、そうなるね」


「だから、こういう選択をした。友達みたいに接した方がお互いを想うことができると思うし、それぞれがいる意味も分かると思った。それはさ、本当だったんだ。少し離れて仲のいい友達ぐらいの関係でいた方が……俺らにはあっていたんだよ。だからこういう結論をした」


「……そうなのか」


「――だからさ、好きな人との関係って色々あるんだよ。別に好きな人と頻繁に連絡をとったり、どこかに行ったりすることだけじゃないんだって気付かされた。友達みたいな関係が一番の恋っていうこともあるんだよ……俺はそれを学んだ。だから、な……」


 そうなのか、流希と笛乃さんはそんなことを考えてそういう選択を選んだのか。素敵な選択だな。自分には思いつかなかった選択肢をいとも簡単に2人の中で作り出してしまってたんだな。少し、ずるいな……。


 僕は見えている部分を気にしすぎたから、最初流希の言ったことに少し違和感を覚えたのかもしれない。でも、今はなんの違和感を持つこともない。


 2人にとってこの世で一番素敵な答えを選んだんじゃないだろうか。 僕には少なくともそう思える。


 友達みたいな関係が一番の恋っていうこともあるんだな……。


 僕にはこのことについてなんにも言うことなんてなさそうだ。


 ただ、ただ――

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