第31話 明けていく
45分が経った。本当に流希は最後まで起きていてくれた(僕と話していたのだ)。
次は笛乃さんに交代だ。
優しくぽんと肩のあたりを叩くと、まだかなり眠そうだったけれど、すぐに笛乃さんは起きてくれた。そして僕と流希は入れ替わるようにして眠りにつく。流希はかなり無理をしていたのか、横になるとすぐに寝てしまった。さっきまではかなりの睡魔に襲われていた僕だったが、流希と話しているうちに、なんだかその睡魔はどこかに飛んでしまった。でも、貴重な時間なので一応目だけはつぶっておく。
「んっん……」
逢望さんの声だろうか。その声が段々大きくなっていく。
「あ、まだ大丈夫だよ」
目はつぶったままなので、どういう状況かは推測するしかないが、多分逢望さんは眠りから一次的に起きてしまったんだろう。
「あ、うん。でも、なんかちょっと体が……」
「確かに、普段寝てないところで寝ると……というか本来ここは寝る場所なんかじゃないから少し体を痛めちゃうかもね」
「うん。でも、そんなにじゃないから心配しないで」
逢望さんはこんなところで寝ていたから、少し体を痛めてしまったのだろうか。少し申し訳なく感じる。でも、たしかに僕も、少し痛いような気がする。
「そうか。ねえ、逢望ちゃん、2人は今寝てるから少し聞くけど、正直言ってこの状況、どう思う?」
「んー」
僕は目をつぶってはいるが、まだ起きている。でも、そのことは言わないで、逢望さんから発せられる回答をゆっくりと待った。厳しい声でも、僕を嫌いでもなんでもいいから今、逢望さんが持っている本当の気持ち――本音を聞きたいと思った。その声を聞きたいと思った。
今、何を思い、何を感じているのか。
「正直に言えば、こんなことはもう二度といやだ」
そりゃそうだろうなという当たり前の回答が聞こえた。それは本音の本音なんだろう。
「でもさ――」
でも、逢望さんが突然、逆説を挟んだ。
「こいう状況になってしまったなら、この状況でいくしか方法はないから、今はあまり思わないようにしてるかな。もちろん、悪い面のほうが多すぎるけど、色々感じることができたな……例えば、想之也くんって意外と――」
どうやらいつの間にか朝が来たようだ。太陽の光を久しぶりに見たような気がする。今、流希に起こされた。僕の番が終われば最後だ。
でも、あの時、逢望さんは、想之也くんが意外との後になんって言おうとしたんだろう。聞く前に僕はやっぱり睡魔は残っていたのか寝てしまったみたいだ。その声は聞けなかった。
意外と僕が……?
言った詳しいことはいいとしても、僕のいいところが入るのか、それともよくないところが入るのか……それだけは知りたい気がする。
そう言えば、寝てる時間としてはいつもより短いんだろうけど、今は特別眠いわけでもない。
でも、寝たことで何か謎が解けたとか……そういうこともない。
まだ謎だらけの高校に、僕らは閉じ込められている。
「いや、でも……合わないか?」
僕は昨日、図書室で拾った『4➡2』と書かれた色紙をポケットから取り出す。何か少し昨日流希が言ってくれた、調理室にあったバツ……。これ、何か……関わってるんじゃないか。そんな結論に30分ぐらい考えてなった。
「おー、おはよう、想之也……」
ちょうど流希に聞こうとしたところで、流希が目を開けて、僕に朝の挨拶をしてきた。流希は何度も目をこすりながら体を起こす。
「あのさ、昨日のバツってこの2、隠せるぐらいの大きさだったか……?」
「んー、あー、たぶんこの大きさがちょうど隠れるぐらいかな。まあ、こっちの4は全然隠れちゃって見えなくなるぐらいだけど」
まさか――
僕はある一つの可能性に今、たどり着いている。でも、それがあっているという保証はないし、あくまで僕の推論にすぎない。でも、もしこれが本当なのだとしたら、僕は一体どんな判断をすればいいんだろうか。何をすればいいんだろうか……?
「ん、どうした? 体が少し震えてるぞ」
自分では気づいてないだけで、僕の体にはすでに異変が起きていたみたいだ。いや、でも……考えたくないけど、考えてしまう。
「あのさ……」
「うん」
流希になら言ってもいいだろうか。僕の推論を。もしかしたら最悪の事態が起こるかもしれないことを。僕らが、このままでいられないかもしれないことを。
「これは、僕の推論にすぎないけど――」
僕は自分の怖いに負けることなく、流希に打ち明けることにした。
僕の推論を――
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