第32話 犯人の動機

「ってことを考えた……」


「確かに、犯人は偽の死体とかを置いたのは、俺らを安心させるための罠だったってことも考えられなくもないけど……でも、確証が……。それに、仮にそうだとしてもそうなることはどうしてでも避けなければいけない」


 僕の推論を流希に打ち明けた。僕が考えたことはこれだ。このなぜか大きな2の数字とあのバツの大きさが重なるのだとしたら、僕は2がバツつまり、今いる僕らの人数でもある4が……矢印はその後の経過を表しているとして、2人になってしまうっていうこと。バツは地獄に落ちることを意味してるんだと思う。


 ――つまり、この中の2人が地獄に落ちてしまう。


 もちろん、これは僕の推論に過ぎない。なんの確証もない。


「あと、図書室で見たんだ。『明日8:00 最終』という文字を。図書室が8時に閉まるっていうのはおかしいし、これは僕らが4人でいられる最終を示してるんじゃないかな」


「たしかに、普通にそれだけあったら不自然かもな……。でも、どうするこの推論、2人には言う?」


「それはやめておいた方がいい気もする。あくまで僕の起きてなんかほしくない推論だから。でも、犯人の目的が分かればもしかしたら……! だから、それについては皆で考えたい」


 もしかしたら犯人の目的が分かればこの事件が解決するのではないかという希望も残っている。2人には怖がらせたりしないために、このことを言うのは避けることにしたが、犯人のことについては皆が起きたら皆で考えることにした。


「あと、その時間が正しいのなら約1時間……」


 人々が段々と目を覚ましていく時間。窓から見える風景にはいつものような透き通ったどこまでも広がっていく青空が見える。でも、そんな青空のように僕の心はいつものではない。むしろ、黒の絵の具をぶちまけたようだ。


「あと、1時間か――」


 僕はその青空を見ながらふと呟いた。もしかしたら本当に1時間後にこの中の2人が消えてしまうのかもしれない。それは、僕かもしれないし、他の誰かかかもしれない。


 だれが狙われてるのかは分からないけど、僕らはそれを止めなければいけない。その人を絶対に守りたい。今日この中の誰かを見るのが最後の日になる――そんな日には絶対にしたくなんかない。



 

「おはようー」


「おはよーう」


 僕らがそんな話をして5分経ったかぐらいの時に2人も起きてきた。2人はきっと今日はここから出ることができるという期待を持ってるんだろうなと感じてしまう。でも、それとは違う方向に僕らの人生はカウントダウンを迎えている。


「あのさ、今日はもう1回犯人の目的――つまり、動機を考えたいと思う」


「うん、いいよ」


「分かった」


 僕らはここまででわかっていることを見やすいようにもう一度わかりやすいように紙にまとめた。


「寝たから、何か出てきそうな気はするけど」


「なにか、共通点とかない?」


「共通点か……」


 あと、約50分。時間が迫っていることが僕と流希を余計に焦らせる。時計の針が進むのが怖い。


 でも、なにか共通点があるような気がする。


 僕らが見たもの……。


 全部ではないが、被っている。


「――伝統」


 逢望さんがそっとその単語を呟く。


 たったそれだけの単語なら普通はすぐどこかに消えてしまうはずなのに、耳の奥に残る。


 そうだ、伝統。


 僕らが今まで見たもの。聞いたもの。


 偶然かもしれないけど、遭遇したり見たものも含めればそうなる。


 先生の机に置いてあったこけし。


 笛乃さんの机の中にあった祭りのポスター。


 音楽室にあった鳴子や尺八。


 色紙で書かれたメモ。


 僕が伝統文化部ということ――


 偶然とは思えないし、僕は何か引っかかっている。


 そして、図書室に書かれていた


『なくなったのはあいつのせいだ』


 その文字が僕の頭を刺激する。


「そういえば、最近!」


 笛乃さんが急に何か大切なことを思い出したかのように、声を挙げた。


 そうだ、この学校から最近消えたもの。


 ――消えた伝統。


「この学校から伝統行事が3つも消えた……」


 そうだ、今年に入りこの学校から3つの伝統行事が消えた。


 郷土料理を作る地域交流。


 浴衣登校。


 どんどん焼き。


 この3つの行事が突然消えた。いや、消えてしまった。


 地域の人たちと協力してこの地域の郷土料理を作り、その郷土料理を地域の人たちと分けながら食を学ぶ地域交流。


 校庭に竹を組んで山を作り、そこに火を起こしてお正月の縁起物をお焚き上げしたり、お餅を焼いて食べたりするどんどん焼き。


 ある1日だけ朝から浴衣で登校し、授業もその姿で受ける浴衣登校。


 これら3つの伝統文化がなくなったのだ。


 この学校では生徒に伝統を重んじることを目標とし、古くから伝統を大切にされてきた。それでこのような行事や僕の所属している部活など様々な取り組みが行われている。


 なぜ急に3つもの行事がなくなったのか――それは、この学校では3役とも言える校長、副校長、教頭が今年度より全て変わっただ。


 そして、2年生の始業式、新しい校長はこのように話した。


『えー、3役が全て代わり、本校も新たな気持ちで学校教育活動に取り組んでまいりたいと考えております。情報化が進む現代において、私たちは今の学校を。つまり、最先端を目指した学校にし、これからの社会を創っていくことができる人材を多く出せるようにしたいと思っています。そのため、何が必要かを見極め、先程も言ましたが、新たな政策を打ち出し、新しい学校にしていきたいと思います』


 こういう発言を校長はしていた。その発言を校長がして数日経った後に、年間の行事予定が配られた。


 そこで、多くの生徒が違和感を持った。


『あれ、先生、今年はどんどん焼きとか浴衣登校とかないんですか?』


『あと、交流会もないです!』


『あ、それについてだが、どうやら新しい3役の方針によりなくしたらしい。それで、その分浮いた時間はAI関連の工場に行ったり、皆も多忙だから働き改革があるようにと長期休み前の午前授業が多くなったりするらしい』


 そこで知った。簡単に伝統をなくされたとを。


 正直に言えば、僕はこれらの行事は好きだった。


 僕が伝統文化部という部活に入っているからという理由もあるかもしれないけれど、でも、仮に僕が入っていなくたとしても、僕はこの行事が好きだったと思う。だって伝統というものを感じることで学べるものがあるし、昔をなにか身近に感じることができるから。残していかないものを自分たちも残せるんだなっていう誇らしさがあるから。


 だけど、僕は3役が決定した方針を簡単に変えることなんかできないし、ないならないでしょうがないと思い、その時はその場で踏みとどまった。


 でも――


 


 


 


 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る