第12話 僕らの教室
まず僕と逢望さんはここから担当の3つの中で一番近い僕らのホームルーム教室に向かった。幸いここはドアは開いていた。だが、なぜか窓が一箇所少し開いていた。さっきまでは開いていなかった気がする。でも、僕は今、判断力がいつもの半分ぐらいにまで落ちているので、もしかしたら実は開いていたのかもしれない。仮にいつの間にか開いていたとしても逢望さんを怖がらせるわけにはいかないので、このまま黙っていることにした。
「風が吹いてるんだー」
一箇所だけ開いていた窓から風が入り、薄っぺらいカーテンが大きくたなびく。かなり外では風が強く吹いているみたいだ。
「あ、ここ開けっ放しじゃん!」
開けっ放し? 僕は少し疑問符を頭に出した後に、逢望さんを見ると、逢望さんは小走りで掃除用具庫のドアを締めた。たしか僕らはそこに急に先生(事務の人)が来たからという理由で慌てて隠れたんだった。教室を出た時、確かに締めていない。そのまま開けっ放しにしていた。
「ここに犯人が隠れてたのかな? もしそうなら、この掃除用具庫、きっとなにか痕跡が!」
推理は素晴らしいのだが、残念ながらそういうわけではない。でも、あのときはまだ犯人とかいう存在を知る前だから、それでここにいたのはなんか不法侵入的(今もそうなのだが)なことになってしまうので、逢望さんの僕に対するイメージがダウンしてしまいそうだからなんか言いづらい。
逢望さんは自分の推理が完璧だとでも思ってるようで、掃除用具庫の中を隅から隅まで徹底的に探し始めた。これを見ている僕は何なんだろうか。とても胸が痛む。無駄な体力を好きな人に使わせてるという残酷な人間。
「おーい、想之也くんも!」
なぜか僕まで呼ばれてしまった。しょうがなく、僕は逢望さんのところまで行く。ただ言えそうにはない。僕はとりあえず頭を空っぽにして掃除用具庫の中になにかないかというのを探していく。もちろんなにもないのだけど、あまりやる気のなさそうにしていてもよくないと思い、できるだけ悟られないようなぐらいで行った。
――でも、逢望さんが真面目になにかに取り組むときってこんな表情をするんだ。
何かその表情が僕の瞳に異様に残る。なぜが僕の瞳から飛び出してきそうな。何か、逢望さんがこんなにも……。
だめだ、少しの間直視していたのに気づき、再開させる。これ以上見ていたらただのストーカーにも見える。でも、あの姿――
「だめだ、なさそうだね」
数分探したが、特に収穫はなかった。というか逢望さんは探すついでに片付けてもいたようで、掃除用具が整った形になっていた。ビフォアフターで見ると多分かなり違って見えるのだろう。こういうところに僕は……。
「あと、もう一つ気になったのは、窓がなぜ開いてるかなんだよね。だって普通は閉まってるはずじゃない?」
どうやら鋭い逢望さんはそのことについても気づいていたようだ。しかしながらさっきの掃除用具庫のやつは外れだ。
「それなら僕も思った……!」
「えっ? それならって掃除用具入れは気にならなかったの? あんなに堂々と開いてたのに。まあ別にいいけどさあ……」
なんか急に鋭くなってないか。それは2人になって色々言いやすくなったからだろうか。確かにさっきは流希と笛乃さんの勢いが強かった気がするから、抑えていたのかもしれない。でも、鋭い。まさか、考えたくないけど、これの犯人は――逢望さんなんじゃないだろうか。もちろんそうは思いたくない。そもそも逢望さんにこんなことをするような動機がない。
――いや、あるとするのならば、僕に何か恨みでもある? 確かになぜか最近僕は逢望さんと目が合う。それは恨んでるの目だったのだろうか。だとしたら犯人は……?
もう犯人が誰で、動機なんてどうでもいいからこの空間を早く抜け出したいとまで思えてきた。犯人像が全くわからない。いや、でも逢望さんが仮に犯人だとしたら、どうやって1階のを締めたり……遠隔操作?
「何、考えてるの……? まさか私が犯人とかでも?」
だから君、なんか急に鋭い。何度でも心の中で言おう。君、なんか急に鋭い。
「いや、別にそんなことは……。単刀直入に聞くけど、だって犯人じゃないでしょ?」
「ふふっ。さあね。でも、この世には色んな事件が起きてるから、もしかしたら私もその中にある1つ事件の犯人かもね」
ちょっとそのふふっとの笑い声が不気味だった。なぜか急に逢望さんが違う人に見えてきた。本当にもしかしたら……。
「じゃあ、聞くけど逆に君は? 犯人だってことはない?」
僕が犯人――?
「いや、僕は……違うでしょ。違う……でしょ。もし僕がそうならすでに誰かを地獄に落としてる」
「ほー、なかなか怖いこと言うね!」
なんでか違うという断定の言葉で言うことはできなかった。言うことが、できなかった……。
「ふー、気持ちー」
お互い犯人じゃないよね話に区切りがついたのか、それとももうしたくなかったのか、もしくは他の理由なのかはわからないのか知らないけれど、逢望さんは窓から顔を出している。
「ここから叫んだら誰か、来てくれないかな?」
「あー! いや、でも、この辺からじゃ立地的には」
一瞬いい案かもと思ってしまったが、この学校周辺にお店はあるが、たぶん大体の店は閉まっているので無駄な体力を使うことになってしまうだけだろう。人はもうこの時間ほぼ通らないし、車の走る道路も奥にあるが、その車まで声を届けるのは現実的に考えればほぼ無理だろう。
「あっ――!」
その時、急に大きな声を逢望さんは出した。
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