第21話 勝負

 僕は逢望さんが話してくれた恨むというものを頭に引きずりながら、図書室の中を少し探索した。でも、本がズラリと並んでいるだけで、特に手がかりというのはない。もしかしたら僕がさっき考えていたように、この本のどれかに何かが隠されているのかもしれないが、何万冊規模の本の中を探すのは現実的ではない。だから、目立つ本を数冊ペラペラして見たが、特に何も挟まっていたりということは残念ながらなかった。逢望さんも同じくそんな感じで収穫はないみたいだ。


 少し経ったところで、逢望さんがピタッとある地点で足が固定されていた。そして何かに目を奪われていた。僕も気になって逢望さんのいるところに行くと、


『今、人気の純愛小説! ぜひ読むべし!』


 とかわいい文字のフォントでそういう言葉が書かれていたPOPがあった。そして、POPの近くには1冊の小説があった。なにか僕も無性に気になってしまった。少しラノベに近いような純愛小説。もちろんこの小説は読んだことがない。


「逢望さんってこういうのが好きなの……?」


「えっ!? いや、別に……。まあ、うん、読むけど……」


 僕は普通のことしか言ってないはずなのに、逢望さんの声から出た文は少し崩れていた。自分が気づいてないだけで、何か変なことでも言ってしまったんだろうか。それとも、ただ恥ずかしがっているだけだろうか……。でも、何を恥ずかしがっているのかは分からない。


「逆にだけど、想之也くんはこういうの読まないの?」


「まあ、本当にたまに、なんか、誰かに抱きしめてほしい時とかに読むかもな……」


 前に流希と図書室に行って本を探したときも同じようなことを聞かれたが、ほとんど流希に聞かれたときと同じように、ほぼコピペした感じで逢望さんにもそう答える。


 いや、ちょっとまてよ、流希と逢望さん……言う人が全然違うじゃないか! 逢望さんと流希に言う言葉が同じでいいはずがない。全く違う人じゃないか。


「なんかな、ちょっとそれは……私は別にいいけど、こういう感じのことを他の人の前ではあまり言わないほうがいいんじゃない? せめて仲いい友達の前とか……」


「あ、ごめん! 前に流希にそう聞かれたとき、そう答えたのを間違えて逢望さんにも言っちゃっただけ。不快いに思ったのならほんとごめん」


 言葉って本当に本当に恐ろしいものだ。たった一言なのに逢望さんに僕のこと絶対変に思われたに違いない。いや、確信して言える。でも、僕の言ったあの言葉はそんなに変な方向にいきすぎてるわけじゃなからそれだけはどうか伝わってほしい。


「いや、不快に思ったとかじゃなくて、そういうところもあるんだと思って……」


 不快に思ってないのかどうかの真偽はこの表情から窺うことは難しそうだが、絶対に僕が変な人だと初めて知ったよという顔だ。この少しニヤリとした顔は。


 僕はこの状況を打破するためにあまりしたくはないけれど、少し勝負に出ることにした。


「さっき、逢望さんも少し言葉乱れてたけど、どうかしたの?」


「えっ! いや、何でもないよ!」


 少しだけ立場逆転。自分の好きな人をこういう風に落とし込むみたいなことはしたくないが、これ以上僕が落とし込まれても、僕の心臓が風船みたいに破裂して跡形もなくなるだけだ。それは流石に回避しなければいけない。


「いや、逢望さんだって何かあるでしょ……」


 もう少し攻める。僕は最後の仕留めとして、更にニヤリさをまして、逢望さんにそう問いかける。繰り返すが、できれば本当はこういうことはしたくない。でも、致し方ない。


「もうこの話、やめにしようか! うん、やめよう!」


 逢望さんもこれ以上耐えることができなくなったようで、ここでゲームは終了となった。


 その後は、もう少しだけ何か手がかりになるようなものがないか2人で別かれて、さっきのように探した。たださっきのこともあってかどちらかが声を掛けてくるとかそういうことはなかった。だからこの図書館が明かりはついてるとはいえ急に不気味に感じた。




「あれ、なんか落ちてない?」


「ん?」


 図書室にはこれ以上なにか手がかりになるものはないと判断したため、この図書室から出ようとした時に入り口付近に何かメモ帳のような紙が落ちていることに僕は気付いた。そのメモ帳みたいなものはスマホよりいくらか小さいぐらいのサイズで色紙のようだった。


 ほぼ無意識に僕は色紙を拾った。


『4➡2』


 一瞬見たその色紙には、そのように書いてあった。ここは図書室だし、借りた本4冊のうち、返した本が2冊とかそういう意味のメモだろうか。でも、そこまで深い意味はないんだろう。だけど、なんで2の数字が異常にでかいのだろう。『4』という数字の2倍ぐらいはある気がする。なにか怪しいかもと思い、念のために僕は右ポケットにそれを入れておいた。例えば、この数字もそうだが、なんで、メモ帳とかではなく色紙なんだろうってこととか。


「じゃあ、次のところに行こうか」


「そうだね」


 図書室の電気を消してから外に出て、最後に鍵を予備の鍵でしてから次の地点に行く。

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