第24話 気づいてた
「あー、ありがとう、美味しかった!」
僕は逢望さんからラムネをもらってからすぐにラムネを飲み干してしまった。少しあれをやるのは恥ずかしかったけれど、これで喉は十分に満たされた。つまり、喉の渇きというのもましになった。
「よかった……!」
逢望さんの笑顔が余計に後味をつけてくる。本当に感謝しかない。でも、逢望さんは気づいてないんだろうか? 仮に気づいてるのだとしたら恥ずかしくないんだろうか?
「あ、想之也、俺、トイレ行きたいんだけど、ここから一番近いトイレどこ? 想之也の方が詳しいから案内してくれない?」
「えっとー、まあ案内するのはいいけど、トイレの水は出るの?」
「あ、トイレの水は平気だってさー」
流希がトイレに行きたいと言い、僕がその案内をするために僕らは一旦部室から出る。
「えっと、トイレは……」
暗いからどこに何があったか一瞬忘れてしまいそうになったが、たぶんトイレの方向はこっちだろう。僕がトイレのある方向に行こうとして少し歩いてから、急に服を流希に引っ張られた。
「ん?」
「いや、本当はトイレじゃなくて……。あのさ、お前、気づいてないのか? まあ、この状況だから多少はあれかもしれないけど、さっきかなりやばいことしてたじゃん!」
やばいこと……? 僕はさっきなにかやばいことでもしていたんだろうか。流希の顔はなにか少し笑いそうな顔だった。別にやばいことなんか……。普通に部室にいて、それから……。
まさか――!
「か、間接キスしたこと?」
少し大きな声になってしまったことに気づき、慌てて口を抑える。あれか、あの逢望さんの3分の1ほど残っていたラムネを飲んだこと。流希は気づいていなかったと思っていたが、どうやら気づいていたらしい。知らないと思ってただけに、余計に恥ずかしい。
「うん、そうだよ。まじで普通に飲んでたから。おもしろかった」
「いや、流石に気づいてたけど……。でも、でも――」
「たぶんあの感じだと、気づいてないのは逢望さんだけだな。笛乃もきっとあの感じは気づいてる」
「な――!」
笛乃さんまでもが気づいていたのか。せっかくいいって言ってくれてるんだから飲めば? という顔は僕の解釈が間違っていて、間接キスできるんだから早くもらっちゃえば? という顔だったのか。僕の胸にそれが突き刺さる。なんで僕はあそこで逢望さんからもらってしまったんだろう。間接キスなんてしてしまったんだろう。
それも一生記憶に残るであろう、初めての間接キスをここで――
「でもいい経験できたじゃん。まあ、元々こうなった原因の大体はあれにあるんだし、それについては申し訳ないけど、これについては感謝しろよ!」
「たしかに、少しは感謝するけど、これの犯人お前か? これを仕込むためだけにやったとか」
冗談交じりで言ったつもりだったけれども、流希と仲良くなった理由でもあること――流希は意外と人のことを見ている。これはイコール人のことを考えている。だから、もしかしたら本当はこれの犯人なのかもしれない。
「まあ、俺はそんな手のこんだことできねえよ! ばかか」
それもそうか。流希でもここまで手のこんだことはできるはずない。というかそこまでしてやる理由もあまりわからない。だからその疑いは、すぐに晴れた。
「でも、まあ、誰かが何かをしてるってこと……それは事実だけどな」
「そうだな……」
それだけは確かだ。もしかしたら信じている人すら深く疑わなきゃいけないときも来るかもしれないが、そのときはそのときだ。
「じゃあ、そういうことなら戻るか……」
「いや、頭がうまく働いてないな、お前。だって今帰ったら流石に早いと思われるだろ。もう少し待ってからじゃないと」
「あ、そうか。確かにトイレに行って帰ってきたにしては早いな」
じゃあ、なんかもう少しマシな方法で僕を呼び出してほしかったなと思う。例えば……なんだろうか。
「なんかさ、2人でいちゃついたりしてたの?」
僕のくすぐったい部分をくすぐってくるみたいに流希は言葉を放った。ストレートすぎる。
「はぁ? 流石にそういう余裕はそんなにないよ……。というか、一応僕ら、監禁されてるんだからな」
なんかこうやってさっきから話したり、少し遊んだりもしているので忘れそうになってしまうが、僕らは一応監禁されているのだ。そのことは決して忘れてはいけない。
「まあ、そうだけど……2人っていうのは少し楽しかったんじゃない? なんか少しだけ、なにかあった感じがするような、しないような……」
「まあ、正直に言うと少し……」
正直に言えば、僕は逢望さんといられて少し楽しかったし、なにより嬉しかった。こういうことはいいたくなんか無いけれど、少しだけ犯人さんに僕らを少しだけでも近づけてくれたことを……感謝している(流石にそれはいいすぎだろうか)。
「そうだろ、そうだろ」
僕らが何してたなんか全く知らないはずなのに、まるで近くで見ていたかのように納得し、大きく2回うなずく。少しだけ舌打ちしそうになってしまった。
「じゃあ、ちなみに聞くけど、お二人さんは?」
じゃあ、同じように男子と女子のペアで行動した流希と笛乃さんはどうなのかと逆質問してみた。
「別にー。君らみたいになんかなく、ただ普通に探ってただけ」
なんか僕読みなんのが少し気になるが、全く照れてないし。隠そうとしている素振りもなさそうなので、特に何かが進んだということはなかったんだろう。ただの味のないせんべいを食べてるみたいでつまらない。図書委員で仲がいいからといっても少しぐらいは何かあってもいいはずなのに。
「じゃあさ、笛乃さんについてはどうよ?」
僕はもう少し深掘りするために、笛乃さんのことに焦点を絞って聞いてみる。
「えっとつまりは笛乃が可愛いかどうかって……見た目のこと? それとも性格がいいかっていう中身の問題?」
僕とある程度仲のいいはずなのに、流希は察しが悪い。
「どっちも」
「んー、特別に正直に言うけど、その代わり本人には絶対言うなよ!」
「あー、もちろん!」
別に僕は人の秘密というかを暴露するような人間世界ではあまリ歓迎されないような性格は持ってないので、即答する。別に、もともと持ってなかった性格を新たに付け足して、あとでこっそり笛乃さんにいうとかする汚い手を使うきもない。
「まあ、あの子はさ、どちらかと言えば、スタイルいいんじゃないかな。中身はな、別に俺だってあの人のことをなんでも知ってるわけじゃないからあれだけど、一番の魅力は自分の持ってる力の多くを他人に使ってあげられるところかな。でも、他人に使いすぎて、たまに自分のことを忘れて、自分のことはとりあえずいいってなっちゃってるときもあるから、そこだけは気をつけてほしいけど、それが笛乃の一番最初に言えることかな」
なんか適当にぱぱっと言って終わらせるのかとでも思ったけれど、想像以上にちゃんと笛乃さんのことについて話してくれた。僕と笛乃さんの接点と言えば、今日ここでこういうことをするまではほとんどなく、ちゃんと喋ったことは多分ない。少しだけでもいいのなら笛乃さんが見ていたかわいい動物の動画をちらりと見て笛乃さんが「これ、かわいくない?」と偶然近くを通った僕に聞いていたので、「うん、かわいい」と答えたぐらいだろう。
「じゃあ、あの人を恋人にするのは……? もちろん流希はそういう人がいるっていうのは聞いてるから、もしもの話」
「まあ、悪くはないのかもな。笛乃は。でも、恋の形は色々あるからな。必ずしもそいう関係になるのが一番の恋ってわけでもないぞ……なんてな、そろそろいいだろう。戻るぞ!」
「あ、うん」
僕は少し足を引きずりながら2人の待っている部室に戻った。
僕には、いや、僕みたいな人には流希の言った――必ずしもそいう関係になるのが一番の恋ってわけでもないぞ。その意味があまり理解できなかった。
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