第27話 報告Ⅲ

「じゃあ、最後は調理室か……これは俺か笛乃、どっちが話す?」


「じゃあ、喋る仕事してないので、流希で」


「了解」


 話を笛乃さんからバトンタッチして、流希が最後の報告をする。


 調理室であったことは1つ。窓にガムテープが謎に貼られていたみたいだ。それも一箇所。大きさは、そこまで大きくなかったので、最初は窓ガラスが割れたから念のための応急処置かなとも思ったらしいけど、よく見てみると窓ガラスが割れている形跡はなく、貼り方もかなり雑だったようだ。


「誰かのいたずらとか?」


 逢望さんが自分の見解を述べる。


「まあ、そういう事するやつはどこにもいるからなー。でも、なんで一箇所? とかいう疑問は出てくるけど」


「まあ、何かがバツなのかもな。もしくは掛け算でも表してるのかもな。いや、足し算も考えられるか。1たす1は合わせて2って感じに。少し最後は雑な見解になったけど、一応これで報告は終了かな」


「流希が言った通り、あとは特にはなかったかな。私と流希の報告は以上!」


「おー、了解」

 

 何か、色々怪しいような点が出てきて自分の頭で整理するのに少し時間がかかりそうだ。でも、何か似ているようなことも多い気がする。全部とは限らないけど僕らの今言ったものが犯人が残したメッセージなら、ここからどうにかして難しいパズルを完成させなければいけない。


「でもな、怪しい点が多すぎないか?」


「流希の言う通り、全部が犯人のなら。偶然とは思えないし……」


 さっきも思ったことかもしれないけど、普通の犯罪ならできるだけ犯人は証拠を残さないように気をつけるはずだ。でも、なぜか怪しい点が多すぎる。調査した場所だけでもこんなにも怪しい点が見つかるなんておかしい。


「もしかしたら、犯人は早く気づいてほしいのかも……。まあ、それはないかー」


 皆がなぜ怪しい点が多いのかについて考えていたので、少しの間、沈黙の時間になっていたが、逢望さんが突然その沈黙を破るかのように、自分の見解を発表した。でも、すぐにそれを違うと判断したのか撤回した。


 犯人が、わざと気づいてほしいがために――?


「それ、十分あり得るんじゃない!?」

 

 僕は少しだけひらめいた。思わず周りを気にせずに勢いよく立ち上がってしまう。そうだ、犯人は気づいてほしいんだ。自分の存在に、自分の伝えたいことに。


「まあ、そうかもね。逢望ちゃんの言ったこと、あり得るかも!」


「仮にそうだとした場合、なにか大きな動機が必要になるけど。それはこの学校か僕ら4人に関連してること……もしくはその両方が濃厚だな。でも、そんなの犯人じゃないし、動機なんて分かんないよなー」


「だよね。たまに意味わかんない動機で犯人を犯す人もいるし……」


「まあ、とりあえず僕らがちゃんと要求に従えば、地獄に落ちる可能性は限りなくないことは分かってる。だから今日は体力回復のためにも寝ようか」


「そうだね。明日のためにも」


「うん」


「だな」


 ということで、僕らは地学室に戻るのは少し面倒くさいし、ここなら電気もつけたり消したりするので、今夜はこの伝統文化部の部室で寝ることにした。もちろん布団とかはないが、その辺については我慢しなきゃいけないところだろう。でも、今は夏なので布団がなくても充分過ごせる。一日ぐらいなら風邪を引くことはないだろう。


「でもさ、一応なにが起こるか分からないから、鍵は閉めとかない? こっちからでも閉められるでしょ」


「あと、逢望ちゃんのに追加で、誰か1人は起きてない? もちろん交代交代で」


 女子2人が、必ずしも安全とはいえないこの空間の不安を少しでも減らすために2つの提案をしてきた。鍵を締めないかという提案と、交代交代で見張りをつけないかという提案。


「それもそうだな」


「うん」

 

 僕らは死体が嘘だったときぐらいから、地獄には落とされないとう仮説で行動してきたけど、絶対地獄に落ちないという根拠はどこにも存在しない。僕らは2人の言ってくれた提案にのることにした。この頼りがいのある2人がもしいなかったらと思うと……僕らは今頃一体どうなっていたんだろうか。


「よし、これで大丈夫」


 僕は部室の中から鍵をしっかりとかけ、かかってるかを3回、しっかりと確認した。


「でもさ、もし、もしもの話だよ。この中に犯人がいて、その犯人が誰かを地獄に落とそうとしてるんだとしたら……これ、安全とも言えなくない?」


「まあ、笛乃の言う通り、それはそうだけど。ここはもう信じるしかないんじゃない? ここにいる人たちはそういうことをするわけないって、人を信じられなくなるときもあるけど、こうなったらもう信じようよ」


 人を信じるのは難しい部分もある。逢望さんのように自然に恨むということがあるから。できれば信じたいけど、確実に100パーセント信じることは難しい。でも、鍵の閉めた密室に――この状況にいるのならもう信じるしかない。信じた結果がどうだとしてもそれはもうしょうがないんじゃないか。


「まあ、と言ってもその信頼を大きくするために、じゃあ、念のため、凶器になるものないか、皆ポケットとかカバンに入ってるもの全部出してみる?」


 流希がそう指示したので、僕らはポケットや持っている人はカバンの中身を全て出した。


 流希はポケットにティッシュとハンカチ、小銭が、笛乃さんもそんな感じのがあり、それに加えて本が一冊。逢望さんも流希が持っていたものに加え腕時計があったぐらいで特別変なものはなかった。


 僕も流希が持っていたものと、ペンと……、それと……


「あ、これ凶器じゃん! いや、ってかなんで持ってるの?」


「えっ……ただのミニ裁縫セットだよ?」


 笛乃さんは凶器だと言ったが、僕の持ってるのは持ち運びがしやすいミニ裁縫セットだ。別にナイフが入ってるわけでもなければ、カッターとかが入ってるわけでもない。


「いや、これ完全に凶器だろ。針とかがもう凶器になるじゃん! なんでこういう展開で持ってるんだよ。ははっ。笑わせるな。やめてくれ! ははっ!」


「そうだよ、なんで想之也くん、今この展開で持ってるの! 面白いって!」


「いや、僕はよくボタン取れるから持ち歩いてるだけで……別に凶器ではないよ!」


 3人はこれを凶器だと言っているが、特段僕を犯人だろと仕立て上げたり、そう思ってるわけではなさそうで、この状況でたしかに凶器となりうるミニ裁縫セットを持っていたことが、笑いになるのかもしれない。


「ごめん、ごめん。僕は犯人じゃないということでこれは念のため、捨てときます」


 僕は部室にある唯一の窓から本来はそういうことはしちゃいけないけれど、そのミニ裁縫セットを投げ捨てた。これが僕が犯人ではないということを示すためだ(なぜ一旦ドアの鍵を開けてその辺に置いとくことはしなかったのかと言われると、皆が寝るときに誰か1人は起きることになってるので、その時に取ったと思われるのを防ぐためだ)。


「じゃあ、起きる順番をアミダでも使って決めるか」


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