第10話 ペア分け

「まあ、いいや」


 なんか気持ちが変わったのか、急にそんなことを逢望さんは言い出した。それはそれで僕としては僕の感情がバレなくてありがたいけれど、急に興味をなくされると少し寂しくもある。


「じゃあ、もうそろそろ動きますか」


 流希は腕を回しながら平然と、ほぼ棒読みに近い感じで僕らにそう言ってきた。僕がさっきまでどういう状況にあったのか知っているはずなのに、なんかこんな平然でいられると、少しだけムカつく。それに僕らが閉じ込められてるという状況を考えてもう少し流希は緊張感を持つべきだ。


「1人で動くのもあれだから2人ずつでなんかやる? 4人で一気に行動してもいいけど、2人ずつのほうが効率的だと思うし」


「逢望ちゃんの言う通り、その方がいいねー。あんま男女区別するのよくないけど、一応女子二人だと危ないから男女ペアにしとく?」


「そうだな。じゃあ、定番だけどグッパで」


 どうやら僕の知らない間に男女ペアを2つ作り行動するということになったようだ。そのペアを決めるために男子の僕は流希とグッパする。


 ほとんど何も考えることなく僕はパーを出した。流希はグーを出したので、めでたく僕らの方はすんなり決まった。僕らの結果を知らない女子たちはまだ決まっていないようだった。


「グッパで別れましょ!」


 女子2人ともパーを出した。つまりやり直しだ。


「グッパで別れましょ!」


 2人とも次はグーを出した。またやり直しだ。


「グッパで別れましょう!」


 笛乃さんはグー、そして逢望さんは――パーを出した。


 いや、まて。僕はさっきパーを出したよな。ということは、僕は逢望さんとペア!?


 いや、それは流石に堪えられない。犯人には今のところ地獄に落とされそうにはないけど、これじゃ逢望さんに耐えられなくて地獄に落とされるかもしれない。確かに前に電車が運休になったときに、2人で会話はしたけれど、そのときはあんな感情を持ってなかったうえで喋ったからわけが違う。今ははっきりとあの感情を持っているという大きな違いが。


「私、グーだった」


「私は、パー」


「俺、グー」


「僕はパー」


 やばい、恥ずかしい。なんでこんな展開になっちゃうんだろうか。今からでも4人で行動しないかとでも提案すべきだろうか。でも、今そんなことを言ったら、僕が逢望さんのことを嫌っている、もしくは好きだっていうことになってしまう。だから、しょうがなく僕は逢望さんとペアになることにした。


「というか、流希、私たちはどこ行くの? どこかに何かあるっていう確証もないのに?」


「んー、確証はないけど、ずっとこのままでいるわけにもいかないからな。とりあえず1階は封鎖されてるから、2階でなんかありそうな特別教室というか怪しそうな教室は……?」


「んー」


 逢望さんは地学室の机に偶然あった鉛筆と何ぜあるのかは分からないが、大会のお知らせの紙をとって、その紙の裏面に2、3階にある怪しそうな教室について書き出していく。


『図書室、視聴覚室、調理室、音楽室』


 逢望さんはサラリと4つの特別教室を書いた。というか、逢望さんの字、音楽を奏でてしまうかのようにきれいな字だな……と少し見入ってしまう。


「私が気になるのはこんな感じの教室かな。もし、私が犯人ならそこにヒントを隠すかなって思ったところを4つあげてみた」


 確かに仮に何かのヒントがあるんだったら普通の教室よりもこういう特別教室にある可能性は大きいだろう。


「まあ、犯人の動機すら分からないから手当たり次第って感じにはなるけどな」


「一応私たち全員同じクラスだから、私たちのホームルーム教室も少し怪しそうじゃない? どうかな?」


「あー、笛乃ちゃん、たしかにそうだね」


 たしかにここにいる僕らの共通点と言えば皆、同じクラスというのがある。偶然同じクラスだったという事も考えられるが、それが何かしらの理由がある可能性も否定はできない。


「あとなんか想之也の部活の部室……伝統文化部だよな。そこも怪しそうじゃない?」


 流希は肩をポンポンと叩きながら、少しいじる感じで言う。僕の部室も怪しいだろうか。確かに色んな物が置いてあるという観点では少し怪しい感じもする。


「あー、たしかに、特別教室だから何か手がかりがあるかもね」


 逢望さんは『私たちのホームルーム教室、伝統文化部の部室』を紙に付け足した。この6つの候補のうち図書室、僕らのホームルーム教室そして伝統文化部の部室はA棟にあり、視聴覚室、調理室、そして音楽室はB棟にそれぞれあるので、僕と逢望さんのペアでA棟を、流希と笛乃さんのペアでB棟を捜索することにした。


「そういえばまだ先生が完全に帰ったかって分からなくない? 一旦確認してみない」


「そうだね。さっき見たけど本当に軽くしか見てないから」


 逢望さんの言う通り確かにそうだ。あの事務の人か分からないが、その人は最後の確認場所みたいなことを言っていたが、イコール先生が全員帰ったということを表してるわけではない。やはり、ここにいる女子2人は冷静だ。ちゃんとしている2人を犯人にとってはこれは思わぬ誤算だったのかもなとまで思えてしまう。


 職員室まではとりあえず皆で向かうことにした。


「なんか喋らないと気味悪いから流希、なんでもいいから喋ってよー」


「えっー、なんか4人で喋るネタなんてすぐに思いつかねーよ。じゃあ、そういう笛乃が喋れば?」


「えっ、私…!? んー、まあうちの親が公民の高校教師なんだけど……」


「えっ、そうなの!?」


 それは初耳だ。思わず僕は声が出てしまう。でも、流希と逢望さんはどうやらそのことを知っていたらしく、特に驚いてはいなかった。少し恥ずかしい。


「うん、そうか想之也くんには言ってなかったか。まあいいや。それで学校の裏事情的なのを聞いたらまあ、そんな大きいものはゲットできなかったけど、少し聞けたんだー」


 なんか、少しだけ興味ある。というか親が教師っていうのはすごいな。たしか前にスマホで見たことあるサイトには教師の年収って年齢にももちろんよるが、平均年収は普通の会社員よりもそこそこいいらしいと書いてあった(事実かは知らない)。


「親が言ってたのはうちの学校では会議中に普通におネムタイムの先生がいるみたい! 先生の寝顔……少し見てみたいな」


「おー、まじか! じゃあ会議中に寝たことある先生を徹底的に見つけて、今度からその先生の授業で堂々と寝ることにしよう」


 まあ、たしかにその事実を知られては先生も少しは言う言葉に詰まるかもしれないが、それを悪用するのは少し違うような気がする。ちなみに、流希は決まったことのように1日1回は必ず授業の時間に寝る。


「あとは――」


 流希のことを無視して(?)笛乃さんは話を続けた。


「防犯用によくテレビとかで警察の人が暴れる犯人を取り押さえるために使ってるさすまたが親の学校の職員室にあるんだってー」


「へー」


 思わずそう声が出てしまう。さすまたなんてニュース映像ぐらいでしか見たことないから少し興味がある。


 そんな話で少し盛り上がっていると、気づけば職員室の近くまで来ていた。

 

 





 



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