第4話 学校への侵入

 僕は昨日なんで流希のラインに『じゃあ明日行こうか』なんていう文を送ってしまったんだろうと一日経ってから強く思う。少し後悔している。

 

 だいたい何かを率先してやったり、危険を顧みずなにかをやる人が好きというのと、これは全く関係ないんじゃないだろうか。仮に関係あったとしてもそれだけで僕のことを好きになってくれるという保証もない。どうやら、あのときの僕は冷静さが欠けていたため、こんなことすら分かっていなかったようだ。


 だけど、今更行かないなんて言ったら流希は僕と絶交するだろうか。それじゃ恋だけでなく、友達との高校生活も失ってしまうことになる。だから仕方なく――少し覚悟を決めて僕は家を出る。なにかあったときはアイツのせいにすればいい。昨日そう言っていたのだから。


「どこか行くの?」


 2階から下りてきたお姉ちゃんに遭遇する。流石に、今から学校に侵入知るなんて言ったら成績優秀なお姉ちゃんはどんな反応をするだろうか。たぶん腰を抜かしてしまうだろう。それで、病院に行かれても困るので、適当な嘘を考える。


「ちょっと薬局に……」

 

 一番最初に思いついたのが、薬局だったのでそう言う。いや、待てよ……。


「ん? どこか具合でも悪いの?」


 なんで薬局なんか出したんだろう。確かに僕の頭の具合が悪いのかもしれない。これは重症だ。


「あ、違うちょっと友達の家に借りた本を返しに行くだけ」


 こっちを言うべきだった。色々僕の体はバグっているみたいだ。僕の修理が必要かもしれない。


「へー。そうか、じゃあ気をつけて」


「うん」


 僕はお姉ちゃんからの優しい言葉を受け取った後に外に出る。本当に僕ってやつは何がしたいのか自分でも分からなくなってくる。




「お、来たか」


 流希はスマホをいじりながら学校近くの電柱に当然のように寄りかかっていたが、僕に気づくと、スマホをポケットにしまい、僕にそう声をかけた。こいつが僕を変にさせた張本人だ。なんか表情が余裕そうで少しムカつく。


「流希、やっぱいるんだ」


「当たり前だろう。じゃあ、侵入するか」


 侵入自体は本当に本当に、なんで? て驚くぐらい簡単だった。これなら普通に侵入するために通えるぐらいの簡単さだ。求めていたわけではないが、スリルというものがまるでない。玄関から入っていったが、まだあいていたし、誰が来たときも分かりやすいような構造になってるのでバレる心配もなさそうだった。


 それにしてもこんなに静かな学校初めてだ。一応もうこの時間は生徒が本来学校に残ることができない時間を優に過ぎている。


「まあ、先生がまだ残ってるから1時間ぐらい適当に教室で時間潰すか」


「というか、帰りどこから出るの? 学校、閉められちゃうじゃん」


 僕は根本的な大きな問題を忘れていたっと思い、焦り気味に聞いてみたが、流希は

なぜだが顔一つ変えない。


「そんなの簡単だろ。1階の窓から出ればいけるだろ」


 僕よりも定期テストでは合計50点以上も差があるはずなのに、こういうことに関しては僕よりも優秀みたいで少し悔しい。普通に帰りも簡単に出られそうだ。


 僕らは自分のホームルーム教室に入る。もちろんだが電気も何もついていない。誰もいないこの時間の教室はこういう姿なのか。


「待ってる間、お菓子食べながら恋バナでもしない? 男二人なんだし」


「まあ、いいけど」


「じゃあ」


 そう言うと、流希は教室の開いているスペースに、袋に入っていたお菓子を置いて、座った。少しその袋を覗いてみると、せんべいや飴、クッキーなど色んな種類の

お菓子が入っていた。僕も床に座る。そしてまず手始めにオレンジ味の飴を口に中に入れた。


「じゃー、まず想之也のからいきますか〜? まあ、俺、お前の好きな人知ってるもんな」


 もう知られてるから別に隠す必要もないのだが、やはり自分の恋の話をするのは恥ずかしい。確か、僕の好きな人が逢望さんと気づかれたというか知られたのは、前、遠足が終わった後に男子4人で二次会をしたのだが、その時に流希がじゃんけんに負けたら好きな人を暴露だとかしょうもないことを思いつかれ、あいにく強制的に参加さえられたそのじゃんけんに負け、好きな人を暴露したのだった。今思えばしょうもないことで知られてしまったんだなと思う。


「じゃあまず定番に、好きになった理由なんか聞いちゃおうかなー」


 僕はもう勢いよく言ってしまおうと思い、せんべいを袋から取り出してがぶりとそれにかぶり付く。


「まあ、なんでかはよく分からないけど、理由があるんだとしたら――」


「可愛いからとか?」


 ふと流希が言葉を挟んでくる。確かに逢望さんは見た目もいいし、男子の中でもかわいいんじゃねという話はちらりと聞いたことがある。でも、僕は――


「確かに逢望さんの可愛いところも全く好きになった理由にないかと言われれば嘘になるかもしれないけど……でも、一番の理由は……少し前の話になるけどいいかな……?」


「うん、もちろん」


 流希は大きくうなずく。僕は一旦大きく息を吸ってあのときのことを思い出しながら語り始めた。


「じゃあ。少し前に電車が運休しちゃった時があって、その時偶然、駅に逢望さんがいて、待合室に入って運転が再開するまで話したんだよね。その話してる時がすごく楽しくて、ちゃんと話したのは初めてな人なのにさ、なんか自分のことちょっと恥ずかしいこともどんどん素直に言えちゃうんだよね。その時、自分の姿はこれなんだって思えて。だからそんな自分の姿でいさせてくれる逢望さんにその日に夜、恋してるんだなって気づいたんだ」


 人によってはこんなことで好きになるなんても少し考えたほうがいいとか、それは恋とかじゃないて思う人もいるかも知れないが、これが僕にとっての恋だった。自分でいさせてくれること……そういう人を僕は前から無意識に探していて、この時、見つけたんだと思う。


「たしか、数ヶ月前に遅刻して2人が一緒に教室に入ってきたことあったな……。その電車に乗ってきてるの、うちのクラスは2人しかいなかったから覚えてるよ。いいんじゃない、君の恋」


 たまには流希もいいこと言ってくれるじゃん。いいんじゃない、君の恋――か。


「じゃあ、流希は好きな人とかいるの?」


「俺か、俺の聞いてもつまらないと思うよ〜」


「いいよ、いいよ、話して!」


 たぶんこの感じ、この少し緩んでる顔……これはいるなと思い、僕は負けないように圧をかける。僕の恋は言ったのに、流希が言わないのは割に合わない。


「俺、想之也に言ってなかったけど、彼女いるんだよな」


「えっ、まじ! 今ちなみに、どんな感じ?」

 

 突然の報告に驚きを隠せない。急に先生が出産を発表した時みたいに驚いてしまう。いつの間にかできていたのか。こんなやつを受け入れてくれる相手はどんな人なのか日。流希みたいに少しやんちゃなのか、それとも、全くの正反対の真面目タイプか、それとも――

 

「うん。まあとりあえず最後まで聞いてくれ。でもな、俺ら最近別れたと言うか……一旦別れる結論にしたんだよな」


 聞かなかったほうがよかったかもしれない。僕は少し悪いなと感じてしまう。あまりこういう話題には僕は触れたくないので、違う話を考えていたが、その前に流希が話し出した。


「いや、だからそう言うんじゃないんだよね。一旦だから。なんかさ、わからなくなって、僕らが一緒にいる理由。つまりそれが何かって分かるまで一旦別れることにしたんだ。で、それがわかったらもいうっかい再開だ。ある意味猶予期間を設けたってわけだな」


「なるほど、そうか……」


「まあ、その事を伝えるために手紙書いたんだけど、何枚も書き直したからなー。実は1枚は机の中に入れっぱなしというね。あとで持って帰ろう」


「へー」


 意外とこいつも複雑な恋をしているんだな……単純にそう思った。


「ん? やべ、なんか足音が!」

 

 流希の話が終わった途端に、こっちの方に何か足音が近づいてくる。周りが静かなせいか、その足音が耳の奥まで入ってくる。急な出来事に頭の反応が正常でない。誰の足音なのかは分からないが、バレたら一大事だ。僕がどうしていいか何もできずにいると、流希が僕の手を引っ張った。



 

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